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〜特別取材:「rebuilding/リビルディング」〜

「ロッカールームではさすがに気落ちしていましたね。みんなが声を掛けたり励ましても、まるで岩のように固まって動かなかったんで。自分たちには悠悟の力が絶対必要なので、ちょっと話をして、また一から励ましますよ」

7月8日、湘南戦をドロー(1ー1)で終えた日立台の取材エリアで、メディア対応を終えた古賀太陽は試合後の立田悠悟の様子をそう伝えてくれた。

勝ちは無くとも悪くないスタートを切った今季

それもそのはず。遡ること2週前。立田は横浜FM戦で下された出場停止期間中の公式取材日でこんな心境を伝えてくれていた。

「横浜FMの選手たちが『今季一番イヤだった』と話すくらい、いい守り方ができていた試合で敗れてしまったのは自分の責任。次に自分が試合に起用されたのなら、言葉だけでなくプレーで示さなくてはいけない。『チームやレイソルを応援してくれている人たちの信頼を取り戻すチャンスを頂いた』という責任に対してプレーで応えなくてはという気持ちで準備を続けていきたい。自分にはそれしかない。また、自分を『レイソルの一員』と認めてもらえるように、また一段強くなる必要があると思っています。『立田のキャラ』みたいな言われ方をされますけど、そんなイメージを払拭していくこともこれからのテーマでもあるし。せっかく自分らしいパスを通すことができたり、貢献できていたとしても、自分の行動で勝点を失い、自分の価値や信頼も落としてしまったわけですから」

そんな強い気持ちを持って湘南戦に臨んでいた中での「一発退場」であり、6月の横浜FM戦の一発退場の記憶も醒めやらぬタイミングでの退場処分でもあった。2試合とも立田の退場後に試合展開だけでなく結果が一変し、併せて5つの勝点を失ってしまっている事実は重くのしかかり今夏に至る。その悔しさがさらに増すことは容易に想像できる。さらに頭部にダメージを受けて後半に途中交代した5月の川崎戦を含めると、ピッチを退いた回数は3度となり、試合終了の笛を聞く機会から離れてしまいがちだ。

「不運」のスタートは川崎戦の負傷交代だった

また、これまではどんな試合結果に終わろうとも、「自分には聞いてくれて構いませんよ」と取材エリアへ顔を出してくれていた立田は折に触れ、サポーターへの謝意や勝利への歓喜、リビルディング中にあるチーム内の感情や出来事を可能な限り伝えてくれていたのだが、この日の取材エリアへは顔を出さなかった。

その心中は察して余りあるものがあった。記者としては心中を一方的に慮り、状況を見守るようにこの原稿を終えることは可能であるし、猛省を即しながら期待を込めることだってできる。


…だが、何か違う。

2019年に古賀を通じて生まれたコミュニケーション以来、清水遠征でも可能な限りコミュニケーションを取ってきた。今季加入以降、語ってくれた数多の証言を明確な形にはしてこなかった。それは必ず「ひと山」作ってくれると信じていたからであるし、今でも「レイソルのキーマンの1人」だと思っている。むしろ、立田が置かれたこの状況を鑑みれば、現状以上の選手となるチャンスをかなり近くで目の当たりにする良い機会だとすら思っている。

ピッチ上での議論の場には必ず立田の姿がある

だから、その前に私たちはもっと立田のことを知り、理解していく必要があるのではないかと思ったのだ。プロに対して私たちできることはかなり限られている。取材音声を改めて聞いても、だいたい掛けている言葉は一緒だった。私は記者としてのアプローチを模索していた。

湘南戦以降の日程下で、普段の「選手対記者」のコミュニケーションからでは生まれない言葉以上の何かを探して、7月16日に国立競技場で開催された「J2リーグ第26節・清水エスパルス対シェフユナイテッド千葉」へ向かった。ここには立田のことをよく知る選手たちがいるからだ。

この日の清水の先発メンバーにはレイソルでも活躍したMF神谷優太と清水のキャプテン・DF鈴木義宜の名があった。立田より1学年上の神谷はUー21日本代表など年代別代表や清水で立田とプレーをしてきた同世代の間柄。鈴木に至っては立田自身が「リスペクト」を公言し、レイソル加入に際して同じ背番号50を選んだほど、立田にとっては「メンター」と言っていい特別な存在の選手だ。

髭を蓄え独特のムードを醸す神谷優太

街中で救急車を見かけるような酷暑の中での千葉との激しい試合を終えた国立競技場の取材エリアー。

まず見つけたのは神谷だった。この試合で力強い先制ゴールを奪った神谷はいくつかの取材対応を終えて、こちらに微笑んだ。

少し照れくさそうに「お久しぶりです」と目の前に進んできた神谷に対して恐縮ながら、この日スタジアムを沸かせたスーパーゴールへの賛辞もそぞろに、「最近の立田のプレーを見ている?」とマイクを向けた。

「見てます見てます!自分は今も柏レイソルというクラブが好きですし、毎試合見ていますからね。ただ、今季の成績には自分も驚いています。レイソルは選手だって揃っていて、良いチームじゃないですか。だから、『何でなんだろう』というのが正直な気持ちなのですが…」

神谷は立田を「すごくハイレベルなCB」と語った

こちらがついうれしくなるような前置きと、しばしの感情の共有をしてから、「今の立田の近くにいたら、どんな声掛けをするものなのか?」、そのような趣旨で仕切り直すと、神谷は立田についてこう言及してくれた。

「うーん、まず悠悟について思ったのは、『少し不運が続いてしまっているよな』ってことなんですよね。そこはまずあります。実力的な話をすると、自分は悠悟をすごくハイレベルなCBだと思っていて、ボールを繋ぐことができて、競り合いにだって、球際の強さだって持っている。このところ、レッドカードを出されてしまった試合が続いて…それらの試合では負けと引き分けというところですけど、それ以前はいいパフォーマンスが続いていたので自信を失わないで欲しいなって思っています。だって、誰が何と言おうと、自分たち選手は知っていますからね、悠悟が実力のある選手だってことを。だから、悠悟らしいプレーを続けていって欲しいですよね。必要以上にカードをもらうのは良くないですけど…かと言って、カードを気にしてプレーをして欲しくはないですね」

熱を含んだ素敵なエールを送る神谷の言動に頷きながら言葉を拾ってから、古賀の「まるで岩のように」という試合後の様子についてを改めて伝えると、神谷は「うんうん、大丈夫!」と頷きながらさらに話を続けた。

「もう気持ちの切り替えはできているんじゃないですかね。きっとメンタルの部分は大丈夫だと思います。周りのサポートも必要になるはずですけど、アイツはまず自分自身で立ち直ってくる、悠悟はそういう奴ですから、きっとそこは大丈夫です。どうなるか楽しみですね。また見てますよ」

そう言って、神谷が立ち去ると、取材エリアの回廊に鈴木が現れた。鈴木は清水番のメディアと試合を振り返っていた。

立田にとって「メンター」といっていい鈴木義宜

立田と鈴木。左右の違いはあれど、同じ背番号に同じポジションの選手。陣形の最後尾から仲間たちへのボディアクションや大きな声でリーダーシップを発して、全体のオーガナイズをコントロールする姿など、チームに於ける存在構造の共通性だけでなく、ゴールを決めた神谷をしっかりと捕まえて祝福する様子までも両者はよく似ていたのだからとても面白い。

そんな回想をするうち、記者たちの輪が解け、手荷物を抱え直し、歩き出そうとしていた鈴木を呼び止めた。過去に面識はなく、初めてのコミュニケーションだった。さすがに少し驚いていたようだった。

自己紹介の後、「今日は立田選手について…」とこちらの意図を伝えると、鈴木の表情が一瞬和らいだ。そして、鈴木に対しての問い掛けも、神谷の場合と同じく「今の立田が近くにいたら、どんな声掛けをするものなのか?」ー。

ピッチでの勇ましさと異なる静かな物言いで「そうですね」と応えてくれた鈴木はまず立田の現状についてを慮った。

「退場処分が2試合続いてしまっているということで、今はすごく苦しくて、精神的にもしんどい時期だとは思いますけど…」

まず、既に立田の「現状」が頭に入っている点に少なくない感銘を受けながら、鈴木の言葉に聞き入った。

「自分が声を掛ける立場だとしたら…何か難しいことよりも、『純粋に!何も考えずに!』って伝えるかもしれませんね。やっぱり、そんな時って、『今日もまた退場してしまうのかな…』って不安が過ってしまったり、ついつい良くないところに目や気持ちが行きがちなるものなので。まずそこを克服して、気負うことなく、自分やチームの良いところに目を向けて過ごして欲しいです。きっと、駆け出しの頃って、もっと無心で試合へ臨んでいたはずだと思いますし、なんというか、無駄な雑念を取り除いた状態で戦って欲しいですね」

最後には「元気出せよ、がんばれよ」とメッセージ

一度、相手の立場に立って、自身の経験を交えた優しい言葉を投げかけた鈴木はやがて立田のパーソナリティやポテンシャルにも言及していく中で「斑(ムラ)」という部分にフォーカスを当て、踏み込んだエールを送った。

「まぁ…アイツは、一言で云えば、『お調子者』ですけどね(笑)。そこがいいところ。でも、そうは言いつつも、悠悟は他の選手が持っていない能力をたくさん持っている選手ですし、負けん気があって、責任感もすごく強いタイプなので。自分の能力を信じて、その能力を常に表現できるようになって欲しいなって思っています。やはり、『ムラ』というのはこのCBの選手にとっては無い方がいいものであることは間違いがないんです。自分たちは特に『90分間を通じ、安定したパフォーマンスを出し切る。それを毎試合』ということが求められる仕事ですから…もちろん、CBというのは、まずは相手選手がいて、その相手選手たちのリアクションに直接晒され続けるポジションなのですが、『90分〜』というところは絶対に目指すべきですし、最低限そうならなければ、チームからの真の信頼を得られない。選手を選ぶ側からしても使いづらくなってしまうことだってあるものですし、性格的にカッとなってしまうところがあるので、『感情をもっとうまくコントロールできるように』と言ってもいいのかもしれませんね」

出発時間が迫る中、最後に数回頷いてからクラブバスに向かった鈴木は導線の向こう側から、こちらに振り向いて、こう言い残した。

「…あ、悠悟に『元気出せよ。がんばれよー!』って言っといてくださいよ」

きっと、こちらがどんな言葉をどんな文字数を用いて並べても、この一言に敵う言葉などない鈴木の素敵な伝言に対し、「分かりました!では、この取材を受けたこと、立田選手には内緒で!」と返すと、笑顔で右手を挙げ、バスの中へ消えていった。

オープニングアクトは静岡県出身の電気グルーヴ

時間にして20分ほどの取材だったが、神谷と鈴木に話を聞かせてもらってよかったという思いと、「ぜひ話してみてください、しっかりと対応してくれますよ」と背中を押してくれた清水エスパルス広報部・三浦雄也氏(元柏レイソルGK)に特に感謝しながら国立競技場を後にした。

その翌週の21日ー。

西陽が照り付ける日立柏サッカー場でのトレーニングを終えた立田を呼び止め、マイクを向けた。

再び戦線に復帰することになる立田

質問の主旨はストレートに。「なぜ、あのような結果に?」ー。

「今まで『やってやる』とか『これがラストチャンスだ』、『取り返すんだ、見返すんだ』と誓ってきて、その気持ちもしっかりとあったはずなのに、湘南戦でのあの場面では『怖さ』が勝ってしまった。自分の気持ちのどこかしらに怖さが残っていて、あのような結果になってしまったことは自分自身すごくショックでした。自分の弱点というか…チームに対して迷惑かけてしまう・試合を難しくしてしまう面を改善しなければ次はないし、今は『また1から』という意欲をリフレッシュできました。これからもチーム内の競争はあるし、練習から試合へのところの質だって求められる。強く意識していかなくてはという思いです」

ただでさえ、いわゆる「ボトムスリー」という居心地のよくない順位を彷徨う湘南との「6ポイントマッチ」。立田らが放つのロングボールに狙いを定めて中盤の配置をアレンジしてきた相手の術中の前に苦しむ中で一発退場。その後、「まるで岩のように」塞ぎ込んでしまった。立田はこの表現に対して、短く軽い苦笑いをしてから、再び口を開いた。

「太陽が『岩のように』と云っていたなら、それは自分が取るべき行動ではなかったですね。自分が試合を大変にしてしまったのに、そのリアクションをしてしまったわけですから、チームに対して本当に申し訳ない気持ち。自分はチームに迷惑を…ではなく、チームに活力であったり、勝利に近づくためにチームの後方から手助けをしていきたいと思っています。まずはその仕事を全うできるようにリーグ戦再開までしっかりと取り組んでいきたい…それと、自分1人では全てをこなすことはできないので、仲間たちと助け合って戦っていきたいですね」

「戦う姿を〜」と語っていた頃の立田

さすがにいつもの明るさは影をひそめていた。日立台の周りで蝉が何やら合唱をする中、立田は何度も深い息をついて、吹き出す汗を拭いながら、言葉を大切に選んで、こう話してその場を締めた。

「ピッチで取り返したい気持ち、見返したい気持ちに変わりはないです。でも、チームやサポーターのみなさんに『もう少し待ってください』なんて言えるわけないし、『自分が、少しでも早く、頼れる存在になれるように』って…今はそう思っています」

私が立田に話を聞いたタイミングは気持ち的なリフレッシュは済んでおり、気分的には前を向いた状態だったのだが、湘南戦の直後、「また励ます」と話していた古賀はいったいどんな言葉を立田に掛けたのだろうか。かつては自身も国際試合で大きなミスをした経験がある。奇しくもその際は相部屋だった立田の一言に救われた経験を持つ古賀は「気持ちはすごくよく分かります」と話を始めた。

2mほど右で取材を受ける立田に目をやり、声のボリュームをややコントロールした古賀は立田に訪れた感情の機微が手に取るように感じられる暖かい「証言」を買って出てくれた。

「あれから、いろんな言葉を考えて、悠悟へ声を掛けてみようとしたんですけど…『今回は』独りになりたかったみたいで。こっちが想像していた以上にショックがあったようです。でも、『あいつの責任』だなんてチームの誰も思っていないし、気落ちしている時間がもったいないよって。『おまえだけだぞ、いつまでも気にしてんのは』とは言いましたね。みんな気持ちは分かっているし、守備の選手たちなら尚更分かっていますし。あとは『これからの姿勢が大事になるよ』って話はしましたね。悠悟がチームに必要な選手に変わりはないですし、いつまでも気落ちしていて欲しくないですね」

「色々あるけど、面白いヤツなんですよ」と古賀

チームのリビルディング中の最中に起きた「立田のリビルディング」という章の終わりには、浦和レッズからの期限付き移籍でDF犬飼智也がレイソルに加入するという急展開も。

立田にとっては清水ユースの先輩筋の関係にあたる間柄。古賀は加入して間もない犬飼とチームについて話した他に、立田についてもいくつか話をしたという。そして、ちょうどそのタイミングに立田がその場に現れたのだという。

「多少、複雑な気分なのかなと思っていましたけど、少しホッとしたのか、『良い選手が来てくれた』って話していました。そんな話をしながら、きっと自分も秋野央樹くん(長崎)や中谷進之介くん(名古屋)が来たら、同じ気持ちになるはずだよなって思いました。やっぱり、先輩には良く見られたいものだから(笑)」

古賀が話す様子からは立田の気持ちの回復具合のグラデーションが伝わってきたし、古賀の成長やキャプテン像、2人の距離感までもが感じられた。少なくとも私には。

確か、2019年の「あの時」は、自身の過去のミスの際の経験を伏線に、「どうだ。オレの気持ちが分かったか?古賀!オレはもっと苦しんだ。だから、もっと苦しめ(笑)!」だった当時の「古賀のリビルディング」へ向けた2人のコミュニケーションは少しだけ時を経て、また絶妙な距離感にあるのかもしれない。だが、それはそれ。2人が良ければそれでいい。

2019年の立田と古賀(転載・悪用しないでね)。

ともあれ、今季の開幕直後、「まだ自分は何もしていないのに『レイソルに来てくれてありがとう』と言われて幸せだった」、「まだまだ少ないけど、シーズンが終わる頃には日立台は50番のユニフォームで埋め尽くされているはずですよ」、「自分たちに対して色んな意見があるのは分かっています。これからも自分たちを支えてくれる人たちのために戦うし、その姿を見ていて欲しいって思います」と発信するなど、立田は私たちに何度も勇気をくれた選手の1人であることに変わりはない。

そのクレジットは私たちの中にまだ残っているし、笑いたいやつには笑わせておけばいい。日立台での50番のユニフォームの増え方については多少スローダウンしたかもしれないが、君はすでに自分が思っている以上に「レイソルの一員」だと言えるし、フォーカスすべきは少し前よりも今現在。レイソルにはまだ「大仕事」が残っていて、私たちはもっと価値のあるストーリーを目の当たりにすることだってできるかもしれない。

さあ、いこう、立田。

時間はあまりないのかもしれないが、それでもどこか悠々と悟ればいい。これはチャンスだ。

最後にあの言葉を借りて、この記事を終わりにいたします。

「元気出せよ。がんばれよ!」ー。

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