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〜育成年代特集:希望的観測記〜


この秋、柏レイソルを中心としたJリーグのスケジュールとの兼ね合いを見て、「関東大学サッカーリーグ」と「高円宮杯JFAUー18サッカープレミアリーグ(PL)」での取材をしてまいりました。

一度、柏Uー18チームとしては「〜特別取材:今、人工芝グラウンドで起きていること〜」という記事を作成しましたが、今回は東京国際大学と筑波大学、柏Uー18の試合へ足を運びました。

東京国際大学サッカー部には来季柏レイソルトップチーム加入内定がリリース済みの熊坂光希選手。筑波大学蹴球部には田村蒼生選手が在籍しています。

両選手は揃って関東大学リーグのベストイレブンに選出されるなどの活躍を見せていたからです。

大学サッカー界はこれから「インカレ」期に突入していく時期なので、また兼ね合いを見つつ、足を運べたらと思っております。

そして、柏Uー18からは2選手をご紹介いたします。今回は田村心太郎選手と関富貫太選手について書きました。

どのカテゴリーでも、希望や光を放つ選手はたくさんいる中で、このような取り上げ方を模索しますと、さも完成した選手のように記事を進めてしまうものなので、取材タイトルは「希望的観測記」としました。

記事取材時から少し目を離すと、様変わりしているなんてことはよくあるわけで、ならば、現状の希望的観測をしてみようという記事となります。

今回は4選手ということでボリュームがありますので要注意なのですが、大学サッカーもプレミアリーグもまだ試合は続いていますので、この記事をチェックしていただいた方が両リーグに足を運ぶきっかけとなれば、取材環境を与えてくれた機構やリーグ、関係者にも恩返しができるのでは、と。
(2023年10月〜11月筑波大学第一グラウンド&日立柏サッカー場人工芝グラウンドにて収録・再編集)
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希望的観測記:「遅れて来た、その凄み。その意味」ー熊坂光希

<<東京国際大学/MF熊坂光希(くまさかこうき・大学4年生)>>

東国大ではキャプテンとボランチを務める

東京国際大学サッカー部所属MF熊坂光希が2024年より柏レイソルへ加入内定が発表されたのはこの7月だった。そこから遡るとこ1年半前、関東大学リーグ選抜として年代別日本代表との対戦を終えた落合陸はこんなことをレコメンドしていた。

「レイソルアカデミーにいたクマ(熊坂)は覚えていますか?今、東国大で一緒にやっていますけど、いいですよ。必ず『来る』と思うんで絶対に見てあげてください。見た目はちょっと(古賀)太陽くんに似ています。背の高いボランチですごく期待しているんです」

落合以外にも複数の選手や関係者、記者たちから「熊坂」の名は聞かされていたのだが、アカデミー時代の印象からすれば、少々意外なブレイクだった。

同期にはトップを経験してレベルアップを果たす途中の細谷真大や鵜木郁哉(水戸)、エースの奥田陽琉(早稲田大)らがおり、後輩の佐々木雅士や真家英嵩らが頭角を表していた、そんな個性豊かなサイクル下の世代の1人ではありながら、ユース年代トップレベルでの出場機会となると、ほぼ無かった選手なのだから。

いずれ熊坂にマイクを向ける機会が来たら、まず最初に聞きたかったのは「大学で何があった?」ということだった。そして、マイクを向けた。こちらの抽象的なクエスチョンに対して、大きな体を少し屈めて耳を傾けた熊坂は少し吹き出しながらこう答えてくれた。

試合中の走行力はなかなかのもの

「何があった?と言われても…(笑)。何があったのかというか、自分はUー18からトップチームへ昇格とはいかなかった選手ですし、アカデミー時代も試合に出ていた選手というわけではないので、東国大へ来て、『この4年でコンスタントに試合へ出られなければ、プロなんてないよな』と強く思っていましたし、1日も早く試合に出たかった。そこは前と違ったところかもしれません。アカデミー時代はケガをしてばかりでしたからね。急に身長が伸びたり、あの頃は成長期ならではの難しさがありましたし、すごく苦しかったですね」

冒頭の落合のレコメンドは熊坂が3年生になろうかというタイミング。その後は試合にも多く絡み、東京国際大自体も快進撃を見せていた頃。「熊坂に何があった?」とするならば、日立台では見つけられなかった熊坂自身の意識改革とパーソナリティを作り上げていた時期だったのかもしれない。

「アカデミーでのサッカーをずっと経験してきて、大学でまた全く違ったサッカーの中に入って、チームから求められることも違う環境で、『試合に!』という思いと、『選手として監督が求めることをいかに表現できるか』という点に集中すること、そのためにも、とにかくたくさんの試合に出ること。大学へ進んでからの意識はずっとそのあたりにありました」

自分が求めた環境で、リーグでも上位に迫る結果を積み上げながら、多くの経験を詰んだ185cm超えの大型の守備的MFに関心を寄せたのは複数の選手や記者たちだけではなかった。いわば、相思相愛だったレイソルだけではなく複数のJリーグクラブが熊坂へアプローチしていたと聞くが、熊坂は「レイソル加入内定」を決めた理由をこう話した。

「今回正式にお話をいただくことができて、レイソルへ帰ることになりました。それはうれしかったです。…自分のようにユース年代で苦労をしていたり、その他のいろんな理由で試合に出られなかったり、思うような成長を果たせなかった選手でも、『大学でがんばれば、そこで一から結果を積み上げれば、レイソルは見ていてくれて、プロサッカー選手になれるんだ』ということを示せていたらいいですし、自分がこの先に活躍できれば、昔の自分のような境遇にある選手を刺激や希望を与えられるのではないかとも思います。レイソルに帰ることを決めた理由として、その思いは大きなものでしたし、迷いはなかったです」

プレーを撮影しながらまず思ったのは、落合の言う通り、古賀に似ている角度があること、それ以上に田中陸(相模原)の表情と似ている…ひとまず、それらはいいとして…。

熊坂については2022年の薄らとした記憶と今秋の筑波大学戦のみしか見ておらずというところもあり、ここでは筑波大との試合中に記録していた、いくつか印象をまとめてみることにしよう。

・「サイズ」、「リーチ」は攻守に於いて個性的
・守備的MFだが、ゴール前へも強く進入
・勘の良い位置取りで守備陣の「+1」となれる
・浮き球やハイボールへの勇気や勝率も非凡
・試合前に見せていた強シュートをものにしたい
・いずれ「コーチング」という課題と向き合うはず
・密集地で奪ったボールの扱いやスキルはレイソルアカデミー

攻守で見せるダイナミックな所作は必見

熊坂のプレーエリアを「ヒートマップ化」すれば、「ボランチ」という立ち位置からプレーを始めて広域をカバーするタイプの選手だと言える。活動量があり、走れるビッグマンといった風情は特に印象的。

解析テック的に立体的な追究がなされない今はまだ「広域」との表現が妥当なのだが、是非とも、「高さ」に関する解析を見てみたい選手。 いわば、試合の記憶よりもスタッツで勝負出来る選手かもしれない。遠くノース・ロンドンではCBの選手が左ウイングで起用される時代。私がスカウト担当者ならば、「そのジャンルに属する選手」になるポテンシャルを感じていたことをレポートへ蛇足的に加えておいたはず。

そして、ここでは熊坂が語ってくれた、「東京国際大学でのここまで」は魅力の裏付けとして記憶しておきたい。

「守備についての要求が細かいチームだったので、運動量や球際で何をするべきか、攻守の切り替え…サッカーでは当たり前のことかもしれませんが、サッカー選手としての基本となるところを繰り返し、シンプルに続けてこられました。その結果、自分自身の中でも一番伸びた部分だと思います。自分はサイズもありますから、攻守でダイナミックなプレーもあるし、前線にも入っていける。アカデミーで学んだ個人戦術の部分は今も活きていますし、それにプラス守備での働きを肉付けすることができた。そのあたりはレイソルにも評価してもらえていると思っています」

この日は「大学サッカー界でも屈指のコレクティヴな戦い方をする筑波大学を相手にした対戦相手のボランチ」というシチュエーションからの観察となったのだが、レイソルトップチームへの練習参加での出来栄えを聞く中でもしっかりと自分の「立ち位置」を捉えていた。

「自分としては『ボールを奪って前へ!』というところはある程度感触がよかったです。そこは得意ですし、チャンスはありそうでした。あとはやはりJリーグのスピード感の感覚ですね。プロのスピードは速かったので。守備の細かな部分も、それこそ数センチの隙を突いてボールが入ってきますから、チームが求めるスライドやポジショニングを学びたいですし、自分でももっとできると思います」

筑波大学・田村ともガツガツと対峙

また、トレーニングの中で共にプレーした古賀は熊坂について、「パスの強弱というかフィーリングがすごく良かった印象がありますね」と話していた。その横にいた落合は「クマ、いいんですよ」とまたレコメンドしていた。

主戦場だった「第97回関東大学サッカーリーグ戦1部」ももう終盤戦。冬のインカレを終えて、年が開ければ、柏レイソルへ帰還を果たす身だ。そのあたりについてマイクを向けると、季節外れの高温下の試合を終えた消耗の中でも、その先を見据える覚悟はほど良い熱を帯びていた。

「自分が日立台でずっと見てきたレイソルは『強いレイソル』。レイソルに帰る以上は自分の個性を活かして、1年目から努力してチームの一員となって、レイソルを強くしたいですし、活躍したいです。(細谷)真大ともプレーしたいですね」

落合がレコメンドするだけのことはある大器だ

たとえ、大学のトップリーグで戦う熊坂といえど、まだ育成年代の選手に変わりはない。今後レイソルのプロたちの手にかかり、このような取材記録を大いに覆す活躍を見せることだって十分にあり得る素晴らしい原石であることもまた変わりはない。

そして、最後に熊坂が持つ、最大のポテンシャルをここに記すとすれば、迂闊に鼻にかけてしまうような煌びやかな実績こそ持たないが、「レイソルに見つけられた」という煌びやかな成功体験を持っていることは誇っていい。

子供の頃から纏っていたあの左胸のエンブレムの価値を知る選手が、あのエンブレムを纏うことに新たな意味を足そうする選手となろうとするならば、そんな選手を期待せずにはいられない。「関東大学リーグベストイレブン」という手土産を携えて帰還するなら尚更だ。

希望的観測記:「小僧、遂に勝つ」ー田村蒼生

<<筑波大学/MF田村蒼生(たむらそうき・大学3年生)>>

筑波大学へ進んでも田村に流れる「イズム!」

筑波大学蹴球部でプレーするMF田村蒼生をご存知の方も多いだろう。柏レイソルアカデミー時代には第2種登録もされていたアタッカーで、柏Uー18では背番号10を付けていた。

もしも、まだ分からない方がいたのならば、2022年の天皇杯2回戦でレイソルの対戦相手として日立台へ舞い戻り、DF大南拓磨(川崎)を1対1で抜き去り、右足から見事なシュートを放ち、松本健太が守るゴールを脅かし、試合後には感極まり、泣きじゃくっていた選手だと付け加えれば、もう分かっていただけるはずだ。

そんな田村は今から約2ヶ月前の夏のある時期、レイソルトップチームへの練習参加を果たして、久しぶりに日立台でのトレーニングに興じていた。

それ以外にもインカレや関東大学選抜の舞台で顔を合わせていた数年前から、「布部(陽功・柏レイソルGM)さんからの電話が来るようにがんばります…電話?欲しいですけど、まだ来ないです。ずっと待っています」と話していた田村にとっては、さぞ待望の練習参加だったことだろう。

そのある日の練習後には「シュートが入っていなかった?いやいや、奥のコートで3本決めています。よく見ていてくださいね」とスパッと切り返してくるなど充実した様子だった。

今あるものを全て出した流大戦の田村

そんな田村を訪ねたのは10月14日に筑波大学第一グラウンドで開催された「第97回関東大学サッカーリーグ戦1部」14節・流通経済大学戦だった。首位争いを展開する首位・筑波大と2位・流経大というシチュエーションでむかえたこのダービー。1500人を超える観衆が詰めかけた、この一戦を筑波大は3ー0で突破。優勝への大きな一歩を踏み込んだ。

田村はトップ下で出場して、前半に1アシスト。CKの流れから、右サイドから逆サイドのポスト際へシュート性の見事な「デ・ブライネ」クロスを放ち、チームの2点目を演出していた。後半には決定的なゴールチャンスも訪れるなど、チームの中心として堂々のパフォーマンスを見せていた。

少年時代から、ボールを持てば、いわゆるサイドアタッカーが駆け抜けるレーンよりもやや内側から相手ゴール前へ潜り込んでいく強気の高速アタックを仕掛けるドリブル小僧だったが、その面影は今も健在。だが、特筆すべきは守備局面に於ける献身性だった。多少バランスを崩してもボール保持者へ迫る姿は印象的だった。

ただ、「どこかで見たことがある」プレッシングのタイミングやハードワークでもあった。試合後の田村に「レイソルへの練習参加」について聞く中で、その既視感の答えはあっさりと出た。

「レイソルの練習の中でも、バイタルエリアの中で前を向けて仕掛けられた時は通用している手応えを感じていました。ライン間を使ってみたりとか、細かな技術で相手を外すこともできた感触があったんです。そこは自信になりましたが、守備に関するところは自分の課題です。細谷真大や山田康太くんのように、ずっとハードワークを続けること、1回のプレッシングで終わらずに連続性を持って追い掛けるところは純粋に『すごい』と感じて、筑波大学に戻ってきてからも意識して取り組んでいるんです」

喜怒哀楽、涙。感情表現の豊かさも特長

ダービーが持つ性格がそうさせた部分もあるが、レイソルから持ち帰った「守備意識と連続性」という課題を謙虚に受け入れ、筑波大学のサッカーの中で実践しているという。しかも、独りよがりなそれではなく、効果的なハードワークとして。

「自分の特長は『攻撃の連続性』や『バイタルエリアでの仕掛けからゴールとアシストを生み出すこと』です。そこはしっかり出せた上にこの夏にレイソルで学んできた守備の課題を大学のうちにクリアしておきたいです。今日の試合は首位攻防戦でもあり、流大とのダービーでもあったので気合も入ってはいましたが、相手に強くプレスにいくことは意識していました。『守備の連続性とその強度』は自分のこれからに絶対必要になるもの。『それが自分に足りていない』という刺激をレイソルから持ち帰ってきた。公式戦で課題にトライできるのが大学リーグという環境の素晴らしさなので。筑波にも他の大学にも良い選手も多いですし、もっとレベルアップしないとという思いです」

「4231」システムの「3の中央」を担う田村には守備のハードワーク以外にも攻撃やゴールへのたくさんのタスクを担っている。アカデミー時代にもサイドではなく中盤での適正を示していた過去もある。この田村の配置には納得である。だが、どんなアカデミー卒業生にとっても「大学での活動や活躍」というチャプターは今までとは異なる道筋となる。

田村で云えば、筑波大学蹴球部という場所はレイソルアカデミーの延長線上にあった場所ではなく、新たな世界だったという。たとえ、ひと足先に筑波大に進んでいたアカデミー出身者である加藤匠人や森海渡(徳島)が同じチームにいてくれたというアドバンテージがあったとしても。

「レイソルアカデミーには9年間いましたから、それこそ自分がどんな選手なのか各年代の監督やコーチたち、チームメイトにも知ってもらえていた。その恵まれた環境から筑波大学へ来て、新しく、ゼロから自分のことを知ってもらう難しさはずっとありました。新たな環境の中でプレーで示す難しさが。周りからは『試合出てるじゃん』と言ってはもらえる印象を残してはいても、結果を残せていない苦しさと戦ってきた。その苦しみがあったので、今年は特別な思いがありました。ここまで7ゴール1アシストを記録できてはいますけど、ゴールを2桁に乗せたいんです(9ゴールまで達成。リーグ3位)。今はトップ下でプレーさせてもらっていますから、ゴール数もアシスト数ももっと意識していかないと。少し言葉は悪いかもしれないですけど、多少がめつくてもいいんじゃないかと思うので」

明らかに有望。ベストナインはその勲章

11月4日の東京国際大学戦に勝利した筑波大学蹴球部は「第97回関東大学サッカーリーグ戦1部」6年ぶりの優勝を決めた。

その試合の中でも田村は数回の決定機を迎え、見事な動き出しからテクニカルなシュートやブレ球シュートを放ったがノーゴール。待望の10ゴール達成はお預けとなったが、果敢に右足を振る、その「がめつさ」は印象的だったし、うれし涙も悔し涙も流さず、最高の笑顔を見せていた。

リーグベストイレブン受賞が証明するように、明らかに有望な選手だ。だが、まだまだ成長の余地がある。目指す場所があるのなら尚更だ。そんな選手として最高のシチュエーションにある田村は己がこの先に目指す場所をこう語った。

「今もレイソルの動向を常にチェックしていて、試合もずっと見ていますから、影響も受けていますし、自然に自分の姿を投影していたりもします。真大はすごいっす、あの人は…だから、『真大をこうやって使いたいな』とか『このポジションならどうしよう』って想像しながら。自分にとって、レイソルは憧れ…ではなくて、自分もレイソルのために活躍をして、ゴール裏に飛び込んでいくような選手になりたい。そんな刺激をもらっています。自分の中で柏レイソルは『必ず帰らなきゃいけない場所』なので、守備やハードワークの課題もそうですし、もっともっと成長したいです。…なんで、天皇杯で泣いたか?また聞く?あの時は…つい、悔しくて(笑)」

「自分が育った場所」から離れた少年にとって、いつしか日立台は「帰るべき場所」となった。それこそ涙を堪えきれないほどのこだわりがある場所へ帰るためにクリアすべき課題はまだまだある。

付け加えるならば、アカデミー時代には「タイトル」に恵まれなかった選手でもあった。だが、今は誰もが羨む「勝ったことがある」経験がある。素晴らしい環境でレベルアップもしている。足りないものを受け入れる謙虚さもある。ただ、憧れの日立台へ踏み入れるためのゲートがそう簡単には開かないことを知っている。じゃあ、どうする?そんな田村の現在地を目の当たりにした秋だった。

取材を終え、グラウンドの片隅で田村の膝に巻かれたテーピングについて話をしながら、何度か「この膝を見ると、プロ入りなんて無理では?」と指摘すると、「いや、できます!これは予防なんで!」とスパッとやり返してくるヤンチャ小僧ぶりは田村の良さ。

「イズム!」

でも、蒼生。たまには涙も流していいんだよ。

希望的観測記:「申し子、ここに極まる」ー田村心太郎

<<柏レイソルUー18/MF田村心太郎(たむらしんたろう・高校3年生)>>

柏Uー18が誇るPLの申し子・田村心太郎

「高円宮杯JFAUー18サッカープレミアリーグ2023EAST(PL)」を戦う柏Uー18。夏場以降の快進撃については以前に触れたが、その後も順調に勝点と実戦経験を積み重ね、まだ見ぬ自分たちの新しい姿を力強く追求している。

その中でも、第19節の流通経済大学附属柏高校戦は彼らにとってのマイルストーンと言っていい圧巻の試合だった。「柏ダービー」と呼ばれて久しいこの難しい試合を事もなげに完勝(4ー0)するなどこのチームに生まれた勢いを実力に変換してみせた試合だった。

彼らが醸すその勇ましいムードの中にあって、異彩を放つレフティーについて触れてみたい。

まずは柏Uー18チームの背番号5。中盤の底…いや、センターMFの田村心太郎だ。フォーメーション図上では中盤の底、いわゆる「ボランチ」として表記されるはずの選手ではあるが、攻守の切り替え、またはボール保持時の主役として目に留まる選手である。柏Uー18が見せている「力強く良い守備から力強く良い攻撃」のその中心で冷静に、淡々と、ハイレベルなタスクをこなす。

この流経柏戦ではPL・EAST得点ランク急上昇中の大型FW近野伸大と素晴らしい初速と反応の良さで展開をこじ開けるワッド・モハメッド・サディキを上手く操るなどの攻撃と守備局面での素晴らしいボールへの執着を見せてチームの勝利に貢献していた。

粘り強いボール奪取でも貢献できる

田村は自身の出来をこう振り返る。

「今はチームとして『先制点が大事』という意思疎通がある…それと、このカードはオープンな試合展開になる傾向があるので、そのあたりを頭に入れながら、中盤から周囲へボールを散らしていけたらとは思っていました。全体的に流れの中で良い攻撃ができていましたし、ノブとモハというFWの2人が能力的に優れていることはこのチームの強みとしてあって、どのように機能させるべきは分かっているので、今日は特にFWの2人を中心に攻撃することを考えていました」

マイルストーンとなった流経柏戦での田村

さらにこの流経柏戦では、リーチのある近野には収まりの良いボールを、ワッド・モハメッドには裏への配球。ひとたび、遅攻となれば、ポゼッションの中心となり、戸田晶斗や吉原楓人の両サイドアタッカーを丁寧に活用するなど圧巻のパフォーマンスを見せた。今季の田村はしなやかで良いルックアップの姿勢から長短のパスを供給するだけでなく、密集地でのボール奪取でも貢献する。また、密集地からシンプルなタッチのパスやオープンな展開に持ち込みたい相手チームが放つ矢印を鮮やかにいなすドリブルから展開を作り出せるなどの「違い」を放っている。

そのパフォーマンスを生んだのは田村の中にあった意外とシンプルな手立てや心掛けの積み重ねだったという。

「とにかく、まずは『ボールを拾って、散らして』という思いでした。左右のサイド攻撃も自分たちの特長ですから、そこも常に意識をして。『ボールを拾って、散らして、できる限り自分が試合を動かしていく』ことを考えていたのですが、今日はそれがうまくできました」

田村が見せるシンプルな手立ての源。それは彼の中に蓄積している豊かな「経験値」。田村は1年生時からこのPLで戦っている唯一の選手でもある。2年前の田村は田中隼人と真家英嵩、升掛友護(愛媛)らの世代の中で守備的な経験を積み重ねていた。その頃のある試合後、少しだけ肩を落とし歩む田村に話しかけると、どこかぶっきらぼうにこう答えたことをよく覚えている。

「本当は中盤なんですけどね、ボランチがやりたいですけど、今はCBをやっています」

密集地で放つ余裕は経験のある賜物

サイズや自身の特長的にも、3CBの左の選手として苦労することもあった。あの頃は気持ちの切り替えに時間がかかることもあった。きっと私たちには見えない悔しい経験も数多くあったはずだが、その当時から守備から攻撃へのシステム可変時に見せる縦パスやミドルパス、ボールタッチには光るものがあった。そもそも、年代別日本代表の経験だって持ち合わせている選手が、このステージで磨いてきた心技体の鍛錬、その積み重ね、その結集が今季の活躍に繋がっていると田村は自身を推測する。

「自分はこのリーグで、もう3年の間、プレーをさせてもらっていますから、実際の視野とか感覚的にも、今はピッチが以前より広く見えているなと感じているところがあるんです。PL3年目の今年にプレーしていて思うのは、『経験値って大事だよな』ということなんです。自分で云えば、試合ごとの流れや出来に応じて、『この流れならこうしたい』という試合もあれば、『この流れをなんとかしないと。変えないと』と感じて、プレーをしていた試合もありました。その日の試合の中で、『今は急ぐべき時』とか『ここはスローダウンするべきだ』といった判断を感覚で感じ、選べているんです。今日の流経柏戦ではその感覚や判断が一番良かったと思います」

修羅場をくぐり、研ぎ澄まされた感覚は田村の中で広がりを見せ、チームメイトたちの好パフォーマンスを引き出す一役を果たすことにも繋がっているという。

「試合のメンバーとその試合によって違いますし、当たり前なんですけど、プレーする選手それぞれ特長も違いますから、どちらかと言えば、そのパートナーの特長に合わせてプレーすることを頭に置いています。今日はDFの伊達歩由登がパートナーでしたから、伊達が守備的な仕事を引き受けてくれるので、自分は積極的に攻撃へ関わっていこうと狙っていましたし、その狙いがうまくいきました。メンバーが変わっても、自分は3年間、本当に色々な選手たちと実戦を戦ってきたので、試合ごとのパートナーの個性や特長に合わせられるようになってきたことも、自分の中では経験値として捉えています」

今の田村の魅力は美技の中にある「強さ」。

田村にとって3度目のPLも最終盤を迎える。夏からの躍進の結果として4位に浮上したが、数字上、勝点の計算上はこれ以上の上位を望むことはできないのだが、この魅力と原石たちの塊のようなチームには目指すところがある。

「このチームが目指すところは『誰が出場しても強いチーム』。まだ完璧とは言えなくても、着実にそこへと向かえているはずなので、この調子で続けていきたい。残り試合も全て勝ちます」

3年生が少ない世代の中で、下級生時代からの積み上げを見事に発揮する田村の姿は感動的ですらある。

一度、「苦労をしたが、続けてきて本当によかったね」と声を掛けたのだが、「…まぁ、そうっすね」と、あの時のように、ぶっきらぼうに返してきたところも、今となってはなんだか愛らしいが、下級生の出場機会が多く、ユース年代トップレベルの実戦経験者が多いこのチームにあって、後に続く後輩たちが登るべきハードル、表現すべき基準を田村が静かにグイッと高めていることを下級生たちは知るべきだ。

柏Uー18にいる「PLの申し子」田村心太郎、彼は本当に強くなった。

希望的観測記:「感受性。可能性。ハイブリッド」ー関富貫太

<<柏レイソルUー18/MF関富貫太(せきとみかんた・高校3年生)>>

レイソルアカデミーの10番関富貫太

局面で「違い」を放つという意味では田村心太郎に匹敵する印象を与えるMF関富貫太も2023年に於ける「発見」の1つだった。

初めて関富を見たのは右MFとしてだった。手数は派手ではなかったが、右から逆足でゴールへ迫る姿にあった華は突出しており、「自分がどのようにボールを扱い、どこへ動くべきなのかを知っている選手」。そんな印象を抱き、期待を寄せていた。そして、やはり、その容姿にも衝撃を受けた。

ただ、関富が放つテクニカルなスペックを丁寧にここに挙げて、「彼は優れている」というようなレポートを綴るための情報量にかけては傑出した選手ではあるのだが、関富の真の魅力はその内側にある。

関富はUー18チームのスポークスマンの1人でもあった。チームにあった出来事や新たな取り組み、チームの感情、後輩たちのキャラなどをユニークに伝えてくれる存在なのだが、これらの表現力やその手前にあるコミニュケーション力は彼の未来を明るく照らすのではないかと思う。

黒子に徹することで勝利に貢献する10番

例えば、PL19節・流経柏戦の試合後にはこの試合に秘めていたこんな思いも伝えてくれた。

「今日は特別な思いがありました。以前、自分も所属していた『ニッタイ(日本体育大学柏高等学校)』は千葉県の選手権予選を勝ち上がっていて、いつも彼らの戦いから勇気をもらっているので、今日は『この試合で自分たちが勇気を与えられる結果を』という思いを持って戦った試合。今日は勇気を与えられたかもしれないです」

「エモい」ー。

間違いなく、そのひと言で片付いてしまうのかもしれないが、関富という青年の人となりを説明するに十分なエピソードだった。

ピッチでボールを持てば、精度の高い左足からボールを放てるし、自ずとボールが集まってくる選手でもあるのだが、涼しい顔して仲間を操るパスを出して満足してしまうタイプでもない。むしろ、仲間の良さを引き出すために黒子に徹することもいとわない。

「自分たちは『常に主体性を持った攻撃を』と続けてきています。今日で云えば、序盤はサポートする意味でフリーランをしていましたが、自分の前方でプレーしている吉原選手のドリブルが最初から良かったので、自分が前へ入っていくよりも、『仕掛けろ。もっといけ』と何度か言いました」

このコメントは流経柏戦のもの。この日、関富は左サイドに張り出したきら星のドリブラー・吉原楓人の突破力を引き出す選択をしていたという。事実、吉原は幾度となく戦況をこじ開けた。

仮に吉原が関富へのバックパスを選べば、CB池端翔夢やMF田村心太郎らと改めてビルドアップできたはずだが、吉原が相手の陣形を横に広げて、発生したスペースに関富やFW戸田晶斗らが潜り込む。ただでさえ、中央にはリーグ屈指のビッグマン近野伸大が構えている。その構造上、対応する守備者たちの選択肢は限定される。それほど、吉原は面白いように切り刻んだ。

関富自身も攻撃参加を見せたが、吉原に対しては前方を指差してアタックを要求。左SBとしては、多少苦労をしていたものの、「右MFについては『次のステージ』まで封印ですね」と話すなど、今は左SBに夢中。事実、本来SBではないMFの選手が務めるSBの割にはうまくやっているし、関富が見せる「SBだがSBではない」ハイブリッドなプレーはチームの重要なディテールとなっている。

今は新たな持ち場・左SBに夢中

そして、PL20節・尚志高校戦の試合後にはー。

「今日は自分たちと尚志、『後半戦の成績の首位を争う』という意味もあった試合でした。今日勝つことは重要でしたし、後半戦首位で今季を終える意味でも負けたくなかった。でも、個人的には序盤にミスがありました。メンバーが違うこともあり、ゲームの『作り』の部分に戸惑いがありました。対策も練られていたこともあり、自分の『立ち位置』がうまく見つからず、空回りをしていた気がして、DFラインと藤田さんとで、『取りたいスペース』、『そのための立ち位置』、『相手の誰を釣り出すか』をしっかり整理して後半は修正できました」

相変わらず、スポークスマンとして頼りになる一面を醸しつつ、自身に起きていた事象と感想、対策の一部を伝えてくれた。なにしろ、この日はCBの池端が欠場。関富にはDFの統率も求めれていたのだが、そんな難関も無失点で越えてみせた印象がある。今夏より増え続けている無失点試合の数は今の関富にとっては勲章だ。

「SBとして、守備はまだ不安もありますし、危ない場面もありますが無失点で終えられてよかった。試合中に押し込まれる場面はどうしても起きるものだし、練習試合でも経験してきた。DFラインで自分なりに近くや周りの選手を動かしながら、適切な場所でボールを奪うような守備を学んでいます。悪く言えば、『自分が楽をする』じゃないですけどね…まぁ、そこは得意なんで(笑)」

そう悪戯に笑う関富と数ヶ月の間、コミュニケーションを取る中で、いくつかの発見があった。

この経験を活かす最適解となるポジションとは

まずは優秀なスポークスマンであること。

絶対にモテる。人にモテ続ける。

常にどこか達観していて、客観的に自分たちを見ているが、「冷めている」タイプではない。

この年代の中の「格」的にも、間違いなく「ある水準以上にある選手」であるが、SBへのチャレンジで本来の「ゼロからチャンスを作る力」を極めるには至らず、育成年代に於ける「ある一つの完成」まではもうしばしの時間が必要と見ている。

ポジション柄、守備局面に晒される機会が増え、選手としてのバランスが良くなっているが、前述した通り、左SBとして「SBらしいプレー」をしているつもりがないところは特に良い。

また、ある時には、「確か前回は…ニッタイの話とか攻撃について話をしましたよね」といった具合に互いが交換した会話をしっかりと覚えていた。何げない、そんな振る舞いを見るにつけ、この年代に於ける関富の最大のスペックは彼の中にある「豊かな感受性」だと記したい。

それと共に感じたのは新たな可能性もあった。それは「センターMFとしての可能性」だ。

「センターMF…ボランチですよね。うん、実は自分もそれを感じながらここまでやってきています。チーム状況や選手たちの個性もそうですね、それらがあって、自分は今、左SBを務めているのですが、『自分がボランチだったら、こういう風に…』って思いますし、戸田選手のようにボールをさばいていくことも得意なので、『面白そうだな』って思っていますよ。でも、同じような判断はSBでも狙えますからね」

様々な可能性を示しながら、日立柏サッカー場人工芝グラウンドを巣立つ者の1人として、関富は最後に描くビジョンをこう話した。

「前にも話をしたはずですが、『複数のポジションでプレーできる選手』という存在は監督やチームにとって強みとなれますから、その可能性を高めていきたいですし、どこのポジションで起用されても、『そのポジションでできる自分らしいプレー』が出せる選手になりたいですね」

関富が持つ現状の最大スペックは「感受性」

藤田コーチが関富にその可能性を感じて、左SBへのコンバートを命じたかどうかは分からないが、関富が話す、その2m先にはたくましい藤田コーチの後ろ姿。

その真意を突き止めるのは比較的容易だったが、藤田コーチの背中に目をやりながら、「パっと見は怖いけど、いつも優しく寄り添ってくれて、みんなが感謝しています。大好きな人です」と微笑む関富の様子を見て、両者の間に流れる文脈や時間に踏み込むのはいささか筋違いだと感じた。

ともあれ、「ニッタイ」から「アカデミー」へ。そして、「右MF」から「左SB」へ。そもそも、出身は神奈川県の子だったりする。不思議と1つの場所に留まらない星の下にあるのもユニーク。

関富貫太よ、君が次にどこへ向かうにしても、その向こうに何が待ち受けているにしても、大丈夫だ、「感受性」に従え。

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