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私たちの体は星の成分でできている!?BossBトーク#1 馬場彩さん(X線宇宙物理学者)

「地球が丸い理由とは?」「ブラックホールは黒くない?」など、ユニークな視点から分かりやすく宇宙や物理学を解説する動画で人気のTikTokクリエイター「天体物理学者BossB🌟💫」さん。

信州大学工学部の准教授でもあるBossBさんが、さまざまな分野で「夢・ビジョン・ロマン」を追いかけて活躍する方々を招いて対談する「BossBトーク」がはじまりました。
第1回目のゲストは、東京大学物理学科の馬場彩准教授。天体が放射するX線を観測して宇宙の謎に挑む、X線天文学の専門家です。

2020年には物理学分野で最も活躍した女性に贈られる米沢富美子記念賞を受賞するなど、めざましい活躍をされています。「宇宙がアツい!」をテーマとした対談はTikTok LIVEにて、2022年5月26日21時から配信されました。
TikTok LIVEの当日の視聴数は、なんと 1万6732回を記録。計1万5000人以上の方がLIVE配信を視聴し、コメント欄も大盛り上がりとなりました。

「星の爆発」は、新たな生命のはじまり

BossB:こんにちは!今日のゲストは、なんと日本のX線天文学をリードする、東京大学物理学科の准教授、馬場彩さんです。今日はよろしくお願いします!みんな、ハートあげて!

馬場:よろしくお願いします!

BossB:あ、たくさんハートが来てますよ。では、いきなり質問にいきます。馬場さんは、なぜ星の爆発が好きなのですか?

馬場:そうですね、一言でいうと「派手やから」です。

BossB:ということは、私のことも好きですか?派手だから。

馬場:はい、大好きです(笑)。せっかくなので画像をお見せしますね。

BossB:お願いします!

馬場:これは1682年に爆発した星の残骸です。約400年前に爆発したんですけど、今もこんな風にきれいに見えます。さらに写真を比べると、今でも膨張してるのが分かるんです。

BossB:すごい!

馬場:何千年も爆発が続いて広がっていくというのは、派手でかっこいいですよね。また、この爆発は、ひとつこの世が終わった景色。これは美しいなというのが第一印象でした。さらに、もうひとつ大事なことがあります。写真の緑色に見えているところは、マグネシウムやシリコン、赤いところは鉄が飛び散っているところです。

BossB:なるほど。

馬場:星というのは、生きているときに酸素や炭素といった重元素を作るのですが、爆発によってそれをばらまいてくれるんです。そうしてばらまかれた元素がどこかで集まって、そこにできた惑星に私たちのような生命が生まれてきます。つまりスライドにはかわいい赤ちゃんの写真がありますが、我々はみんな「星の子」なんです。どこかの星の死と私たちがつながっていると考えると、ちょっとロマンチックじゃないですか?

BossB:ロマンチックですね。ちなみに馬場さん、この星の子ちゃんはちょっと昭和な雰囲気がありますが、どなたなんでしょうか?

馬場:私、わたし。

BossB:だと思いました!とってもかわいいです。お顔が今のまんまですね(笑)。

馬場:ありがとうございます(笑)。

馬場さんお気に入りの爆発は?

BossB:ではここで「星の子クイズ」第一問!ここに4つの超新星爆発の残骸がありますが、この中で馬場さんが最もお気に入りの爆発はどれでしょうか?1番はティコ、2番はかに星雲、3番はSN1006、4番はケプラーです。あ、どんどん答えが来てますね。2番と4番が多いです。

馬場:あらあら。

BossB:では馬場さん、答えを教えてください!どの超新星爆発が好きですか?

馬場:私が好きなのは3番、SN1006です!

BossB:えーっ!みんなもびっくりでしょ!? 4番きれいなのに、と言っている人もいます。どうして馬場さんはSN1006が好きなんですか?

馬場:3番って、実は藤原定家が「明月記」に記録を残していたりします。あと、私が最初に論文を書いて評価されたので、私を出世させてくれた天体でもあるんです。

BossB:おおー。視聴者さんから「梅干しやんけー」と来てますが。
馬場:え、これどうみても「ニカッと笑ってるおじさん」じゃないですか?

BossB:えー、そうかなー。この星に関して、どんな発見が馬場さんを出世させてくれたのか教えてください。

馬場:SN1006は、1006年5月1日に爆発したということが分かっています。たぶん、人類が見て記録に残した中で一番明るかった超新星爆発の残骸なんですね。例えば、夜でもこの星の光で本が読めたり、影ができたりしたくらいです。

BossB:うおー、やば!

馬場:そして、この星の左上と右下が白くなっていますよね。ここが宇宙線という放射線を作っているのですが、ここがめっちゃ細いということを私が発見したんです。

BossB:ほー。すばらしいですね。

馬場:私が発見する前は、超新星爆発の残骸はもっとぼやっとしたものだと考えられていて、こんなに美しいものだとは思われていなかったんですね。

BossB:なるほど。ところで、なぜこのスライドにベテルギウスの写真があるんですか。

馬場:この星も、少しずつゆがみはじめていますよね。もうすぐ爆発するんです。私たち天文学者の「もうすぐ」は、100万年以内という意味ですが(笑)。このベテルギウスが爆発して1000年くらいたつと、SN1006のようになります。

体を構成する元素も、星の爆発でできた!?

BossB:次の質問です。先生のお話によると、私たちの体の成分は星が作ったということです。例えば、私たちの体の約65%は酸素原子ですが、その酸素原子がどの星から来たのか、追跡することは可能なのでしょうか?

馬場:1個1個の元素がどこから来たのかは分かりません。というのも私たちの体を構成する元素は、地球ができた46億年以上前に爆発した星が生み出したものです。その星は中性子星か現在ブラックホールになっているはずなので、現時点では追跡は難しいです。

BossB:でも、連星であれば、いずれは追跡できるようになりますかね?

馬場:もしかしたらできるかもしれません。

BossB:では「星の子クイズ」第2問です!1問目で紹介した4つの超新星爆発のうちSN1006は藤原定家の「明月記」に記録が残っています。実は残り3つの中に、もうひとつ日本の書物に記録が残っているものがあります。それは一体どれでしょうか?1番、2番、4番の中から選んでください!お、2番が多いですね。では馬場さん、答えを教えてください!

馬場:はい、答えは2番のかに星雲です!みなさん大正解です。この中心に中性子星というのがあって、山手線の直径と同じ半径約10キロの中に星の質量が押し込められて、1秒間に33回転も自転しているという恐ろしい星になっています。

BossB:すごい。「これ好き」っていうコメントが来ていますよ。
馬場:かっこいいよね。

注目プロジェクト「XRISM」とは?

BossB:今日のテーマ「宇宙がアツい」の意味が分かってきたでしょ。馬場さんは、星の爆発というとても温度が高い宇宙を研究しています。さらに馬場さんは、現在最もホットな国際宇宙プロジェクトのひとつ、2022年度に打ち上げ予定のX線宇宙望遠鏡「XRISM(クリズム)」のコアメンバーのひとりなんです。企画から開発までずーっと携わっているんです。すごくないですか!? そこで質問です。XRISMはどんな宇宙望遠鏡なのですか。

馬場:XRISMは、スライド右上にあるような形をしています。鳥さんみたいでかわいいでしょ。上に望遠鏡があり、お腹の中にカメラが入っています。このXRISM衛星は、ありとあらゆるX線天体を観察できます。中性子星や超新星爆発の残骸から、銀河中心にある活動銀河核、宇宙最大のガス構造である銀河団まで観測できるんです。何がすごいかというと、スライドにあるようなスペクトルの精度がすごいんです。これを見ることで、何の元素があるのかが分かります。

BossB:おおー。

馬場:XRISMは、このX線を詳細に見ることができるので、まるで極彩色のよう。これまでは分からなかったクロムやマンガンなどのレアメタルも含め、ありとあらゆる元素が見つけられるようになるはずです。

視聴者から宇宙望遠鏡の命名アイデアを募集!

BossB:X線天文学は日本のお家芸ですが、なぜ日本はこの分野で世界をリードするようになったのでしょうか。

馬場:X線天文学は、人工衛星や気球を使う必要があるので、戦後に生まれた学問です。この分野が生まれた直後から、理化学研究所(理研)などが中心となって、たくさん衛星を上げてきました。スライドにあるのは、過去に日本が打ち上げた衛星です。1個1個の衛星は大きくなくて、例えば「はくちょう」は抱っこできるくらいのサイズだったと聞いています。一番大きい「ひとみ」でも重さは1トン程度で、大きさもちょっと大きめのクルマくらいなんです。

BossB:ほう。

馬場:例えばアメリカのチャンドラという衛星は鏡だけでもそれより大きいくらいですが、日本は「山椒は小粒でもぴりりと辛い」作戦なんです。小さいんだけど、「ここだけは世界一」という強みをそれぞれ持っており、そこに特化した観測をしてきたんです。

BossB:すばらしい。つまりアメリカが「デカいサーロインステーキ」だとしたら、日本はピリリと辛い「山椒」なんですね。かっこいいなあ。

馬場:そうなんです。

BossB:ここで、「XRISM命名チャレンジ」を開催します!実は「XRISM」は仮の名前で、いずれ正式な名前が付きます。そしてなんと、馬場さんは命名権を持つメンバーのひとりなんです!そこで、今から馬場さんに名前を提案したいと思います!いいですか、馬場さん?

馬場:はい。

BossB:「ももたろう」「ひかり」「きぼう」…。あ、「山椒」が来ましたよ!多いですね。

馬場:(笑)。

BossB:「ピリリ」も来ました。「みらい」「さくら」「らいか(雷花)」、これもいいですね。

馬場:かっこいいなあ。

BossB:ちなみに馬場さんが命名するとしたら、どんな名前がいいですか?

馬場:XRISMってたくさんX線の色を見分けるから、カラフルな宇宙が見られるんです。「いろどり」がいいと思います。

BossB:「いろどり」ですね。漢字で書くと…。もしかして「彩」ですか?

馬場:そうです。

BossB:これ、馬場さんの名前じゃないですか!

馬場:バレたか(笑)。

天才でなくても「自分にしかできないこと」はある

BossB:では「星の子クイズ」第3問です。日本最高峰の教育機関である東京大学の准教授である馬場さんですが、小学校のときの成績はどれでしょう?1番は「オール5」、2番は「オール4」、3番は「オール3」、4番は「オール2」です。あれ、4番ってきましたよ!1と4が多いですね。

馬場:(笑)。

BossB:では、答えを教えてください。成績はどうだったのでしょうか。

馬場:私は、オール3でした!いや、正確には逆上がりができなかったので体育は「2」でした。

BossB:先生の言うことを聞いて、言われたとおりに学校の勉強をしていれば学校の成績は良くなるはずです。ということは、馬場さんは学校の勉強をしていなかったのでしょう。一体何をしていたのですか?

馬場:正直、学校の勉強はしていませんでした。授業中にメガネのレンズを使って紙を焼いて怒られたことはありましたね(笑)。

BossB:小さいころから変わっていたんですね。

馬場:変わった子だったので、先生も扱いにくかったと思いますね。小学校低学年のときには恐竜学者になると決めていました。研究者になるのを断念させようとした母に「恐竜は蛇の仲間やで」と言われて、恐竜学者は諦めたのですが。

BossB:ほう。

馬場:中学のときに、カール・セーガンという有名な学者が日本に講演にくることになったんです。私は「絶対見に行く」と思って、はじめて地元の滋賀県から京都までひとりで電車に乗って行ったんです。そのときに、著書の「コスモス」にサインをもらったんです。ずっと成績は悪いままでしたが、このときに「宇宙の研究者になる」と決めました。

BossB:好きなことを研究するのって楽しいですよね。

馬場:そうですね。

BossB:いま小中高生の人も、ぜひ聞いてほしい。成績がすべてじゃないんだよ、と。自分の好きなことをやればいいんですよね。

馬場:そうなんです。

BossB:これから、いろいろな分野で研究者を目指す人たちに助言をいただけますでしょうか。

馬場:うちの母は「成績が1番じゃないあなたが研究者になれるのか」と心配していました。確かに私は天才ではないし、今でも1番ではないけど、やっていけています。必ずしも研究者は1番の人がなるものではない、と思うんです。みんな「自分にしかできないこと」を探しますが、それがあるのはアインシュタインくらいです。でも「誰もやっていないけど、やらなくてはならないこと」を見つけて一生懸命取り組むことで、いつの間にかそれが「その人にしかできないこと」になるんです。だから、好きなことを一生懸命追求していけば、必ず道はつながっていると思います。

BossB:1番じゃなくてもいい、ということですね。

馬場:私も1番になったことない。

BossB:好きなことを追求すればいいんですね。

馬場:そうです。

BossB:馬場さん、今日はありがとうございました。ピース!

次回のBossBトークは、7月7日に実施予定。学びが詰まったTikTok LIVEをぜひお見逃しなく!

  • 配信アカウント:「天体物理学者BossB🌟💫」TikTokアカウント(@herosjourneygc

  • 視聴方法:アカウントをフォローし、配信開始時間以降、プロフィールページのアイコンをタップするとTikTok LIVE配信をお楽しみいただけます。※無料で視聴可能です。

  • スケジュールと出演講師

    • 日時:7月7日(木)21時〜22時

    • 出演:林左絵子(自然科学研究機構国立天文台および総合研究大学院大学 准教授)

    • 対談テーマ:星影で宇宙に思いを馳せる

禁無断転載

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