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TikTokフォトモードで漫画の売上3.5倍に!“漫画好き”を増やす、出版社の新たな試みとは?

漫画を1ページずつ、自分のペースで「試し読み」できる——。

TikTokの機能「フォトモード」を活用した「試し読み投稿」で、漫画の売り上げを高めている出版社があるのをご存知でしょうか?

累計1,500万部を超える『終末のワルキューレ』を始め、『ワカコ酒』『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』など、数多くのヒット作品を世に送り出してきた漫画出版社、コアミックスです。

TikTokのフォトモードは画像を手軽に投稿できる機能です。2枚以上、最大35枚までの画像とテキストを投稿できます。

投稿された画像は横並びにカルーセル表示され、自分のペースで画像を左右にスワイプして閲覧することが可能です。また「おすすめフィード」で視聴できます。

コアミックスは、TVドラマ化もされた人気作『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』の公式TikTokアカウントを2023年7月に開設し、“試し読み投稿”を開始。

7月28日の投稿が、再生数570万回を超える人気となり、漫画売上は3.5倍にアップしました。

▼ TikTokアプリを起動させてお楽しみ下さい
https://www.tiktok.com/@unsung_cinderella/photo/7260682113018563847

同社では『ネコの掟』『猫と紳士のティールーム』『ハネチンとブッキーのお子さま診療録』といった新作の漫画でも、“試し読み投稿”がいずれも100万回再生を超えるヒットとなっています。

“試し読み投稿”が成功した理由は何なのか。

コーポレート本部・デジタル推進課の伊藤拓也さんにお話を伺うと、時代の変化に敏感に対応しながら、一人でも多くの人に漫画を届けようと奮闘する同社の姿勢が見えました。

きっかけは、TikTok発!漫画ヒット

2000年の創立以来、コアミックスが手掛けてきた漫画は300作以上に上ります。漫画に特化した出版社として『終末のワルキューレ』『ワカコ酒』『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』など、誰もが知る漫画を数多く世に送り出してきました。
 
2021年には同社が刊行する漫画作品『前田慶次 かぶき旅』を舞台化したり、2023年には公立高校として全国初の「マンガ学科」を熊本県立高森高等学校に新設するうえで全面協力するなど、漫画の可能性を広げる新たな取り組みを進めています。

“漫画に向き合う出版社”として、コアミックスでは作品単体ごとに紙の単行本と電子コミックの日毎の売上をデータベースで管理。社内の誰でも閲覧できて、売上の変化にすぐに気づける体制が整っているといいます。

そんななか驚くべきことが起こりました。
 
2023年1月、ある青年漫画の電子コミック売上が急上昇したんです。その漫画は販促を仕掛けてはおらず、映像化など露出もしていませんでした」
 
調べるとTikTokでその漫画を紹介した投稿が人気となり、広がっていたことが分かります。
 
「驚いたことに電子コミックだけでなく、紙の単行本にも反響がありました。『書店で手に入らない』という声が寄せられ、最終的に重版が決定。新刊発売などがない平常月で比較して、売上は4倍以上に伸びました。TikTokでここまで反応があったのは弊社でも初めてで、とても大きな出来事でした。」

新連載を知ってもらう“小さなトライ”

TikTokで自社の作品が広がっていくのを見て「自分たちでも何かチャレンジできないか」と突き動かされたといいます。
 
近年、コアミックスでは電子コミックの配信にも力を注いでいます。しかし難しい課題もありました。
 
“新連載の認知を広げること”、これが難しい課題となっています。電子コミックは、電子書店さんでの露出が作品の認知に大きく左右します。新連載は販売話数が少ないため、前面に取り上げてもらいづらい傾向があります」

「さらに、他の出版社からも新連載は相当数でており、相対的に露出機会が少なくなる。『なんとしても知ってもらいたい!』と力を入れても、数ある作品の中で見過ごされやすいのです」

そうした背景から、TikTokで新連載を知ってもらうための試みを模索します。しかし大きく予算をかける挑戦はハードルも上がります。

そこでTikTokの機能「フォトモード」による“漫画の試し読み投稿”が動き出します。

「電子コミックは電子書店で無料の試し読みを一定話数公開しています。TikTokのフォトモードで、その無料公開を切り出して投稿する施策を考えました。すでに公開している範囲なので編集部からも前向きに同意頂けました」

広告費をかけずに漫画1ページをそのまま並べて投稿する。そんな「小さなトライ」から、漫画の試し読み投稿は始まりました。

ヒットの手応え、売上3.5倍に!

2023年7月、投稿を始めると、さっそく驚くべき現象が起こります。

『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』の7月28日に行った投稿が、再生数570万回を超える人気となったのです。

TikTokアカウントを開設して、僅か 4日目の出来事でした

▼ TikTokアプリを起動させてお楽しみ下さい
https://www.tiktok.com/@unsung_cinderella/photo/7260682113018563847

ユーザーさんから自身の経験談がコメントに綴られたり、「どこで読めますか?」「第何話に載っていますか?」と購読を希望する声も寄せられ、大きな盛り上がりとなりました。

この影響はすぐさま売上にも現れます。投稿開始前後の30日間と比較すると『アンサングシンデレラ』の漫画売上は3.5倍にアップしたというのです。

「TikTokで反響が寄せられている間、売り上げが伸び続けている状況でした。同時期に特段、販促を行っていなかったため、その影響は顕著に見られました。元々売上規模がある作品だったので、とても大きなインパクトがありました」

驚くべきは売上だけではありません。検索エンジンでの作品名の検索回数が増加、TikTokで発見して興味を持ち、電子書店に移動する読者の姿が感じられたといいます。

伊藤さんによると、これまで電子書店における『アンサングシンデレラ』の主要な「読者数」の年齢層は35歳から39歳でした。それがTikTokで人気となった後、15歳から19歳にシフトしたというのです。

この読者数には「無料利用(課金せずに利用する)」の読者も含まれます。

さらに、漫画を購買する「課金者数」の年齢層も併せて変化しました。こちらは30歳から34歳が中心だったところから、20歳から24歳が最も多くなったといいます。

電子書店の「読者数」「課金者数」年代の変化
『アンサングシンデレラ』がTikTokで人気となった以前と以降(各数字は、最も多かった年齢層)

▼読者数(無料利用も含む)
以前:35-39歳  
以降:15-19歳

▼課金者数
以前:30-34歳
以降:20-24歳

TikTokではフォロワーがゼロでも、おすすめフィードに掲示されて、新たな発見を生むきっかけとなっています。ふだん漫画をあまり読まない方にも作品を知っていただけるのは、新連載作品の認知拡大という課題解決に直結して、とても大きな価値を感じました」

“試し読み”にマッチするジャンルとは

ふだん漫画をあまり読まない方にも漫画の面白さを感じてもらう。

そこで最後まで読み進めてもらえる投稿を意識。伊藤さんは試行錯誤しながら、最終的に反応の良かった投稿スタイルを横展開しているといいます。

こうして約半年で『ネコの掟』『猫と紳士のティールーム』『ハネチンとブッキーのお子さま診療録』といった新作の漫画でも、“試し読み投稿”がいずれも100万回再生を超えるヒットとなっています。

(左から)『ネコの掟』『猫と紳士のティールーム』『ハネチンとブッキーのお子さま診療録』

「実は、これらの再生回数が伸びた作品は一部で、うまくいかなかったケースもあります。大切なのは、ある程度の回数は投稿すること。そして最後までやり切ることだと感じています。うまくいかなかったのは、たまたまTikTokで再生されづらい作品だったのかもしれません。回数を重ねることでナレッジも蓄積されます」

そのひとつにフォトモードと相性が良い作品ジャンルが見えたといいます。

「『リアルの延長線上にある話』です。フォトモードでは1ページ目が作品の魅力を伝える重要な役割を持ちます。例えば異世界漫画(現実世界で生まれた主人公が転生して異世界で活躍する漫画)だと、1ページ目から登場人物が置かれている設定を理解いただくのはハードルが高くなります」

「それに対して『アンサングシンデレラ』は『リアルの延長線上にある薬剤師さんの話』です。設定に説明が要らない分、1ページ目から集中して読んでもらいやすくなります。また争い事に焦点を当てた漫画より、絵も話もキレイで、読後感がいい作品が好まれている傾向を感じます」

読者を引き込む“1ページ目”の作り方

フォトモードでは1ページ目が作品の魅力を伝える重要な役割を持つ。

そこから能動的に読み進めてもらいやすい「リアルの延長線上にある話」と相性が良い、これは作品選びに活かされていると話します。

動画では最初の1秒が大事だと言われます。フォトモードでは最初の1ページ目で能動的に読んでもらえるかどうか?に置き換えられます

「漫画を最後まで読み進めてもらえるよう、クライマックスで感情が最高潮に達するページや思わず心を掴まれるページを敢えて1ページ目に掲載して、読者を引き込むということを意識しています」

実はこの1ページ目は、いずれも後半に登場するもの。それを敢えて1ページ目に置いているというのです。

フォトモードで人気の漫画で解説

『ネコの掟』

ネコの「掟」を守りながら、とある田舎でおばあちゃんと一緒に暮らす3匹のネコの物語。

TikTokのフォトモード投稿では、猫を飼っている視聴者さんが猫にまつわるエピソードや体験談をコメントで共有するなど大人気となりました。

2023年9月29日の投稿には11万件以上の「いいね」が寄せられ、270万以上の再生数となっています。

1ページ目の作り方

「『ネコの掟』では、猫が泣きながら助けを求めるため電話をかける絵のように、インパクトがあり動物が好きな人に興味をもってもらいやすいページを1ページ目に置いています」(伊藤さん)

▼ TikTokアプリを起動させてお楽しみ下さいhttps://www.tiktok.com/@nekotoshinshi/photo/7284115463548751106

『猫と紳士のティールーム』

哀しく愛らしい男が、少し疲れた現代人の心を紅茶と不器用なおもてなしで癒やすハートフル・ティー・ストーリー。

「この漫画読んでたら、とてつもなく紅茶とケーキ食べたくなってカフェ行った」「こういうお店に通いたい」そんなコメントが、視聴者からは多く寄せられています。

2023年11月12日の投稿は5万5千件以上の「いいね」、100万再生を超えました。

1ページ目の作り方

「『猫と紳士のティールーム』は、すごく綺麗な絵が作家さんの持ち味です。きめ細かいキラキラした絵を最初に持ってくることで、美味しそうなスイーツや魅力的な紅茶で読者の興味を引きつけ、心を掴んでいます」(伊藤さん)

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https://www.tiktok.com/@nekotoshinshi/photo/7300550299465338114

「これらの1ページ目は、いずれも後半に登場します。それを敢えて1ページ目に掲載するので、1ページ目と2ページ目は話がつながっていない。しかしTikTokでは違和感なく読んでいただけています

TikTokだから違和感が生まれない。それは日本漫画固有の読み進めについても同じでした。
 
「フォトモードの『左から→右』の横スワイプは、従来の日本の漫画雑誌や単行本の読み進め方『右から→左』とは逆向きです。しかしSNSで漫画を『左から→右』に読むのが定着している流れから、受け入れて読んでいただけています」
 
さらにフォトモードでは音楽を漫画に組み込むことができます。漫画のエピソードとマッチする音楽であれば、あまり気にせず選曲しているといいますが、ユーザー体験を理解する上で大切なコツがありました。
 
プレビューで実際に漫画を読みながら選曲しています。実際に読みながら聞くとまた違った印象になる。心地よく読めるかどうかユーザーさんの感覚を掴むことができます」
 
基本的には漫画1ページをそのまま並べるため、投稿準備は10分もあれば出来るといいます。制作コストが少ないので挑戦しやすく、続けやすいと明かしてくれました。

小児医療を舞台にした『ハネチンとブッキーのお子さま診療録』。こちらも“試し読み投稿”が100万回再生を超えるヒットとなりました

リバイバルや、国を越えたヒットに期待

近年、スマートフォンで気軽に漫画が読める環境が整ってくるなど、漫画を取り巻く環境は大きく変化してきました。
 
音楽シーンでは、TikTokで人気となり、再び注目を集めるリバイバルヒットが起こっています。
 
伊藤さんは「TikTokでの音楽と漫画の広がり方は異なる」とした上で、それでも時代を超えて親しまれる作品が誕生する未来はあるのではと話します。
 
「『漫画の試し読み投稿』は出版社が発信者となり、『出版社から読者へ』届けられます。そのためTikTokのユーザーさんに広く使用されて社会的ムーブメントを起こす音楽ヒットとは異なる展開になると考えています」

「それでも、何かのきっかけで過去の作品が注目され、時代を超えて愛される可能性があると期待しています。現在は新連載作品を軸に据えていますが、『リアルの延長線上にある話』で、現代社会を上手く捉えた作品であれば、完結した作品でも積極的に挑戦していきたいです」

さらにTikTokフォトモードの活用で、「漫画の試し読み投稿が手軽に行えることによる新たな作家が誕生する可能性」や、「TikTokでの認知拡大が続編やアニメ化を決めるひとつのきっかけになるかもしれない」と期待を寄せます。
 
またTikTokは世界で月間10億人のユーザーに楽しまれているグローバルなアプリです。
 
コアミックスでは、世界中で日本の漫画にアクセスできるよう翻訳するなど、世界に向けた取り組みも進めています。そんななかTikTokで同社の漫画が、国外でも驚きの現象が起こしているといいます。
 
2023年12月下旬からコアミックスから発刊している漫画が、TikTokでベトナムを中心に人気を集めています。この作品は国同士の戦いを描いたバトルマンガ。各国の代表が登場するのですが、そのキャラクターがきっかけになり、ベトナムで“作品の認知”と“ファン層”を拡大させているようです」
 
「これまで多くの作品で海外翻訳版の配信を行っていますが、そもそも作品の認知がなければ広がらず売上に結びつきません。しかしTikTokが海外でも作品に興味を持っていただくきっかけの一つなっています」

競い合いではなく「漫画好き」を増やす

漫画における新たな局面を切り拓く可能性があるフォトモードは漫画業界全体の活性化にもつながるのではと期待されています。
 
そのなかで大切なのは競い合うのではなく「漫画好き」をふやすこと。伊藤さんは、漫画が持つコンテンツ特性を教えてくれました。
 
「例えば家電を例に考えると、A社・B社・C社、それぞれが販売している商品の、『スペック』や『価格』など比較してどれか一つを選んで購入すると思います。しかし漫画では書店で並べられた、A・B・Cの3タイトル、いずれも好きだということがある。競合としての比較ではなく、他社の作品も含めて愛される状況が起こるのです

「いま『漫画好き』の方も、生まれたときから漫画が好きだったわけではありません。ある作品と出会って読んでみたら面白かった、また違う作品と出会って読んでみたら面白かった——その積み重ねで、『漫画好き』というパーソナリティは形成されていきます」

「漫画アプリは『漫画好き』の方以外にはインストールされづらく、敬遠している人も一定数います。しかし、アプリを敬遠している人の中には、『TikTokで動画は見よう』という方がたくさんいる。その方にTikTokでたくさんの漫画に触れてもらい、漫画を読むことが習慣化して『漫画好き』の総数が増えていくこと。これが漫画業界全体の活性化につながっていくと考えています」

「業界自体が盛り上がることで作家さんも活動が継続しやすくなる。読者も出版社も喜ぶ。まさに三方良しとなります。これからも時代に合わせた漫画の届け方を模索したいです」

TikTokの機能「フォトモード」を活用した「試し読み投稿」から、漫画の売り上げを伸ばしたコアミックス。一人でも多くの人に漫画を届ける試みは、まだ始まったばかりです。

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