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彼は秘密の女ともだち(原題:Une nouvelle amie)/監督:フランソワ・オゾン、原作: ルース・レンデル『女ともだち』(2014)

 現代の日本ではあちこちで「ジェンダーレス」だとか「LGBT」という言葉が浸透し始めたが、どうやらしっかりと根付く前に独り歩きし始めているように感じる。「サスティナブル」とか「SDGS」もそうだよね。

 テレビをつければオネエタレントや女装家が映らない日はなく、テレビドラマでも映画でもそのような役柄がストーリーの軸になったりしている。それなのに、社会はなかなか彼らに寄り添う気配を見せない。もしや、本当はそういう偏見や差別のない世界はもう確立されていて、僕だけが知らないのだろうか。

 性的マイノリティーにはレズビアンやゲイ、バイセクシャルやトランスジェンダーがいるが、今ではそれ以外にもクィア、クエスチョニング、インターセクシャル、エイセクシャルなども加わっている。そうした多様な性別や性的嗜好者の潜在数は測り知れなく、もしかしたらヘテロセクシャルのほうが少数派と言ったほうが正しいのかも知れない。

 その中で夫と妻、親と子の関係も多様化しつつある。

 女性として生まれたが自分の性に疑問を持ち続け、トランスジェンダーとなった男性とパートナーとなった女性は、彼との間に子を作ることができない。そこで、ゲイの友人に精子を提供してもらい体外受精で子を持つことができた。しかし、法的には父親はゲイの男性であり、トランスジェンダーの彼に親権はない。実態として父親の役目をしていても、戸籍の上では養父になることしかできない。それが今の日本の法律だ。

 この物語では一人の女性の親友が亡くなり、その後、残された夫と子供に寄り添っていくが、夫には女装癖があることを知り、戸惑う。しかし、彼と心を通わせていくうちに、彼女自身も自分の内側にあった性の揺れ動きに気付いていく。

 彼は女装癖はあるが性的対象はあくまでも女性だ。彼女は男性と結婚したが、心では亡くなった親友を愛していたのかもしれない。一見、歪んだ関係のように見えるかもしれないが、ストーリーが進むに連れ、社会で働き、成果を上げることが男の本分と考える者や女装癖を毛嫌いする者の方が異質に見えてくる。

 主人公は親友の女装癖を持つ夫と小旅行に出かけて、自分のルーツを遡る。そして、彼とともにでかけたナイトクラブで、多様なジェンダーに混じり、自我に触れる。そこで、ドラッグクイーンが歌うNicole Croisille(ニコル・クロワジル)の『Une femme avec toi(あなたとともに)』を聴き、その内面を開放する。

「Je fréquentais alors des hommes un peu bizarres
Aussi légers que la cendre de leurs cigares
Ils donnaient des soirées au château de Versailles
Ce n'étaient que des châteaux de paille
Et je perdais mon temps dans ce désert doré
J'étais seule quand je t'ai rencontré
Les autres s'enterraient, toi tu étais vivant
Tu chantais comme chante un enfant
Tu étais gai comme un italien
Quand il sait qu'il aura de l'amour et du vin
Et enfin pour la première fois
Je me suis enfin sentie:
Femme, femme, une femme avec toi
Femme, femme, une femme avec toi

当時、私は付き合っていたわ。
彼らのタバコの灰くらいに軽いちょっと変な男たちと、彼らはヴェルサイユの城の夜会を開いてくれた。
それは藁でできた城に過ぎなかった。
そして私はこの金ぴかの砂漠で自分の時間を無駄にした。
私はあなたに出会ったときひとりぼっちだった。
ほかの男たちは葬むられ、あなたは生きていた。
あなたは子どもが歌うみたいに歌っていた。
恋とワインが手に入るだろうと分かったときのイタリア人みたいにあなたは陽気だった。
そして、ついに初めて私はついに自覚したの。

女、女、あなたとともに生きる女。
女、女、あなたとともに生きる女だと」

 観る人によっては異質で受け入れがたいストーリーかもしれないが、愛の形は様々であるという広い視野を持って観れば、それは純粋で美しいラブ・ストーリーであり、家族の姿に見えてくるだろう。

 もしかしたら、僕らのすぐそばに性的マイノリティーはいるかもしれないし、このストーリーの主人公のように、自分自身がその一人であることに気づいていないだけなのかもしれない。そして、そうした素朴で汚れのない世界に気づいたとき、人生の美しさや素晴らしさに、心から涙することができるのかもしれない。



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