東京で日常を離れて静かな異世界に行ける場所

満開の桜と柳の揺れる水の中に浮かぶモダンな建物は、MOMAニューヨーク美術館の設計や銀座シックスの意匠を担当した谷口吉生による設計。
水の上を渡って一歩足を踏み入れると、そこは外からは想像のつかない暗い世界だ。

そう、ここは正倉院の宝物を展示する、法隆寺宝物館。
東京国立博物館の中でも外れに位置するので入館客が少ない。

外の光と遮断されライトが落とされた真っ暗な部屋一杯に
さながら映画に出てくるクローンのように整然と並び、浮かび上がっているのは、無数の仏像群だ。

この位置に立って鑑賞するようにという白いマークが床に浮かび上がり、こちらが鑑賞するというよりも完全に仏像に鑑賞されている側である。

一つ一つの仏像を覗き込むとそれぞれの表情が全然違う。手が大きい仏像もあれば小さい仏像も、表情が誰かに似ているものもある。
これらの仏像が作られたのは7世紀とのことだから1300年以上前だ。
1300年以上の前の豪族達にこの一つ一つ表情の異なる仏像が崇拝されていたと想像すると違う世界に迷いこんだような感覚になる
他の部屋では、教科書で見たことのある国宝の美術品も突然現れたりする。

この宝物館では、奈良・法隆寺から皇室に献納され、戦後国に移管された宝物300件あまりを収蔵・展示しているという。元々奈良の法隆寺で1000年以上保管されていたはずの宝物が遠く東京の国立博物館にあること自体、微妙な気持ちになるが、奈良に足を運ばなくても見られるということだ。

暗い部屋から外に出ると明るい桜や柳が目に眩しく、現代社会に戻ったことを知る。日常生活を離れたくなったときのちょっとした1300年のタイムトリップにはお勧めの場所である。

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