人混みにいつだって慣れない

平日だって言うのに新宿はいつだって混んでいる。

こんなにたくさんの人がばらばらの方向に向かって急いで歩いていく様子に、いつもいつも驚いてしまう。わたしだって、人混みが嫌で誰よりも早く抜け出そうと歩いてしまっているその中のひとりなのに。

主要な駅の中では一番馴染みのある駅のはずだったのに、少し距離を置いていただけで、もう随分と知らない駅みたいに感じる。

慣れていたはずの駅を歩いて、慣れてないお店をいくつも素通りしながらふと思う。

駅ですれ違う人たちはどこへいくんだろう。

これからデートなのか、飲み会なのか、帰り道なのか、移動の途中なのか。すれ違う人が多ければ多いほどその一人ひとりに人生があって、そのなかでわたしは私のことすらきちんと把握できてないのに。それなのに、世の中にはもっともっとたくさんの人がいて。

当たり前のことなのに、それだけの人間がいることにびっくりするし、こわいなと唐突に感じてしまう。

だから、人混みの中を歩くときはいかに無になって歩けるかということに必死になってしまう。心を無にして、意識を高く飛ばして、誰も、何も見ずに、目的地のことだけ考える。

だから、そのなかで「ただのすれ違い」にならずに出会ってしまうと途端に反応が鈍くなってしまう。

たくさんの人混みのなかで、知り合いを見つけると一気にその人の周りがぱーっと拓けて、飛び込んでくる。

誰とすれ違ってもお互いに見ているようで全く見てない視界のなかのゴミでしかないのに、一生懸命に心を無にして歩いているのに。

飛ばしすぎた意識は自分のところまで戻すのにも時間がかかる。だから気付いていても挨拶もできずにさよならしてしまうことも多々ある。

すれ違って5秒後くらいに「ああ」と後悔する。高く高く飛ばした意識は戻ってくるのに少しだけ時間がかかるのだ。

新宿はいつだって混んでいる。

わたし自身も人混みの一部になりながら、目的地に向かって今日も移動してきてしまった。

もっともっと新しい世界を知るために本を買いたいなあと思ってます。