iOS_の画像

【イベントレポート】しあわせをことばにする #言葉の企画

横浜みなとみらいにあるシェアスペースで行われた「BUKATSUDO文化祭2018」

そのなかでも、阿部広太郎さんがモデレーターを務める『企画でメシを食っていく』という講座の特別編ということで始まったのがこちらのトークイベントです。

【企画でメシを食っていく 概要】
企画とは、面白いことを企むこと。世の中を楽しくすること。
企画力がある者はきっと、どこの業界でも楽しく生き抜いていけるはず。
企画する力をはぐくみながら、仲間を見つけられる場をつくりたい。
その思いのもと、毎回のテーマごとにお招きしたゲスト講師にお話を伺っていきます。(企画でメシを食っていくHP 引用)

タイトルは『しあわせをことばにする』。


WEBライターとして長文で文章を書くさえりさんと、コピーライターとして短い文章を書く阿部さん。

「言葉の作りかた」についてお二人からどんなお話が聞けるのか、わくわくして参加してきました。

(Twitter内でのハッシュタグは「#言葉の企画」です)

ゲスト:夏生さえりさん
フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterフォロワー数は合計18万人を突破。難しいことをやわらかくすること、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。著書に『今日は、自分を甘やかす』、『口説き文句は決めている』、『やわらかい明日をつくるノート』他。
モデレーター:阿部広太郎
コピーライター。作詞や企画など、言葉の力を軸にコンテンツをつくる。著書『待っていてもはじまらない』。「企画メシを食っていく」主宰。映画「アイスと雨音」「君が君で君だ」プロデューサー

才能は人から見つけてもらうもの

阿部広太郎さん(以下、阿部):本を読ませていただいていたのですが、書く表現がすごいなと思って興奮してしまいました。書く仕事につくまでにどういった経緯だったのか、改めてお伺いしてもいいですか?

夏生さえりさん(以下、夏生):元々、憧れはあったんですけど、文章を書くことは好きだったけれど、才能はないなと思っていました。でも、書いたりすることは好きだったので、言葉の界隈で仕事ができたらはっぴーだなとは思っていたんです。そして、就職した出版社やWEBの会社で編集の仕事をやっていて、文章をもっと伝わるようにするのって面白いな、と。でも書いてあるものを読めば読むほど書くのって大変だなとも思っていました。
でも前職は副業がOKなのと、会社としてブログを月に一回あげるというノルマがあったので書いているうちにライターとして声をかけていただくことが増えて、独立しました。

阿部:「才能は人から見つけてもらうものなんだ」というのを言われているのを拝見しました。

夏生:そうですね。一人で考えていた時は才能がないって思っていたし、まさか人に興味を持ってもらえるとはって思っていたんですけど、出すことはやめなかったので、そこで見つけてもらえたのかなと思いますね。

言葉って音にするとこんなに気持ちいい

阿部:ブログをずっと書かれていたそうですが、やわらかい文体はどうやって身につけたんですか?

夏生:自分の感情を悩みに悩んで書いていたのでそこで確立していったのかもしれませんね。あとは童話が好きなんです。『モモ』とか『星の王子様』とか。そういうものを音読をするんですね。音の言い回しとか響きとかが好きなものを何度も声に出していたので、リズムが似通っていったのかもしれません。言葉って音にするとこんなに気持ちいいんだなって思っていました。

阿部:コピーライターは写経をしたりするんです。でも音読をするっていう経験はあまりなかったかもしれないですね。

夏生:人によっても違うと思うんですけど、私は童話のリズムが一番すっと入ってきました。夜中に音読して、形容詞のこの音の響き最高、、って思ったりしてます。

昔、谷川俊太郎さんにインタビューさせていただいたときに「詩は元々音楽なんだから意味なんてわからなくてもいいんだよ」と言われたときに「あ、間違ってなかった」って嬉しくなりましたね。

👉 谷川俊太郎さんインタビュー

とりあえず出したい気持ちのまま書いてみる

阿部:ブログは最初から面白いねって反応があったんですか?

夏生:大学生くらいのときに「言葉本」というポエム本みたいなものを出版したんですね。そのときに自分が書いた文章を読んでくれる人がいるんだって感じたことは嬉しかったです。今では恥ずかしすぎて読めないですけど。

阿部:それは当時と比べると成長したからですかね?

夏生:はい。もっと文章を整えたいなとか言い回しとか気になっちゃうので。あの頃と今で大きく違うのは「編集」という仕事をしてみて、人に読んでもらう文章ってどういうものなのか、というのを学べたところだと思いますね。そういう視点が持てるようになったのかなと。

阿部:文章を作る上で客観性って大事だなと思うのですが、どういう風にしてやっていますか?

夏生:「書きたい!」っていう気持ちで一旦書いて、1日寝かせて次の日もう編集の気持ちで見直しするというのはよくやっていますね。「夜、ブログを書くとよくわかんなくなります」みたいなことをよく相談されるんですが、出したい気持ちの時に文章書いてその後で直して行くってやり方でいいんじゃないかなって思います。

やりたい表現はもっと先にあるのに

阿部:コピーライターとして入って、50本持っていっても話にならないって状態が3年続いたんです。でも、とにかく量をこなして行くと見えてくるものがあるって信じていたんですね。さえりさんの場合はするっといっているように感じてしまうんですけど、壁はあったりしましたか?

夏生:こっそり感じている壁はいつでもあります。でも、待ってくれない業界でもあるので、50点でも出さなきゃいけない案件もやっぱりありましたね。そのときはもちろん全力でももうちょっと頑張りたかったな、というのはあります。

阿部:例えば、それは具体的にどういうところですか?

夏生:企画の段階から感じることもありますし、言い回しの部分のときもあります。今の私にできるのはここまでだけど、やりたい表現はもっと先にあるなあって。特定のだれかではないけれど、びっくりする言い回しに出会うと音読して、なるほどなあと思ったりします。こういう音が私にもかけたらいいなあって。

阿部:音に注目して文章を作られているから、読んでいて心地よいのかなと思うんですが、文章を作る上で意識されていることはなんですか?

【さえりさんが文章を書くときに意識すること】
・声に出して文章を読む
・自分がわかる言葉を使う
・立場の違う人を思い浮かべる
・読んで欲しい譲許を想像する

夏生:強い言葉を使わないと多くの人に届かないんじゃないかなと思うけれど、やわらかい言葉でどれだけ届くのかということをやってみたいなあと思っています。

クリエーターとして書くのが好き

阿部:お題をもらってからどう考えて文章を書いていますか?

夏生:私の場合は必ずクライアントさんがいて、問題を解決したくて依頼がきます。彼らにとって何がハッピーで、最終的にどういう読者に届けたいのかなということは必ず確認します。ゴールを決めてそこに向けて書くのが好きなんです。自分の表現したいことを書くのが好きなアーティストで、お題を解決するのがクリエーターだと思っていて、私は後者が好きです。

恋愛の妄想ツイートもクライアントさんはいないけれど、この時間みんな何がほしいかな?って考えながら書いていました。

感情をもっと深堀りしてみるといいかも

阿部:例えば『口説き文句は決めている』のなかで、たこやきを異性の前で口を開けて食べることが恥ずかしいっていうシーンがあるんですけどその記憶力がすごいなと思っていて。なぜそこまで覚えてるんですか?

「あ、わたし今お腹空いてなくて」
 彼も彼で「え、あ、そうなの?」と戸惑っていたし、目の前で8個も食べなくてはいけないことにも「なんか恥ずかしいな」と正直に漏らしていたし(ごめんね)、わたしもそのことには十分に気づいていたのだけどそれでも食べられなかった。恥ずかしかったのだ。
(『口説き文句は決めている』より引用)


夏生:シーンシーンでしか覚えていないですけど、なんで恥ずかしかったのかなって考えるのが好きなんですよね。感情を立ち止まって考えるのが好きです。中高のころに書いていた日記も、今でも読み返したりするんです。出来事よりも感情のメモが多いんですね。気持ちって文章にすることでやっとかたちになることが多いので、かたちにしてすっきりしたいという気持ちが強いのかもしれません。

阿部:自分の内側の感情をちゃんと忘れないようにしていたことが大切なんですね。

夏生:そうですね。内側にすごく興味があって。わたしが言いたいことってこういうことじゃない。でも言葉にするとちょっと違う。じゃあどういう言葉がいいんだろうっていうのをずっとやっていたのかもしれません。

語彙力の増やし方を聞かれたりするんですけど、感情の深掘りや細分化をもっとした方がいいと思うってよく言いますね。

阿部:自分の中でたどり着いた言葉ってずっと残りますもんね。

ちょっとだけハッピーにできればそれでいい

阿部:好きな言葉はありますか?

夏生:言葉ではないかもしれませんが、先ほど話した、谷川俊太郎さんのインタビューは衝撃的でしたね。「そこらへんに咲いている花みたいな詩が書きたいんです。花って理由とかなしにあるだけで、ただ「あ、綺麗」と思う。それでいいと思っている」という話を聞いて、私もそういう風になりたいなと思っている。「言葉は意図が入ってしまうけど、僕は花みたいなものが書きたい」というのを聞いて、本当にかっこいいなと思いました。

阿部:「しあわせ」を言葉にすることは意識していますか?

夏生:基準としてずっとあるのはちょっとだけハッピーにできるか?ということですね。自分のハッピーになる瞬間を深堀りしておいてそれを表現できるのかなって。例えば、人生が変わったとかにならなくてもいいちょっとだけでいいんです。

阿部:それって昔からある考えなんですか?

夏生:就活の時からかもしれないです。内側に向き合う性格なので、流されるままに生きるってことができないんですね。考えた結果じゃないと進めなくて。「自分って何がしたいんだっけ」「なんでしたいんだっけ」と考え続けた結果かもしれないですね。

「つまり」を習慣づけしてコピーを考える

夏生:わたしからも色々聞かせてください。コピーって短い文章がほとんどじゃないですか。どうやって作られているんですか?

阿部:コピーはたくさんたくさん思いを受け取って、それを一言にするのが多いんですね。“例えば”こうなんじゃないかってまずは一回長く書くんです。そのあとにそれは“つまり”でコピーになったりします。さえりさんは例えばの達人だから、すぐにかけるようになると思いますよ。

夏生:インスピレーションでできることはあるんですか?

阿部:あります。話を聞いている間にポンっと思いつくような感じで。悩み相談とかを聞きながら「それってこうなんじゃない」って思うことあるじゃないですか。あれに似ていると思いますね。

夏生:コピーライターになりたかったら何をすればいいですか?

阿部:普段から「つまり」の習慣づけをすることが大切かなと思う。あとは「〇〇とは何か」っていうものを自分なりに再定義して見るっていうことは大事かなと思います。

あとはコピーって目的を背負った言葉であることが多いので、「これを届けたい!」っていう想いを背負った人に近くに行ってみるのもいいと思いますね。

自分が一番わくわくできるか

阿部:最後にさえりさんにとって「企画」をするときに大切にしていることは何ですか?
夏生:「自分が一番わくわくできるか」というのは大切にしています。全部が全部楽しいことばかりというのは難しいですけど、なるべくハッピーでい続けるようにしています。




脳みそは筋肉だからとにかく経験していくしかない、とコピーの作り方について教えてくださった阿部さん。

「言葉を引き算していくこと」は難しいとお二人とも語られていて、ついあれもこれもと付け足してしまいがちですが、勇気を持って無駄を省いて、芯のある言葉を作っていけたらいいなとわたし自身も学ぶことができたように思います。


もっともっと新しい世界を知るために本を買いたいなあと思ってます。