秘密の花園

人が大きく変わってゆく姿をこんなにもそばで見ることができる/秘密の花園

最初の庭園もの(?)が『トムは真夜中の庭で』だったからか、今日読んだ『秘密の花園』(バーネット:西村書店)も、てっきり魔法がかった物語なんだとばかり思っていました。

この物語では特に終盤、「魔法」という言葉が連呼されるけど、魔法だなんていう、ある種、他人任せなものではなく、自分で気持ちを強くもって努力をすれば、これだけ変わることができるのだと教えてくれる成長の軌跡の物語でした。

【あらすじ】
甘やかしと放任によりわがまま放題の気難しい性格に育ってしまったメアリは、ある日突然両親がコレラで亡くなってしまい遠い叔父に引きとられることになる。屋敷の庭で遊ぶうちに少しずつ子どもらしい感性を取り戻していった、ある日、コマドリに誘われるように誰も入ってはいけない庭園の鍵を見つける。

『秘密の花園』は発売は1911年のことなのですが、主人公のメアリがこの時代の物語としては信じられないくらいまあ可愛くない。

顔もからだも小さくてやせており、髪の毛は細くて少ししかなく、いつもしかめっつらをしていました。髪が黄色いうえに顔まで黄色っぽいのは、生まれてからずっと日差しの強いインドで暮らしてきたのと、しょっちゅう病気をしているからでした。

冒頭3行目からいきなり、「かわいげのない子」だという外見の描写から始まり、なおかつ見た目だけではなく「ひどくわがままで、いばりくさった子ども」だと表現されてしまいます。

両親に放っておかれて育てられたメアリは分別などなにもないまま育ってしまったのだろうし、不機嫌になることで物事がやりたい方向に進むんだと勘違いしてしまったんですよね。

この子どもが一体どうなっていくんだろう、と思いながら読み進めていくとあっさり序盤で両親が亡くなってしまい、メアリはひとりぼっちになってしまいます。そして、父の仕事のために駐在していたインドから、イギリスのヨークシャーにある叔父の家に引き取られていきます。

そこでも「かわいげのない子」を続行し続けるメアリですが、インドとはまるで違う生活に少しづつ一人で行動出ざるをなくなり、できることが増え、よく遊び、よく食べ、ちょっとずつ健康的でふっくらとした「子どもらしい」姿になっていきます。

そんななかでたまたま見つけた、閉ざされた庭園。生き返らせたい!と強く思うことがきっかけでメアリはさらに活発な女の子になり、また、自分がいかにわがままだったのかを悟っていくようになります。

誰かに愛されないまま育ってしまったメアリのなかでは、世界は自分だけのもので完結してしまう、そうなると他人はもちろん、自分のことですら愛することなどできなくて。

自分はだれにも好かれていない、と口に出して何度もメアリは話すようになり、また、今までどれだけ寂しく孤独だったのか元気になった過程でやっと気づくのです。

「かわいげがない」とどれだけ描写されてもどことなく嫌いになりきれなかったのはそりゃそういう環境で育ったらそうなるよね…とわかるから。

やっとこれで愛せるようになった、とメアリにほっとしたのもつかの間、今度はもともと屋敷にいたもう一人の「かわいげのない」少年が登場します。

メアリと少年の言葉の応酬がまあ面白いのですが、中盤を超え、あれ全く魔法が出ないなとふと気づきます。

秘密の庭園を見つけるのはコマドリに誘われた偶然のようなものだし、それを生き返らせていくのも、きちんと泥まみれになって働くメアリです。

それはもう一人のかわいげのない子が向き合う努力でもそうですけど、必要なのは結局、毎日を精一杯生きるということなのかもしれないなということが伝わってきました。

わくわくするような何かを見つけ、そのためによく動き、よく食べ、よく眠ることで、人はちゃんと変わってゆくことができるんだな、とメアリたちを通してわたし自身も気づかされるのです。

それはきっと子どもだけの話ではなくて、大切なのはきっと出会ったり、気づくこと。いくつになってもそのチャンスをきちんと掴めば変わることができるんじゃないかなと思いました。

人ってこんなに変われるんだ、と物語のなかでメアリと少年とで2回も感じることができたのは、たとえ魔法が使われていなくても、面白く、興味深くて、それがある意味では魔法なのかもしれません。

名前だけは知っていたけど読んだことのなかった作品、出会えてよかった一冊です。



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