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レプリケイト・フロム・ヘヴン

このプラクティスの続きになります

 俺は銃から指紋を拭き取り、女に持たせた。これで死因は自殺。多少の不自然さは別個の「担当者」がカバーストーリーを作り上げ、何とかしてくれる。俺はディスプレイの端子を探した。「オリジナルの通信履歴は逐一見させていただいてましたがまさかここまで貴方に入れ込んでいたとはええ大変驚きですとも私の感知できな……待ちなさい!」こいつはとにかくうるさい。慇懃無礼、という言葉が最も似合うだろう。現場に誰かが入り込んだ際、余計なことを喋らないようにしておく必要があった。

「なぜ私の言うことを無視するのです?私がオリジナルそっくりのミス・ユニヴァース並みいいやそれ以上の美を誇るからですか?いやそれは理由になりま」部屋は静かになった。俺はディスプレイから引き抜いたケーブルを放り、(手袋で指紋の心配はない)女の手で握られた銃から、数発をそのディスプレイと、接続されたコンピュータにぶち込んだ。仕事は終わった。俺は耳につけたデバイスを操作し、「担当者」にコールした。呼び出し音が俺の頭の中で響いた。

「もしもし」「ユリシーズだ。ターゲットの無力化を確認した。後始末を頼む」「よくやった。戻ってカネを受け取るといい。後始末は最低限で構わん」通信は切れた。いつものように、任務終了後の通信は極めて簡潔だった。あとは撤収し、カネを受け取りに行くだけだ。俺は来た道を戻るべく、

 俺の左側から、フラッシュが焚かれた。いや違う、これは、

『そこの男!止まりなさい!』ヘリコプターが窓から俺を見ている。備え付けられた砲が、こちらを狙っていた。

 ここは超高級マンション「ステアウェイ・トゥ・ヘヴン」490F。誰もが見上げ、羨む殿上人の住処。そこに俺は一人。仲間なし。武器は拳銃一つ。絶体絶命の事態は、今から始まる。

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