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大学1年生

私は小さい頃から外国に憧れていた。憧れていたといってもそんなに大した夢では無いし、具体性を伴っているわけでもない。ただ、なんとなく、今私が生活している世界とは違うのだろうな、という現実逃避願望に似た思いで、外国に憧れていた。
外国へ行けばなにかが変わる、なにかもっと違うことになる。そんな思いもあったのかもしれない。しかし、外国へ行けば何かが変わる人は、日本に居ても何かが違う人だと気付くことにそう時間はかからなかった。
夢がある。夢があり、夢へ向けての努力がある。しかしその先が行動に移せない。縮こまってしまう。臆病になってしまう。自分をギリギリまで追い詰められない。どうしても懸命な生き方を選択してしまう。私はいつだってそうだった。
しかし、そうでなければいけないのだ。そうあるべきで、それがより良い選択なのだ。と、今も言い聞かせている。先生のように、一度はお金もなにも無い状態で外国に行くくらいのことが出来なければ、留学する友達に向かってなにも言う資格は、私には無い。
アルバイトをしてお金を貯め、大学の休みを使って外国に旅行をしに行く。それくらいなら出来る。しかし留学となると…と一歩踏みとどまってしまう。それに、留学先でしたいことは本当に留学先でしか出来ないことなのだろうかと自分に問うと、そうでも無いのだ。私はただ、歌が上手くなりたいというだけなのである。いや、歌が自然と上手くなる環境に身を置きたいのである。それも一つの選択だと言える。しかし、私はその選択肢を選べる立場には無い。
留学をして歌を学ぶくらいなら、最初から日本の音楽大学に入っておけばよかったのだ。だから、先生のことをとても尊敬してしまう。自分のやりたいことを貫き通せるすごさを目の当たりにしてしまうと、私は何も言えなくなる。
学ぶことは楽しい。しかし、一番楽しいと思える勉強をしたかったというわがままもある。それでもなお、私はこの大学で何かを吸収し、楽しみ、最後の学生生活を謳歌しようと頑張っている。一番の夢は夢として私の心の端っこへ置いておく。週に1回の声楽の習い事のときに泣きそうになったことは幾度と無くあるが、今は週に1回の声楽が心の支えとなっている。時々、それよりも楽しいことを発見してしまったりもする。
言い訳などもう出来ないのである。し尽くしてしまったのである。私はこれから崖っぷちに立たされながら、後悔しないような道を歩んでいくしか無い。そのために今を楽しんでいる。将来の私に、今の私の学生生活の思い出が支えになるといい。

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