見出し画像

「元彼」と別れてすぐに付き合った人が居て、その人が居たから「元彼」のことはほとんど引きずらなかった。一人で写真見返したりとか貰ったもの捨てたりとかライン読み返すくらいはしたかもしれないけど、あんなに一緒に居たのに嘘みたいに一瞬で全部が無くなった。
「元彼」の時間が全部無くなった代わりに、その人との時間が始まった。始まりは急で、私は誰かと一緒に居られるのが嬉しくてそれだけで良かった。他愛もないことを話して、相槌が返ってきて、たまに質問されて、面白いこと言ったら笑って、痛いとこがあったら「痛いね」って言ってもらって、本当にそれだけで良かった。一人じゃないのが救いだった。それがただの問題の先延ばしでもなんでも、その時誰かが居てくれたらそれで良かった。
私はその人のことを他の男の人より特別好きとか顔がタイプとか気になっていたとかではなかったけれど、一緒に居続けると居心地が良くなってきて、一緒に居ない時は早く会いたいと思うようになった。でも、その気持ちは好きって気持ちなのかは最後までわからなかった。その人と会わなくなるまで、会わなくなっても、いまいちわからなかった。
その人は私が授業に行ってる時も歌のレッスンに行ってる時も、予定がない時は私の家で待っていてくれて、漫画とか洋服とかお酒とか食べ物とか一緒にやったガチャガチャとか、色んなものを置いていってしまう人だった。私が当時よくコピーしてた椎名林檎のライブDVDとか、自分用のコンタクトの洗浄液とか、ワイン開けるために買ってくれたオープナーとか、なんでも。
私はそれが不安で、なんだかマーキングされてるみたいで落ち着かなかった。本当の好きだったらこういうことは嬉しいんじゃないかと考えてた。でも私が本当に好きだったら、その人はそんなことしなかったかもしれない。わからないけれど。


唐突だけど、私は当時その人以外に好きな人が居た。「元彼」と別れたのも好きな人が理由。ちゃんと好きな人に好きって言って、言えなくても他の誰かと付き合ったりするのはやめようと思って、別れた。好きな人は私のことは全く好きではなかったようだけれど、それでも自分の気持ちに正直である方が良いと思った。
でももしかしたら、本当は「元彼」が好きだったけど振られるのがこわくて自分から振ったのかもしれない。もう理由なんてよくわからない。なんでも良かったのかもしれない。とにかく離れた方が楽になると思った。辛かった。2人で居るとどんどん寂しくなるから。


それで、その人と好きな人は近い関係に居たから、他の人に私とその人が会ってることがバレるのが嫌だった。狡いけど、バレるくらいならその人と離れても良いと思っていた。だって、好きな人を追いかけるために「元彼」と別れたのに、どうしてまた違う人と一緒に居るの?どうしてまた好きな人を追いかけられない状況になってるの?
私はそれが嫌だった。困っていた。自分で自分に疑問を抱いていた。


なんでこんなことになったんだっけ?


その人と一緒に居るのは楽しかったけど好きな人を追いかけないことは出来なかったし、その人との関係を友達に話すことも出来なかった。秘密の関係だった。
全然関係ない子には自分の状況を話したりもしたけど、やっぱり「正当でない関係」には限度があった。
私は我慢強くなくてすぐに耐えられなくなるタイプで、早くも関係を終わりにしたいと思っていた。
一緒に居るのは楽しいのに、辛かった。何が起こってるのか自分でもわからなくて、よく酔っ払って泣いたり喚いたりしていた。その人はそれが面倒くさかったみたいで、それが更に私の心を寂しくさせた。
一回私が40度近い熱を出した時、その人と一緒に居た時期だったから連絡をした。立てなくて、冷蔵庫にも何も無くて、辛かった。頼る人がその人しかいなかった。その人は誰といたのかわからないし一人だったのかもしれないけど、「辛いね、頑張って」と返事をくれた。涙が出た。
どうしてだろう、どうしていつも何も無くなってしまうんだろう、どうして何も残らないんだろう。
その人には、ぼうっとした頭で責め立てる長文のラインを送った。何日か経ってから返事が返ってきたけど、それはそういうことだった。


好きな人は振り向いてくれないし、元彼も振っちゃったし、その人も離れていった。また一人になった。本当はずっと、最初から最後まで一人だったのかもしれないけど、物理的な孤独というのは割と精神にくるものがあった。
嫌でも自分を見つめなきゃいけないし、洗濯物は溜まるしお腹は減る。どんなに辛くて落ち込んでいても、私はお腹が空いた。


一人でいるのは寂しいけど、誰と一緒に居ても、寂しい。ずっと一緒に居ても、何日同じ部屋に居ても、寂しかった。ずっと何かが足りなくて、誰か本当の私と愛し合うべき人が足りないものを持ってきてくれることを待っていた。
自分にしか塞げない穴を、いつか現れる誰かがゆっくり暖かく埋めてくれるんだと勝手に信じていた。


もう嫌だった、期待したり期待されたり期待通りにしたら飽きられたり、飽きちゃったり。


好きになると寂しくなるし、寂しくならない人は好きなのかわからなくなる。
私は「寂しい」に恋をしているのかな、そう考える程に、寂しいという感覚は私に痛みと気持ち良さをくれる。
いつか昔の話にして、若い時は色々考えてたなって思い返す時が来るのかな。誰かと愛し合って、寂しいから抜け出す時がくるのかな。


今だって寂しさを押し殺してなんとか乗りこなして勇気に替えて道を進んでるようなものなの。精一杯で、いつかまた溢れ出てきてしまいそう、ずっと不安に思っている。


また何も出来なくなる?
こわい。


私は怖いんだよ、愛を知った私がまた寂しさに恋い焦がれてしまうことが。
だから必死で逃げるんだよ、甘いねっとりとした誘惑から、日の当たる現実に無理やり顔を向けるんだよ。本当は猫みたいに身体を弄られたいし、一日中扉の無い世界で時間を浪費したい。


でももうわからないの。ずっと閉まっていたから、忘れちゃったの。
忘れちゃったから、仕方ないの。

この記事が参加している募集

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?