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台湾人作家 李琴峰#04 日本語で紡ぐ世界、言語の可能性を押し広げる

「五つ数えれば三日月が」で第161回芥川賞候補になった李琴峰(り・ことみ)さんについての記事です。(全4回)

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#04

フリーランスという道

作家の動きは思うよりも早かった。

2018年10月に日本での永住許可が下り、その2ヶ月後の年末、李琴峰は会社員を辞めて、日本在住のフリーランスになった。永住許可があるとはいえ、外国人が日本でフリーランスになることはかなり勇気が必要と踏んだ。生活面の心配はないかと聞くと、李はこう語る。

「そもそも私は会社に入る前から生涯会社員やりたいと思っていたわけではないので、いつか翻訳や通訳なりで独立したいと思っていました。別に文学賞を取ったから、作家になるため辞めたという感じではありません。きっかけではあるが、すべてではありません。自分が持っている武器をすべてフル活用して、今はなんとか食い繋いでいます」。

『独り舞』以降の小説もレズビアンの方を主人公とする物語が続いた。今後の小説の方向性を聞くや否や、李は素早くこう答えた。

「自分で観察してまとめると、キーワードは3つ『性的多様性、国籍と言語』。でもこの3つのテーマは独立したものではなく、時には絡み合って、そして相互に影響するようなテーマだと思います」。


常に社会が良くなることを願い

この度、李に取材を依頼した際、こう聞かれた。

「失礼ながら伺いますが、この取材を受けたことで、
 私にとって、もしくは社会にとって、
 なにかプラスになることありますか?」
(原文中国語、筆者訳)

考えさせられた質問だった。

「社会が良くなることを願う」、李の数々のエッセイを読むと感じられる。コラムだと、執筆のひとつひとつに分析と理由があった。社会にプラスの何かを、そう考えながら行動するのではないかと思う。


令和初の芥川賞候補へ

筆者が通ったライター講座の卒業制作原稿はおおむね上の段落で終わるが、どのようにnoteに掲載するかを考えているうち、李の新作の「五つ数えれば三日月が」が第161回、令和初の芥川賞の候補作になり、7月末の単行本出版も決まった。心が躍るニュースになった。

日本で働く台湾人の私。
台湾人と結婚し、台湾に移り住んだ友人の実桜。
平成最後の夏、二人は5年ぶりに東京で再会する。

話す言葉、住む国――選び取ってきたその先に、
今だから伝えたい思いがある。

第161回芥川賞候補作。

この単行本の紹介文から見ても、李が自ら上げたキーワード「性的多様性、国籍と言語」の要素が含まれていることがわかる。

芥川賞候補になると知った日、中央社のメール取材を受けた記事で、李がこう答えたようだ。

「受賞の有無に関わらず、より多くの人にこの越境する小説を読んでもらえれば」。

伝えたいことを読んでもらいたい彼女の思いを、
受賞よりも大事かもしれないその思いを、読者側で受け止めたい。

台湾と日本文学から養分をもらい、題材と表現言語がクロスする作家李琴峰の文学を本稿で語りきれぬものである。だが、李琴峰の作家としての勢いが止まらず、筆者はその活動に追いつくように努めるのみ。

〔取材を受けて頂いた李琴峰。手には『独り舞』の日本語版と中国語版。〕

(完)
(文中敬称略)

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<このnoteの説明>
令和初の芥川賞(第161回)がいよいよ7月17日(水)の発表になります。
今回「五つ数えれば三日月が」(『文学界』2019年6月号掲載、100枚)で初めて候補に挙がった台湾出身の作家―-李琴峰(り・ことみ)さんがいます。李さんのことを知って頂きたく、2019年5月までの講演や取材に基づいた記事をこちらのnoteでお届けしています。全4回です。

※当記事は筆者が(株)宣伝会議で受講した「編集・ライター養成講座 総合コース」の卒業制作を修正加筆したものになります。本文では敬称を略いたします。

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