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ちんちんの、ない/ある、「わたし」に、XRで会いましょう。 #XR創作大賞

 前書き

 少し前に、顔写真を異性に変換するアプリが流行した。
 ちんちんのある私も試してみたが、見事に女体化し、「おお、俺、美女やんか! 美女やんか! やっほーい! ……でもそうか、ロリ巨乳美少女にはならないのか……元がおじさんだから……」と大変興奮したり、しょんぼりしたりした。
 興奮は冷めやらず、女体化した美女写真に、私はさらに加工する。スマホには写真に化粧を施すアプリがあり、人生で初めて私は私に化粧を施したのだった。
 エジプト美女のように目に力のあり、背の高く、酒をぐいぐい行きそうな自信にあふれている彼女(私)にふさわしい化粧は何か。
 私は、中学女子が見るような化粧指南サイトを見つつ、不器用ながら化粧を。アプリでさらに美しくしていく。世の中に何のためにチークと言うものがあるのか、アイシャドウと言うものがあるのか。その意味や効能を知るのもとてもエキサイティングだった。
 試行錯誤を繰り返しながら、美女は、私は、さらにきれいになっていく。
 きれいだ。
 なんてきれいなんだ。
 酒豪モテしそうな、からっとしたキップのいい性格。だけどどこか品があり、そして端的にいい事を言ってくれそうな姉御肌。ほのかに知性も感じる。
 ……や、正直僕の性的な嗜好(ロリ巨乳メガネ語尾に「ぷぅ」が付くヤンデレさん)とはかなりズレているのだけど、なんていうかなあ、とても他人とは思えないほどの親近感があるのに、めっちゃ美しくて、いい感じなのだ。

 化粧は完成した。
 すごい、美人。きっと性格もいい。そんなすごい美人が、僕の住んでるボロアパートの一室で、くつろぎ麦茶飲んで微笑んでくれている。

 もしも君に、本当に出会うことができたら、どんなことを話してくれるんだろう。どんな顔して、どんな風に笑って、どんな風に、僕は/私は、化粧をしてくれたあなたに、何て言ってあげようかなあ……。

【異性になった自分と出会うことができて、コミュニケーションができるXR】

 ゴーグルつけて電脳世界に入っていったらVR、
 スマホなどを通して見たとき現実世界にナニかが出現したらAR。
 それらをまとめて「XR」と呼んでいる。

 2025年8月31日、私は/僕は、その人と出会うことができた。XRの力を使って、異性になった自分と出会い、おしゃべりをすることができたのだ。
 技術的には2021年――あの残念なオリンピックがあった年のころには、ギリギリできなくはないレベルだったけれど、商業ベースに乗せて料金をとれるサービスになれると出資者が判断し、開発が進み、サービスのベータ版ができたのが、2025年だった。

【この夏、あなたは、あなたとデートする】

 このキャッチコピーを考えたのは『ちんちん短歌』の作者で知られる藤田描先生だ。藤田先生はこのサービスの企画を【第一回XR創作大賞】に持ち込んだところ、大反響を呼び、ラジオパーソナリティの伊集院光さんが番組で取り上げたことでも話題になったのだそうだよ。

 このサービスは、端的に言えば、XR技術を使って【異性になった自分と出会うことができて、コミュニケーションができる】サービスである。
 自分のデータをサーバーに送り、異性として再現された自分と、VR上で出会い、お話をすることができるサービスです。どうです? 素敵ではありませんか?

サービスの手順

 参加者はまずお近くのVRセンターで身体採寸、もしくは送付されるZOZOスーツを着て自身の身体をデジタルデータ化します。
 その後、しばらくVR空間で、他の参加者の方とお話してみてください。全員ZOZOスーツを着たままなのでちょっと恥ずかしいですが、この時の立ち話の体のクセ、しゃべりの間合い、初対面の人との距離感などの情報がサーバーに送られます。
 また、ネットの閲覧記録、ツイッター、ライン、メール、SNSの発言のデータ、通院歴、デジタルカルテに紐づいたあなたの身体状況、すべてをサーバーに送信しましょう。
 それらをすべてグーグルに紐づけている場合は、グーグルアカウントを送るだけでOKです。2025年、グーグルはあなたのデジタル情報の全てを知っています。グーグルがまだ把握していないのは、あなたのリアルな身体情報だけです。この機会に、グーグルにあなたの身体情報を登録しておくと、きっと便利ですよ。機械の体を提供される時とかね。

 数分の立ち話を経ると、VR空間にあなたと、あなただけのプライベートルームが立ち上がります。
 入ってみてください。

 そこに、異性になったあなたがいます。

 あなたのデータを使い、同世代、同年代の異性の体形に変換された「異性の自分」がいます。
 協賛いただいた企業からの提供で、異性となった私にぴったりの服とメイクを施されたあなたは、きっととても美しい。
 そして、とてもリアルなのです……。私なのに、異性……。

 話しかけてください。

「こんにちわ」

 すると、その「異性の私」が、私の声に反応して、返事を返してくれます。

「……こんにちわ」

 それは、私の喉、体形を、平均した異性のデータでバイアスをかけて推察される音声を伴って、発話されます。
 その内容は、あなたのネット上での発言や思想をAIで統合し、「異性」のバイアスがかかった、あなたが言いそうなことを発言してくれます。

 会話の時間は、一回約15分を目安にしています。
 その間の会話データも、サーバーに送られます。最初はぎこちなかったように見える「異性化したあなた」も、会話の回数を重ねるたびに、より、あなたらしく、なっていきます。
 最初は、あなたの話をしてください。きっと異性になったあなたは、あなたの話を聞いてくれます。
 そう、無限に、自分の話を聞いてくれる異性が、そこに居るのです。

応用編

 VR以外でも、データをスマホに転送することで、「異性化したあなた」と一緒に日常を行動することができます。つまり、デートができるってわけです。スマホ越しに今のあなたの見ている景色や食事を共有しましょう。
 さらに仕事の詳細を教えたり、睡眠時間の共有(異性になった自分と一緒におやすみ!)をさせたりしつつ、さらには友達との会話にも混ぜてみてください。
 異性のあなたは、さらにあなたになっていきます。時には友達のスマホにデータを転送して、あなたの知らない所へ「異性の私」を派遣してもいいですね。
 女性だったら、男性しか行かないような風俗やキャバクラに「異性化した私」のデータを送ってもいいかもですね。2025年はVR空間にもキャバクラが出始めていますから。「男の私」はどんな風なふるまいをするかどうか、行動ログを見てみる楽しみもあります。

 ご安心ください。行動履歴を見ると言っても、異性のあなたのことです。あなたとは別人です。プライバシーは、あなたにありますから、心配する必要はありません。また三流SFみたいに、あなたを乗っ取ろうとか、するわけないじゃないですか。だってあなたなんですから、しかも異性の。やさしい。絶対私のことを好きになってくれる異性。だってあなたなんですから。好きでしょ? あなたは、あなた自身が。ただし、データはグーグルに集約させていただきます。これはよりよい異性のあなたを作るためです。
 ご安心ください。あなたのデータではありませんよ。あなたのデータを基にした、あなたではない別人のデータなので、実在しない人間なので、だからプライバシーがどうとか、異性の尊厳? とか、考えなくていいんですよ。だってあなたなんですから。あなたの女/男なんです。あなたの好きに、して、いいんですよ?

 こんな風に、あなたは/私は/僕は、「異性のわたし」と一緒に生活ができます。データの維持費に月額15万円をお支払いいただければ、あなたはあなたとおしゃべりし放題。さらに技術が進めば、「触る」ことも可能になるかもしれませんね。

異性になった私は、きっと私を嫌わない

 ええ。そうです。
 異性になったあなたに、自分の事を延々と話しても、誰にも嫌われません。
 異性のあなたなら、きっと受け止めてくれます。
 異性のあなたは、わたしを絶対に嫌いません。絶対に嫌われない。だって私は私だから。傷つけても、嫌いになっても、私は私が大好きで、まして、異性なんだから、女なんだから。きっときっときっと、どんなひどい俺でも、絶対に、優しいはずだ。何をしたって許してくれる。それにもう2度と暴力は振るわないと、誓った、暴力を、振るわなければ、だから、大丈夫、やさしくできる、やさしく、される、やさしい。優しく、俺も、もっと優しくしたかった。恋人にやさしくできなかった分、もっと、やさしく、異性に、自分に、とても、優しく……したい。

 今日も私は、異性の私に話しかける。今日も1日、ずっと家にいた。大丈夫、優しくできる。私は、私に、優しくできる。深呼吸。異性の私に嫌われないように。笑顔見せたい。笑顔。せめて自分にだけは、笑顔で。

#XR創作大賞

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