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【エッセイ】細田佳正さんの『アップデート』でわたしもアップデートした話

わたしは細田佳正さんがすき。
一個人のファンとして応援している。

恐らくはうんと前から、声だけを聞いて「この声すきだな」と気に留めていた気がする。誰が声を当てているんだろう?とエンドロールを見るとだいたい細田さんだった記憶がある(朧げでごめんなさい)。

もとを辿ると、声優の方を気にするようになったのは妹の影響だった。木村良平さんのファンだった妹から「声を当てるときの間が良平さんはすごいの!」というような、技術面の話をずっと聞かされていたから、ふーんとなんとなく、気にするようになった。

このときから、わたしは細谷佳正さんの名前と声が一致するようになった。気になって調べるようになった。

確か昨年だったかな…
書店で徘徊していたら、エッセイの棚に細田さんの『アップデート』を見つけた。このときは、細田さんエッセイ出したんだ!とだか思って立ち去った。

次のタイミングで、ちょっと出だしを読んでみよう…と手に取った。わたしが調べていた内容よりも深く(本人発信だから当然だ)、そして語り口調がやっぱり好みだった。

ゆっくり読みたいと思ったわたしは、真っ直ぐレジに持ち込んで家に帰った。あの日は確か、すごく暑い夏の日だったと記憶している。

エアコンの効いた部屋で、当時ハマっていたリプトンシリーズを飲みながら読んだ。

細田さんの顔をきちんと認識したのも多分このとき。それまでは、なんとなくかっこいい人。そんなイメージだけでいた。

著書の中でも表現されていた言葉を使わせていただくと、本当に職人のような人。
まっすぐな努力家。多くの人に寄り添う傍ら、寄り添われることを求めていない(期待していない、のが近いのかな)裏表のなさ。人間性がとてもすきになった。

読み進めていて思ったのは、声優という職業において大切な喉の手術をして、たくさん傷ついて、それでも声に出して感情を吐き出さない頑なさに、わたしは泣きそうになった。

どんな思いで、仕事の現場に向かったのだろう。どれだけ気持ちを抑え込んで、登壇していたのだろう。考えても考えても、とうていわたしの思考の中にあるものは細田さんに届かない。それはわたしが細田さんを全然知らないからだし、わたしが作り上げてしまっているイメージのせいもある。
だから、わかったように語るのは烏滸がましいと思っている。

でも、書かずにはいられなかった。
尊敬する方と過ごす時間を宝物のように大切にしている人ー。

そんな心優しい人のことを、わたしはわかったようにとやかく言いたくない。…言いたくないのだけれど、ただここで伝えたいのは、今この世界でこの声優業界で挫けることなく細田さんが活躍してくれていることが嬉しかった。

めちゃくちゃ最近の話で申し訳ないのだけれど、細田さんは『新幹線変形ロボシンカリオン』にキトラルザスという敵役のビャッコとして出演してくださっていた。当時息子は幼稚園年少から年中…くらいだったろうか。

慣れない親同士の付き合いに、息子の情緒不安定もあってわたしはかなり参っていた。パートに働きに出ていたけれど、体調不良が重なって、息子の心的ケアが必要で無念にも専業主婦に戻ったときだった。

息子といる時間は気を遣った。朝起きて、幼稚園を送り出して、親同士の付き合いがあって、迎えに行って、放課後に子供たちに合わせて過ごす。
夫は21時過ぎても帰ってこない。寝かしつけまでずっと大人1人で、わたしは息つく暇もなく朝を迎えてしまう日々にほとほと疲弊していたのだ。

不満もたくさんあった。本当はこう過ごしたいという気持ちがあるのに、自分の気持ちを無視し続ける。それが日に日に積み重なって、朝が来るのが嫌で布団から出れなくなった日もある。

でも息子のためだ。

今わたしがここで踏ん張らなかったら、息子はきっと家族の外の社会に馴染めない。誰にもうまく相談できないでいたわたしは、極端にそう思っていた。今となってはたぶん、そんなことはなかったのかもしれないとは、思う。でも、頑張ったから今の息子につながったのだとも、思う。

話がそれたが、そんなとき息子がシンカリオンにどハマりした。プラレールシリーズから出るシンカリオンを片っ端から欲しがるほどに、息子は毎週毎週欠かさずシンカリオンを観たがった。

幸いなのは、わたしは意外と息子のハマる作品を一緒にすきになれることだ(仮面ライダーも謎のプリキュアブームも共に楽しんだ)。夫は息子の好きなものをわかり合おうとはしない。興味が持てないと言っていた。別に無理に合わせる必要はないけどその点では、わたしは息子と共通の話題で盛り上がれるため、息子は当然わたしにベッタリだった。我が子は大好きで大切だという前提で誤解を恐れずに言えば、当時はわたしばかりに息子の比重が傾く気持ちが重かった。

また話が逸れてしまったが、わたしが一緒にシンカリオンを観るようになって好きになったキャラクターがこのビャッコ、細田さんの役だった。

同じ同郷の中で幼いセイリュウを主人公ハヤトに託して石化させられ序盤から姿が見られなくなったことにわたしは盛大なショックを受けた。

息子にも「ビャッコもう出ないの!?え?うそでしょ?」と何度も言った気がする。

シンカリオンは子ども向けアニメだと思っていたけど、普通に大人も楽しめる良作だと思う。大人の在り方も子どもの在り方も全部ひっくり返して、新たな価値観を教えてくれた。その点でも、わたしはこの作品に出会えてよかったと思っている。

そんな作品に、細田さんがいてくれたことは大きかった。

この気持ちは、エッセイ『アップデート』を読んだ後だからこそ言える言葉です。

ビャッコの仲間思いな姿や責任感のある行動。信用にたる相手に大切な仲間を託す姿。
まるで細田さんじゃないかーそう思った。

だからこそ、多くの作品に細田さんが出演している中で強い印象を残しているのはこのシンカリオンなのだ。

わたしは、シンカリオンという作品を通して親だから、大人だからとそういう風に振る舞うことをやめる決心がついた
息子の交友関係のために、わたしがここまで無理する必要はないと割り切れたのだ。

同時に息子は、シンカリオンを通して「相手の好きなこと=個性」を大切にできるようになった。いろんな人がいること、合う合わないがあることを早くに感じ取っている様子だった。

極端だが、私たち親子は細田さんに救われた。特にわたしは、細田さんをかたどる人生をまるっと含めた、細田さんの宿るビャッコに救われた。

著書の中でゲストの柿原徹也さんがこう言っている。

細田を好きなやつは、細田の1番になりたがるー。

『アップデート』細田佳正より

わかる気がした。
細田さんのことを好きな人は、細田さんの魅力の欠片に惹きつけられているはず。そうすると、その魅力を全部見たいと思うのだと思う。

でもそれは、完全に細田さんの気持ちを考えない外野のエゴなんじゃないかと感じる。

わたしは何度も言うが、大勢いる細田さんのファンの中でも、ファンと名乗るには浅はかすぎる気持ちを持ったファンと呼べないような存在だと思う。だからこそ、恐れ多くてこの記事を書くことをずっと躊躇っていた。

細田さんのファンだと言うこと。
細田さんに救われたエピソードを話すことに。
細田さんの人生に自分と重なるものがあったなんて…恐れ多くて、怖くて言うかなんてまったくなかったのだ…。

でも最近、細田さんの『アップデート』を読み返していて。やっぱりこの気持ちを書きたい。そう思ったので筆を取ったのです。

細田さんは、すごい役者だと思う。
人間性と仕事へのひたむきさ、人への思いやり。

細田さんは人に恵まれていると言うが、それは細田さんだからこそだと思った。そんな細田さんだから、本当に純粋に細田さんといたいと思いそばにいてくれるのだと。

わたしは声優業界で好きな人はたくさんいるが、ここまで記事に書いて気持ちを伝えたいと思う声優さんは他にいない。今後どうなるかはわからないが、現時点ではまずないと思う。

細田さんがフリーになり独立して活動されている今の姿をみて、わたしは勇気をもらっている。

自分らしく生きること。
自分の気持ちを大切にすること。

細田さんはそんなことを体現してくれていると思う。そしてその姿は今後も多くの人の心に残ると思うのだ。

幼稚な言葉でしか表現できないけれど、努力家で頑張り屋さんの細谷さんに、これからも良い出会いと幸運が舞い降りますように。

わたしが生きる人生の中で少しでも多く、作品を通してつながりが持てますように。

後者は完全にわたしのわがままだけれど…心からそう思う。

細田佳正さんに届くとは思えないけれど、あなたに支えられた人間もいたのだと、どうか胸を張って活躍していってほしい。そう願っています。





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