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「イヤホン」

イヤホンを落とした。
駅のホームで。
線路の上に。
駅員を呼んで探してもらうも見つからず。
高架下、道路を見に行く。
車に轢かれて壊れていた。
外装が割れ、基盤がのぞく。
弾けた欠片を拾い集める。
大切にすると約束したのに。
涙があふれてくる。
ごめんなさい。

約束破ってごめんなさい。
メッセージを送る。
これを買ってくれた大切な人に。
不運だったね。
けれど、あなたに怪我がなくてよかった。
返信を読んでまた泣きそうになる。
きっと君は壊れたイヤホンを見て、
いつものようにあーあぁと言うのだろう。
そして困ったように眉を下げて笑うのだろう。
大丈夫だよと私を慰めながら。

悲しいことがあれば落ち込むし、
ぐるぐると考えを巡らせ抜け出せなくなる。
溢れて処理しきれずに泣いて君を困らせる。
できるだけ落ち着いていたいと思うけど、
それが叶わない日は当然ある。
そんなどうしようもない私を見て、
笑ってくれる君が好き。

片耳だけ取り寄せられないか問い合わせよう。
君の返信はそう締めくくられていた。
怪我がなくてよかった。と心配し、
大丈夫だよ。と安心させて、
問い合わせようね。と解決策を示す。
過去と今と未来の私のことを考えてくれる。
その視野の広さに救われる。

落ち着きを取り戻した私は仕事に行くことにする。
バスに間に合わないなら休んでやろうと
改札へ向いていた足を、180度方向転換して
階段を上る。

潮が満ちて引くように。
喜びと憂いが日々の隙間を埋めている。
波が漂流物を運んでくるように。
大きな感情に振り回されることもある。
いつも凪いで穏やかでいられるわけじゃない。

一人で抱えきれないときは君に隣にいてほしい。
つま先が後ろを向いてしまう私を抱きしめて。
一緒に踊って。
くるりと回れば明日の方を向けるから。
君がいれば大丈夫になれるから。
君の優しさは私の強さなんだ。

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TR: イヤホン / 紙魚著||イヤホン
PTBL: 紙魚的日常||シミ テキ ニチジョウ <> 5//a
AL: 紙魚||シミ <@tinystories2202>


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