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単身赴任おじさん物語vol.3

以前、飲み会の席で経理の部長がこんなことをぼやいていた。

「僕ね、単身赴任続きで、ずっと家族と会っていないんだ。もう何年も。子どもが今年で大学を卒業するんだけど、長いこと会ってないから、次に帰ったときに何を話せばよいのかわからないよ」

会社では毎日狂ったように仕事にのめり込んでいるこの部長さんは、すでに50代半ばを迎え、定年まであと10年もない身である。
定年後の過ごし方をどう考えているのか分からないが、おそらく家族との過ごし方にひどく悩むことは想像に難くない。

経営企画の部長さんは、転勤が決まって社宅の手続きのやり取りをする際に、私にこんなことを話していた。

「僕はもう5年以上も家族と離れて単身赴任を続けている。そして、家族の家と僕の社宅、東京と大阪で高い家賃を払い続けている。いつまでこんな働き方を続ければよいのだろう。ヨコシマくん、君に言うことではないけれど、これ以上単身赴任が続くのであれば僕は会社を訴えたいくらいだよ」

普段は温厚な方が怒りを露わにしながら語る様子を聞きながら、とても悲しい気持ちになった。

「働くことで不幸になる人をゼロにする」
https://note.mu/tiredcafetokyo/n/nc4b6d034639e

という思いで人事の仕事に就いたのに、現実は働く個人をどんどん不幸にしているような気がしたからだ。ふだん一緒に仕事をして、よく知った人だけにとてもつらくて仕方がない。

「一体、俺は誰のために働いてるのだろう?」

会社の人事なのだから、もちろん相手は会社にいる人である。だけど、人といっても様々だ。

当然、1人の個人として人生を歩む人であることには間違いない。自分の家族の生活を守ったり、長年続けている趣味を楽しんだり、子どもの頃からの夢を追いかけたり…限られた時間とリソースの中で誰もが精一杯生きていて、かけがえのない人生を送っている。

一方で、会社側から見れば、経営資源としての人であり、働いている職場から見れば重要なプレーヤーであり、保有するスキルによっては余人をもって変えがたい人物かもしれない。

1人の人間の中には様々な側面があり、会社の経営と個人の幸せの両面を考慮して1番最適な配置を行う必要がある。それを何百人、何千人、何万人と同じように配置を検討していき、会社と個人の人生の全体最適を図っていく必要がある。

ビジネスの環境は絶えず大きく変わり続けるので、全体最適はいつだって一緒と言うことはない。常に変化を続けるのである。

だからこそ、何千人、何万人の全体最適を図っていく仕事は、同時に(全体最適と相容れない)たくさん個人の幸せをそぎ落としていく仕事でもある。

こぼれ落ちた幸せは一体誰が救ってくれるのだろうか。

日々、目の前の仕事に精一杯で、こぼれ落ちていく個人の幸せを見過ごしてしまっている。会社のためにはそれも仕方ないだろうとすら思ってしまうときだってある。

これから先も目の前の個人の幸せを救えなかったり、全体の幸せのために一部の個人の不幸を選ぶ道を取ることに悩み続ける日々が続くだろう。

時には人を不幸にする仕事も引き受けなければいけない仕事だからこそ、個人の幸せを考える解像度を上げていかないといけないと思う次第である。

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