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会社員人生は退職者情報の海に還る

一人の人間が企業に入社してから退職するまで短くて数年、新卒で入社して定年まで働く場合は約40年もの長期間に渡って会社に在籍することになる。

従業員名簿をはじめとした各種書類は会社側で退職後3年間保管することが義務付けられている(※)ため、会社に在籍していた人間の情報は人事システム上のデータとなって退職後も残される。そうした一個人の情報が地層の様に積み重なり続けていく。

※労働基準法109条、雇用保険関連の書類については雇用保険法に従う

毎月、従業員の名簿を作っている。
人事システムから必要な項目をピックアップして名簿を出力した後、在籍者と退職者にシートを切り分けて必要な情報を整理していく。退職者の名簿はほとんど使われることはない。とは言え、名簿の中には自分が生まれる遥か以前の退職者から先月末付の退職者に至るまで膨大な人数の情報が記載されているため、のべ人数では在籍者よりも多くなる。新入社員時代にはじめて名簿を見たときは思わず面食らった記憶がある。

名簿を眺めながら、退職した人たちが一体どんな人生を送ってきたのだろうと時々思いを巡らせることがある。

99.9%の退職者には会ったことはないし、今後も会うことはほぼないだろう。彼らあるいは彼女たちが会社を退職した後、現在どこで何をしているかもわからない。もう既に亡くなった人も多いだろう。

人によっては、何十年も勤めている古参の従業員に聞いてみれば何らかの情報を知っているのかもしれない。過去に業務上の付き合いがあったり、ともすれば、かつての上司部下だった、ということもあるだろう。

だが、万が一その人についての問い合わせがない限り、一度も会ったことのない人物について、わざわざ聞きに行く必要はない。職務上の必要性を超えているし、聞かれた側にも不審に思われるだろう。

ほとんどの従業員は退職後、会社の中で話題として取り上げられることもなく、忘れ去られて行く。
時間が経てば、その人のことを覚えている人間は会社の中に1人もいなくなるだろう。

その人が働いていた頃の生身の人間としての記憶は人々の中から失われ、実体のない記号的な情報だけが人事システムの中に蓄積されていく。

会社員人生は退職者情報の海に還り、奥底に沈んで、最後にはEXCEL一行分の情報だけが地層のように積み重なっていくのだ。

自分もいつかEXCEL一行分の地層でしかなくなる日がくる。

会社員は組織の歯車、なんて例えもあるが、確かにちっぽけな存在でしかないような気もしなくもない、と感じて何だか少しだけ虚しさを覚えてしまった。

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