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なぜ、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞したのか?<2>

2016年10月、小説家や詩人、劇作家などに贈られるノーベル文学賞が、アメリカのシンガーソングライターでフォーク・ロックミュージシャンのボブ・デュランに授与されたときのことは今でも鮮明に覚えています。
受賞発表のあと、多くのメディアがこの話題を取り上げ、「文学界では衝撃が走った」と報じていました。なぜなら、ノーベル賞100年の歴史上、はじめて歌手が文学賞に選ばれたからです。

わたしたちノーベル賞の仮選考委員会は、第二審査に移りました。
詩の重要な要素に韻(rhyme)があります。
だれもが耳にしたことがある「Humpty Dumpty(ハンプティ・ダンプティ)」では、

Humpty Dumpty sat on a wall,
Humpty Dumpty had a great fall.
All the King’s horses and all the King’s men,
Couldn’t put Humpty together again.

Humpty とDumpty、wall とfall、menとagain はそれぞれの単語の後ろの音になる韻が使われています。

ディランの歌詞にも韻が随所に使われているということを、詩心のあるサークルのボスが発見しました。たとえば、

(2)
Though I know that evenin’s empire has returned into sand
Vanished from my hand
Left me blindly here to stand but still not sleeping
My weariness amazes me, I’m branded on my feet
I have no one to meet
And the ancient empty street’s too dead for dreaming

詩節(stanza)(2)では、
・頭韻(alliteration)――sand、hand、stand、branded
・母音韻(assonance)――feet、meet、street

(4)
Then take me disappearin’ through the smoke rings of my mind
Down the foggy ruins of time, far past the frozen leaves
The haunted, frightened trees, out to the windy beach
Far from the twisted reach of crazy sorrow
Yes, to dance beneath the diamond sky with one hand waving free
Silhouetted by the sea, circled by the circus sands
With all memory and fate driven deep beneath the waves
Let me forget about today until tomorrow

詩節(4)では、
・頭韻(alliteration)――mind、time
・韻律(consonance)と母音韻(assonance)の組み合わせ――
frozen leaves、frightened trees、windy beach、twisted reach
・母音韻(assonance)――sorrow、tomorrow
などが使われています。

この巧みな韻の使い方と配置によって、ディランの歌が耳に心地よく響くポイントになっているようなのです。

よかったら、こちらのYoutubeで視聴してみてください。1964年の Newport Folk Festivalでの初々しいディランです。
https://www.youtube.com/watch?v=OeP4FFr88SQ

たまたまこれを書いているときに、NHKのアナザーストーリーという番組でボブ・デュランを取り上げていました。その中で、デュランのノーベル賞受賞を発表したノーベル委員会委員長は、彼の授与を決めた理由についてこう語っています。
「彼の音楽を奏でる方法は、2000年前に古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスが大衆の前で詩を読んだ方法と同じなのだ」。

デュランの書いた詩は、歌詞であって黙読するための詩ではなく、メロディにのって大勢の人の耳に心地よく響くよう巧妙に作成されたもの。そのスタイルが2000年の時を経て今もなお普遍的な価値があることの証左を示した。

というわけで、英語文学サークルの判定は………
僅差でボブ・デュランのノーベル賞授与を決定しました!

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