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「歪んだマザーボードのままで・・・ある宗教2世Tの回復への軌跡」その1

※この話はフィクションです

あるところに、カルト系宗教を熱心に信じた専業主婦がいました。
その専業主婦は、教団の教えに救われたので、自分の子供Tに対して、教団の教えに従い、Tのマザーボードとアプリを、宗教2世用にカスタマイズしていった。
こうしてTの親は「子供の幸せ」を願いながら、「宗教2世」を作り出していった。
キーワード:【宗教2世】【宗教教育虐待】【支配とコントロール】

Tは、最初は疑問をもち、出来る限りの抵抗をした。しかし、力ずくで抑え込んでいく親に対しては無力で、これ以上抵抗できないと悟る。
その結果、子供だったTは、自分の「自由意志」より「生存戦略」を選択しなければならなくなり、言われるがまま従ってしまうことになる。
キーワード:【学習性無力感】【ストックホルム症候群】

教団としても、Tが「疑問・疑い」を持たないため、親たちには、極力「一般社会」と触れさせないように指示をした。そして「疑問・疑い」を持つこと自体、罰するような教育体制を取らされていた。
キーワード:【隔離型教団】【内閉化】【善悪二元論的な思想

しだいにTは、大きくなり、親の力を頼らずに、自力で生きていくことが出来るまでに成長した。そのタイミングで、Tは残されていた「自由意志」を行使して、教団の「疑問・疑い」に向き合った。
その結果、いままで受けてきた「支配とコントロール」は間違っていた、と確信する。
キーワード:【覚醒】

Tは、とにかく、今まで受けていた「支配とコントロール」から逃げ出すことを優先し社会に出てみた。しかしインストールされてきた宗教2世用のアプリは、一般社会では役に立たないことに気づいた。しかもそのアプリを周りの人たちは、笑い馬鹿にした。
「いままでの人生はなんだったんだろう。俺はこれからどうやって生きていけばいいのだろう」そんな怒りと不安にさいなまれる日々。
Tは次第に精神的に追い込まれ、しだいに手の届くところにあった「酒」「ギャンブル」に救いを求めるようになった。
キーワード:【社会不適応】【適応障害】【精神疾患】【依存症】【自己治療仮説】

ある時、Tは「酒」でトラブルを起こしてしまう。生きていくことが嫌になった。すべてを終わらせたいと思った。でも自分の意思で終わらせることはできなかった。なぜだかわからないが、自分の「内なる生命力」の方が勝っていたようだ。
いろいろと悩んだ結果Tは「それでも生きていこう」という選択をした。
キーワード:【ヴィクトール・フランクル】【「それでも人生にイエスという」】【態度価値】

まずは、リアルに「食べていく」ためには、働かなければならない。
社会で生きていくための知識や経験、技術がないまま、社会に放り出されたため、最初は日雇い的な不安定な仕事を続けていた。
しかし不安定な仕事に将来の希望を見いだせないまま、「俺の人生このままで終わるのかな」と考えていたある時、ふと頭の中に、

「人の役に立つ仕事が最高の仕事なのではないか」

と、思うようになってきた。
キーワード:【ライフスキル】【SST(ソーシャルスキルトレーニング)】【生きがい】【大義】

自分の宗教2世用にカスタマイズされた「マザーボード」や「アプリ」を活かせる仕事はないかを模索している中で、「福祉」の世界であれば、聖書の原則である「隣人愛」の精神が活かせるのではないか。
そんな仮説の中で、「福祉」の世界に潜り込もうと画策をした。
私の中で「福祉」というのは「24時間テレビ」の印象しかなく、まずは「障害福祉」の分野で仕事を探すことにした。しかし学歴も資格も経験もないまま就職できる職場がなかったので、「老人福祉」(当時の言い方)の方に活路を見出そうとした。
求人を探していたら「バイクで事故を起こした職員がいるから、そこの補充のため急募している施設がある。資格や経験は不要らしい」という老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の情報があり、さっそく面接を受けて即採用となった(その職員が復帰するまでの臨時職員)
キーワード:【ストレングスモデル】【計画的偶発性理論】

Tにとって「介護」の仕事は、自分の特性を活かせる職場だった。介護の仕事にある種の「大義」を見出していたこと、そして宗教2世仕込みの真面目な性格と一生懸命さは、職場の人からも評価され、一目置かれるようになった。
この職場は、残念ながらケガをした職員の復帰をもって職場から去らなければいけなくなったが、Tの直属の上司たちが、施設のトップに、「T君を本採用するように」と強く勧めてくれたとのこと。
そして退職日に上司たちから「本採用できなくて申し訳なかった」と頭まで下げてくれた。
この経験がTにとって「あ、俺この世で生きていけるかも」と思えた瞬間だった。
キーワード:【ストレングスモデル】【成功体験】【自己肯定感】

続く


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