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「歪んだマザーボードのままで・・・ある宗教2世Tの回復への軌跡」その2

※この話はフィクションです。

前の職場では「成功体験」と「自己肯定感」という「アプリ」をインストールすることが出来た。そして本採用にならなかった悔しさを胸に、Tは新たな職場を探すことになる。
最初に行った職業相談所の帰り際に運よく「たった今新しい求人が入りましたよ」と呼び止められ、結果的にそこが二つ目の職場になった。
 職場は少し離れていて、臨時職員とのことで給料も安かったが、「介護福祉士」の受験資格を得るための実務経験(3年)を積ませて頂くための修行だと思い、働かせて頂くことになったが、1年後には、正職員として採用して頂いた。
(力仕事を任せたい男性職員を求めていたのかな?)
 正職員になったことで、経済的な目途がたち、一人暮らし、車の購入(安い軽自動車)、そして念願の放送大学に入学することが出来た。
 キーワード:【計画的偶発性理論】【衣食住が満たされた】【高等教育】【キャリアアップ】

介護職をしながら、放送大学に通う、社会人学生生活。夜勤明けにスクーリングに行くなど、今からじゃ考えられないハードな生活。それでもTとしては学ぶ喜びと同時に「これで人並みになれるかもしれない」「努力し続ければ必ず報われる」という希望と信念の元、充実した日々を送っていた。
ただ、このような充実した日々の裏では「宗教2世の自分はとにかく人よりスタートが遅れてしまったんだから、遅れを取り戻さなければならない。遊んでいる暇はないんだ」「とにかく追いつかなければならない」「一生懸命生きて、人から評価されないといけない」という強迫観念にとらわれていたことも事実である。
キーワード:【過活動・過集中】【公正世界信念】【社会的カモフラージュ行動】【否定的自己概念】【執着症】
 
ひたすら仕事や資格・大学の勉強をやっていたTに「向上心のある人」と勘違いしてくれた女性とお付き合いすることが出来、結婚することになった。
 その後は「家族」「仕事」「キャリアアップ」のみに集中して生きてきた。
パートナーの協力もあり、「介護福祉士」「介護支援専門員」を取得したのち、放送大学を卒業「大卒」、通信制の専門学校を経て、「社会福祉士」を取得。のちに「主任介護支援専門員」まで取ることが出来た。
高齢者福祉の世界で生きていくための資格という「アプリ」は大体インストールすることが出来た。

同時に、子供も生まれ、父親として「家庭」を築くことになった。
そして2人目の子供が生まれたのをきっかけに、「キャリアアップ」は一旦終了(もしくは断念)して、「家庭(子育て)」「仕事」に集中することになった。

キーワード:【パートナーの支え】【子供の存在】【『夢』を断念】【家庭最優先】

宗教2世として育ったためTは「普通の家庭」がわからないまま、子供が出来た。
しかし妻のおかげで何とか子供も大きくなった。子供から育ててもらう形でTは父親になることができた。
仕事面では、Tの持っている「アプリ」を活かしたいという欲が出てきて、30歳代半ばで、いままでやったことのなかった分野に挑戦。
しかし様々な環境の急激な変化から半年で体調を崩し、挫折。当時はとても辛い経験だったが、どのような状況になると自分のマザーボードが「熱暴走」を起こして「シャットダウン」するのか、身をもって学ぶ機会になった。
(まだこの時は「自分自身のマザーボードがどれだけ歪んでいたか」に気づいてなかった)
キーワード:【社会的カモフラージュ行動】【バーンアウト】【うつ病】【中年危機の兆し】

退職後、半年休んだのち、Tは別の職場の対人援助職の仕事に復帰。仕事の内容は今までの仕事に比べると精神的にハードになったが、それ以上にやりがいやプライドを持てる仕事で、周りの同僚や関係者から信頼も得られるようになった。
あまりに期待されたり、充実していたので、ついつい張り切りすぎて、「過活動・過集中状態」と「無気力状態」を繰り返しながら、何度か体調を崩しかけたりもした。
しかし以前のような「熱暴走」&「シャットダウン」の前でブレーキをかけることが出来、危なげながらも何とか日々過ごしていた。
キーワード:【気分循環性障害】【過活動・過集中】【公正世界信念】【社会的カモフラージュ行動】【否定的自己概念】【執着症】

しかしTが40歳代前半のある時、自分の中で「緊急非常ブレーキ」が作動した。
別に「熱暴走」を起こしていたわけではない。当時はTの専門外(IT関連)の勉強をしていたが、急にその本を開きたくなくなってしまった。そして意味もなく猛烈な焦燥感と不安感が襲ってきた。ちょうど20年前に「宗教2世仕様のマザーボードとアプリ」で初めて社会に出たときみたいな感覚。
家庭も仕事も充実しているはずなのに、ちゃんと社会に適応できるように頑張ってアプリをインストールしてきたのに・・
でも今回は原因がはっきりしていた。
「今回は明らかにバーンアウトではない。これが噂に聞いていた「中年危機」かも・・・」
キーワード:【中年危機突入】

「中年危機」の対策に関しては、その後、T自身が様々な本を読み建設的な対策を立ててきた。とにかく仕事面や私生活を含め「慎重に、丁寧に」生きていくことを心掛けるようにした。
1年以上は、新しいことには手を出さず、今までやってきたものに対して、棚卸をすることに専念した結果、宗教2世仕様「古いアプリ」のアンインストールは終わったような手ごたえはあった。
調子を取り戻した2019年から、憧れだった「公認心理師」の勉強を始め、同年8月の試験で合格。新人公認心理師として研鑽を続けて充実した日々を送り続けていた。
キーワード:【中年危機対策中】【公認心理師】

2020年に入り、現役信者の実親がトラブルに巻き込まれたとのことで、突然Tのところに相談が来た。
相談内容は「一般常識」があれば回避できるものだった。その相談内容の稚拙さに、ありえないぐらいの怒りが爆発した。そしてそれがトリガーとなり、過去の封印してきた子供時代の悲しさもフラッシュバックしてきた。Tの息子が自死したTの実弟の年齢に達したことも関係あるかもしれないが、とにかく今まで「目を背けていた課題」が一気に噴出してきた感覚だった。
T自身にとっては実母のことは「許していた」はずだった。そして宗教2世の問題も大体決着していたと思っていた。それだけにこのことはTにとっては「大ショック」だった。
「こんなに根深いもんだいだったとは・・」この出来事をきっかけに、自分の中にある「宗教2世問題」に向き合うことを決意した。
キーワード:【トリガー】【フラッシュバック】

「自分の中で『見て見ぬふりをしてきた』過去の傷つき体験が処理されていなかった。」
そのような結論の中、自分に対して過去のトラウマ体験を振り返る取り組みを行なうようになった。
約2年半の期間を通じて「トラウマインフォームドケア」「複雑性PTSD」「発達性トラウマ障害」「マルトリートメント」についての文献を読み漁り、「スキーマ療法」「STAIR/NST」「認知処理療法(CPT)」などの心理療法を自ら試す取り組みをしてきた。
キーワード:「心理教育」「トラウマ処理」「セルフケア」

自らトラウマケアを続けていくうちに、ある時「実は、自分の中の『マザーボード』が傷つき歪んだままで、回復できてないのではないか」という仮説に辿り着いた。
※その仮説に辿り着くために参考にした概念は
「早期不適応スキーマ」「過度な公正世界信念」「否定的自己概念」

しかし、「歪んだマザーボード」を回復させる方法が思い浮かばずに途方に暮れ続けていた。結構頑張ってきたがここでギブアップ。「白旗」を上げるしかない。

現在、助けを求めるつもりで、同じような「歪んだマザーボード」を持っている仲間を探して、音声SNS「スペース」で救いを求めている。
ここだったら自分の「歪んだマザーボード」について話しても理解してくれる人と出会えるかも。そして「歪んだマザーボード」の直し方や付き合い方を知っている人の話が聞けるかもしれない、と。
キーワード:「早期不適応スキーマ」「過度な公正世界信念」「否定的自己概念」「対話実践」「当事者ダイアローグ」

続く


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