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東大生集団わいせつ事件

東大生集団わいせつ事件〜「頭の悪い女子大生は性的対象」という人間の屑たち〜


初出 『新潮45』2016年11月号
本記事の「今年」は2016年。情報は2016年10月当時のもの
本文のおわりに、その後の情報を追記してあります


 今年の5月10日、火曜日。
 ゴールデンウィーク明けの東京・池袋は曇りで、風が南南東からゆっくり吹いていた。予報では夜半から雨になるらしい。気温は22度ほどで、湿度が70パーセントもあったから、道行く人はうっすら汗ばんでいたかもしれない。
 池袋駅で待ち合わせた東大生・松見謙佑ら5人は、近くの大衆居酒屋へと繰り出した。一行には他大学の女子大生が一人。誰とも面識はなかったが、遅れてくる東大生と知り合いだった。
 午後8時過ぎ、コンパはこの5人で始まった。30分ほどして、もう一人女性が加わり、続けてその女性を誘った東大の大学院生と、もう一人、同じく東大院生・松本昂樹が駆け付けてきた。松本は、最初からいた女子大生に声をかけた人物だった。
 傍から見れば、少しばかり羽目を外しすぎた大学生のコンパに見えただろう。松本らが来たことで、女性への遠慮がなくなり、女子大生は山手線ゲームで負けては、焼酎を飲まされた。そしていつの間にか男たちの手が体に伸び、ブラジャーをいじられ、胸をまさぐられ、ブラジャーのホックが外された。
 女子大生は寝たふりをして何とかその場をやり過ごした。そして午後11時30分、一次会は終了する。
 かなり酔っていた彼女は当然、帰ろうとした。だが松本が「お前、どこ行くんだよ」と引き止めてきた。二次会は仲間の河本泰知の部屋だという。そのうちに男が一人帰って行く。
 河本宅に行ったのは7人。うち女性は2人だ。そして部屋に入って1時間後、そこから女子大生が逃げ出して来た。近所の公衆電話を見つけるや駆け込んで110番通報した。
 通報を受け現場に急行した警察官によって、その部屋で逮捕されたのは松見だった。強制わいせつ容疑である。さらに19日、他の4人が逮捕された。うち、河本と松本は、現場にいたもう一人の女性に口止めを依頼、隠蔽工作を図ろうとしていた。

華麗なる東大生たち

 5人の経歴はいずれも華やかだ。
 松見謙佑は東京生まれ。御三家と言われる私立武蔵中学校・高校を卒業後、東京大学へ進学し、この時、工学部システム創成学科の4年生だった。両親ともに東大を卒業しており、父親はみずほ銀行に勤めたのち、ファンド運営会社へ移った。その父が単身赴任しており、人事変革コンサルタントなる肩書きを持つ母、学生の妹とともに、吉祥寺のマンションに住む。22歳(事件当時、以下同)。
 河本泰知は岡山県に生まれた。地元の名門校・岡山朝日高等学校から東京大学へ。松見と同じく工学部システム創成学科の4年生。父親は岡山市で小学校の教師をしている。豊島区巣鴨のワンルームマンションに独り暮らしで、ファミレスの調理バイトをしていた。同じく22歳。
 松本昂樹は、アメリカ合衆国の生まれである。東京学芸大学附属高校卒業後、東京大学工学部システム創成学科へ進学し、同大学院へ。修士1年。父親は国土交通省のキャリア。ハンドボール部に所属していたが学部生3年の春頃に前十字靱帯を切ってしまい、4年の春に引退。その後も出身校のハンドボール部でコーチをしていた。23歳。
 多島忠行(仮名)は福井県出身。福井県立藤島高校から東大へ進学し、同大学院へ。修士1年で、原子力国際専攻。2010年、高校3年生の頃には4人のチームで全国数学選手権大会に出場し、優勝したことがあった。事件発覚当時、参議院議員の山谷えり子を親類に持つことが報じられた。23歳。
 槇郁夫(仮名)は東京都生まれ、都立国立高校、東京大学と学び、同大学院へ進学。修士1年だ。実母は早稲田大学文学部卒でフードライター、小説家として活動しており、恋愛小説を数冊、出版している。本人も事件直前の3月に、母親の小説と同じ版元から、数学的思考をビジネスシーンで用いることにより問題解決能力が高まるという趣旨の著作を上梓した。巻末の自己紹介文には『工学系研究科システム創成学専攻』とある。23歳。
 5人はいずれも今年4月に結成された「誕生日研究会」なるサークルのメンバーだった。松見の逮捕後、残る4人は同サークルのツイッターアカウントとLINEグループの削除、口裏合わせの相談をするなどまめまめしく動いていたため、もはやインターネット上に痕跡は残っていないが、かつて存在していた同サークルのツイッターアカウント紹介文には「誕生日を楽しく過ごすためにはどうするべきか? そんな真理の探究を目指したインカレサークルです」とあった。しかしその内実は「女の子を酒に酔わせ理性のハードルを下げてわいせつな行為をする」(5人の調書より)ものであることが明らかになる。
 この日、5人は河本宅でその目的を果たそうとした。5月11日の0時から0時59分までの1時間に、そこで何があったのか。公判で提出された証拠や本人らの証言を元に再現してみる。

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