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12/9 billboard classics 小室哲哉 兵庫・西宮公演 ライブ・レポート 前編

2022年12月9日(金) billboard classics 小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2022 -HISTORIA- 兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール

 小室さんが今まで手がけた曲の数々とオーケストラの融合という大きなテーマを掲げたこのコンサート。
初演は2022年11月27日、小室さんの64回目のお誕生日という記念すべき日に東京・Bunkamura オーチャードホールで行われ、大盛況のまま幕を閉じた。その余韻が冷めやらぬまま、12月9日に兵庫での公演の日を迎えた。

 東京公演に続いて指揮・編曲は藤原いくろうさん。ゲスト・ボーカルはBeverlyさん。ラテン・パーカッションには今年9月に行われたTM NETWORKのぴあアリーナ公演にも参加していた小野かほりさん。演奏は京都フィル・ビルボードクラシックオーケストラ。
この兵庫公演ではゲスト・キーボーディストとして、浅倉大介さんの出演が発表されており、小室さん・浅倉さん・Beverlyさんによる「PANDORA feat.Beverly」の一夜限りの再結成が観られることが話題になっていた。   

 
「音楽は静寂に形を与える。その手を動かしているのは、天使か悪魔か。」この言葉は、ブラジル生まれの天才ピアニスト、J・C・マルティンスの伝記映画「マイ・バッハ 不屈のピアニスト」に出てくる音楽教師が言うセリフだ。

彼は神童と呼ばれるピアニストであったが、度重なる困難に見舞われ指の自由を失ってしまう。しかし、音楽への情熱は褪せることなく、いくつもの試練を乗り越え、80歳を越えた現在も音楽活動を続けている。

小室さんも観たと配信でおっしゃっていたこの映画。
映画のセリフの通り、音楽は空間や映像に陰影や色彩を与える。たくさんの表情をもたらし、生演奏は特にシナリオのない物語を紡ぎ出す。
60人以上のオーケストラで織り成し、奏でられる小室さんの音楽の歴史。総無垢材づくり、4層バルコニー形式という大人数収容の素晴らしいホールの中、今夜はどのような鮮やかさで彩られるのだろうかと期待に胸が弾む。

 開演時間。オーケストラの皆さんがステージに登場し、チューニングの音が場内に響き渡ると、どこか客席にも緊張感が漂う。そしてベビー・ピンクの正装をまとった小室さんが登場。会場は盛大な拍手に包まれる。

 マエストロのタクトが振られ、「Get Wild」のイントロ。続いて小室さんのシンセサイザーから、ムソルグスキーの「展覧会の絵」のメロディが厳かに奏でられる。その音に呼応するかのようにオーケストラが続く。シンセサイザーの荘厳な音色はまるでヨーロッパの教会のパイプオルガンのよう。一瞬で異国のカテドラルの中にたたずんでいる気持ちにさせる。そしてそのままTM NETWORKの「Get Wild」の世界へ。重厚な凛々しさを感じさせる。
 
 「展覧会の絵」は、小室さんが影響を受けたと語るエマーソン・レイク・アンド・パーマー(ELP)のアレンジが言わずとも有名であり、ロックとクラシックの融合という彼らの新しい試みは、当時大変センセーショナルな出来事であった。その斬新な部分を小室さんが継承しているからこそのセレクトとも感じ取れる。
 ウクライナに深く由来するこの曲を、小室さんは今年、ファンサイトでの配信で何度も演奏されていた。あらゆる境界を越えた様々な思いや願いがそこに込められているのかもしれない。

 小室さんのあいさつの後、「自分的なターニングポイントの曲になりました」と「My Revolution」。
「My Revolution」は1986年に渡辺美里さんに提供し、誰もが知る名曲となった小室さんの最初のヒット作。美里さん自身も1992年に「My Revolution第2章」として大村雅朗さんのオーケストレーションでクラシック・アレンジしたものをリリースしている。
 今回のビルボード・クラシックスでのアレンジは、ハープの美しい調べが印象的で、舞踏会で奏でられているような華やかさを感じた。色とりどりの花々が舞い踊るような明るい可憐さをイメージさせるような構成だった。

 3曲目はTM NETWORK「BEYOND THE TIME〜メビウスの宇宙を越えて〜」。アニメ映画「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の主題歌であり、原曲も宇宙をイメージさせる壮大なスケール感のある曲。
2021年12月には「日経宇宙プロジェクト」の一環として、この曲のデータが収められたSDカードがISS(国際宇宙ステーション)に打ち上げられ、翌月に地球に帰還するという夢のある試みがなされたことも記憶に新しい。
 オーケストラ映え、と言っては少し語弊があるのかもしれないが、元々の壮大さに加えて、弦や管の重奏がとても合う曲だということがよくわかる。そして、これぞ小室さんともいうべき特徴的なMoogの音色とオーケストラの重なりが美しい世界を作っていた。

 続いてtrfの「寒い夜だから」。この季節に聴きたい一曲。trfのダンサブルなサウンドもオーケストレーションによって、より優雅に、切なく、そしてドラマチックに彩られていく。途中で「トルコ行進曲」のフレーズがリズムを刻み、次の展開をふくらませていく。

小室さん「『寒い夜だから』という曲でした。この曲がなければ次の曲は作れなかったかもしれません。」と話し、小室さんは「恋しさと せつなさと 心強さと」をピアノで丁寧に弾いていき、オーケストラを導いていく。
 
 1994年、アニメ映画「ストリートファイターⅡ MOVIE」の挿入歌としてリリースされたこの曲は、映画公開を皮切りにぐんぐんチャートを駆け上り、ついにダブルミリオンを達成した。
 今年9月には来年発売のゲーム「ストリートファイター6」の日本版イメージソングとして「恋しさとせつなさと心強さと 2023」が新たにリリースされ、久々の共演が話題となっている。そして篠原さんはこの年末のNHK紅白歌合戦にこの曲で出場されることが決まっている。


 いつものライブでは、言うなれば小室さんがマエストロであり、コンサートマスターでもあり、時にすべての楽器を担っていることもある。
今回のオーケストラ、マエストロとの共演は、小室さんの新たな挑戦のひとつだと言えるだろう。

 このクラシック・コンサートについて、小室さんは「中学生の頃の夢が叶った感じがします。」と話されていた。夢を抱くこと、あきらめないこと、続けていくことの大切さを痛感する。そして常に挑み続ける姿勢、柔軟性こそが小室さんの40年近いキャリアを支えているのではないかと感じる。
 
演奏中の小室さんと指揮者藤原さんとのアイコンタクト、やり取り。モニターを見る小室さんの真剣な眼差し、オーケストラやパーカッション小野さんと息を合わせている様子。いつもとはまた違う気合いと気持ちが入った小室さんの表情が垣間見られた。

 そして、「愛撫」。1993年に中森明菜さんに提供された楽曲。作詞は松本隆さんが手がけた、知る人ぞ知る名曲である。以前、藤原さんはこの曲を中森明菜さんのクラシックコンサートで演奏したことがあったとのこと。一見、オーケストラと合うのだろうか?と思わせるこの楽曲。しかしそんなことは全くの杞憂に終わる。ラテンのリズムが心地よく、ストリングスが畳みかけるような旋律を奏でていく。当初、シンセサイザーの音がうまく出ない様子で、小室さんが舞台袖に向かってサインをする場面も見られたが、すぐに立て直し、まるでオーケストラが歌っているかのような、情感こもったかっこいいアレンジに客席が湧いていた。

続いて、安室奈美恵さんの「NEVER END」。2000年に九州・沖縄サミットのテーマ曲として作られた楽曲である。あれからもう22年もの歳月が流れたことに驚いてしまうが、楽曲は全く古びることなく、透明感のあるメロディーの美しさはより強調され、穏やかに、そしてたおやかにホールに広がっていく。小室さんのシンセの音色がオーケストラと共鳴し、小室さんしか奏でられない、唯一無二の響きを作り上げていく。まるでコーラスも加わっているかのようなシンフォニーだった。

第一部のラストはglobeの「PRESIOUS  MEMORIES」。この曲は小室さんが今年、配信やビルボードでのライブのセットリストに挙げ、幾度も大切に演奏されていた。曲の紹介のあと、ピアノ・ソロがしっとりとはじまる。キラキラと、そして時にジャジーに小室さん主導で曲は進んでいく。そっとストリングスが重なり、やがてオーケストラとの一体感を感じる素晴らしいハーモニーとなって、情感豊かに終焉していった。

あっという間に、もう一部のラストなの?というような速度の体感時間。そして、第二部ではゲストたちが登場し、さらなる趣向がちりばめられて、東京公演とはまた違うサプライズに驚きと感動の連続だった。

ライブレポート・第二部へ続きます。

Text : Tomoko Morita

西宮公演でのセットリスト






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