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潜伏者の三部作、無観客配信ライブ完結編 感想と憶測

TM NETWORKの無観客配信ライブ「How Do You Crash It?」は、2021年10月にone、そして12月にtwoが配信され、ついに2022年2月12日よりその第三弾「How Do You Crash It?three」の配信がスタートしました。(アーカイブは2月20日23:59まで観られます)

ネタバレを含む、現時点での感想、考察、そして憶測と妄想を述べます。

タイトルもなく、プロローグのように静かに始まるのは「TIME MACHINE」。
TMを説明するのにとても大切な曲の一つであり、1994年5月の東京ドームでのTMN終了ライブのラストにも演奏された曲。間奏で小室さんが弾くアレンジがしっとりと心に響く。時を経て、さまざまな思いを包み込み、どこか懐かしむような。

そして、タイトルが映し出される。
ティザー映像でも流れていた、海沿いの工業地帯を眺める少女の横顔の映像。
場面は切り替わり、別の海岸沿いでフードをかぶりたたずむ潜伏者のリーダーの横顔。
憶測でしかないが、ふたりは出会えない?すれ違い?
何らかのmistakeが起きている?
高揚感を掻き立てる、どこか不穏気で意味深なインスト(かっこいいです)。
こうして物語の中に今回も引き込まれていく。

oneとtwoに続いて3人が並ぶステージは宇宙のどこかに存在しているのか。少なくとも地球上ではないのだろう。2曲目は「Alive」。2014年から2015年にかけてのコンサート「QUIT30」で演奏されたアレンジに近いイントロは、一気にあのツアーを思い起こさせる起動音のようでもある。サーチライトのような照明の中、歌が始まる。タイトル、そして歌詞も今こそ現実味を帯び、リアルに聴こえる。

続いて、意外な選曲にタイムラインが沸いた「N43」。2007年発売のアルバム「SPEEDWAY」から。通称「彼シャツ」とファンの間で話題のオーバーサイズのCELINE風シャツに身を包んだ3人。この曲を小室さんは木根さんの曲の中で3本の指に入るくらい好きとおっしゃっていた。
「Fool On The Planet」や「Time Passed Me By」の世界観を残しつつ、年月を経たふたりを歌っている、続編のような感じもする。

予告にもあった木根さんのソロ・コーナー。
特徴的なのは「ループ・ペダル」を使い、記録したフレーズを再生しつつ演奏するスタイルを取り入れているところ。この奏法の有名どころとしてはエド・シーラン、日本では宮内優里などが挙げられる。木根さんがルーパーを使って演奏している映像は今回が初では。耳に残るアコースティック・ギターのフレーズと素晴らしいハーモニカの響き。何よりも昔も今も新しいことを臆せず取り入れる姿勢に心動かされる。

このイントロは何の曲?と話題騒然となった5曲目。正解は「RESISTANCE」。とてもTMらしい楽しいサプライズ。アップ・テンポでサイバー感ましましの新しいアレンジになっていた。この曲が応援歌だった、ずっと励まされてきた、と語るファンも多い。ちなみに小室さんのソロアルバム「Hit Factory」のバージョンでこの曲はバラード調になっている。変幻自在な曲でもあるということが今回改めて実証された。

画面は切り替わり、地球の各地の映像。
差別、貧困、環境汚染、気候変動、疫病、自然破壊…
依然変わらない、むしろ増えていく地球の問題。
インストともに色濃く印象を残していく。

一転して小室さんのコーラスからはじまる明るい「Be Together」。どこか救われるような、弾む気持ちになる。ツインキーボードとなり、Yamaha CP88を弾く木根さん。3人の衣装も変わっている。マイクを持ち替えた宇都宮さんの動きがとても軽やか。アレンジが新しく大きく変わっているのも特徴的。

もしかしたら、ここではこの3人は宇宙のどこかにいて、まだ地球のあらゆる問題に気付いていないということを示しているのだろうか?
2015年に存在しているから知らないのか?
あくまで妄想の範疇であるが。

そして濃いブルーとパープルのライティングの中、宙を見上げるように鍵盤を押さえる小室さんの姿。聴きおぼえのあるイントロ。アルバム「DRESS 2」のアレンジを元にした「Self Control」。マイクスタンドを持ち上げる、宇都宮さんの歌声はずっと変わらない。

そして、また浮遊するトライアングルとともに、正装といっていいのだろうか。グレーのモビル・スーツに身を包んだ3人が映し出される。oneで一部披露され、待ちわびる声が多かった新曲「How Crash?」の全貌がここで明らかに。小室さんの奏でるMoog Oneの音がTM NETWORKらしいなと実感するとともに、「I am」「Alive」につづく流れを汲んでいるように思わせる歌詞。この譜割を歌いこなせるのはきっと宇都宮さんしかいないだろう。

このコロナ禍の中で生まれた曲であり、「過ちを犯したとき、どう対処するか?どう打破するか?」という歌詞の内容はただ前向きというのではなく、より現実的なとらえ方を教えてくれているように思う。
この時代をしなやかに強く生きるための知性のような、哲学とも言うべきか。誠意ある姿勢で難題を乗り越えていくこと。それはいつの時代でも、どんな場所でもその人の人間性を映す重要なモラリティーであり、問題の規模によって、地域、国家、世界、果ては宇宙へと影響を及ぼす重要な、核心的な倫理観とも言えるのかもしれない。

そして画面は移り変わり、タブレットを持った少女が映し出される。
やや乱れた髪、くしゃくしゃな服、顔も汚れているのが気になる。
タブレットからは、他の諜報員か潜伏者からのレポートなのだろうか。 
この度のコロナ禍を予言したような2015年のビル・ゲイツ氏の実際の発言内容と、その事象が起きた場合についての危機を訴える声が流れている。「How Do You Crash It?」(それをどう打破しますか?)と。
そして、画面に見入る少女。

トライアングルが浮遊する中、一人たたずむ小室さん。
両手を広げると今までにない数のたくさんの三角が舞い、光り、宙に広がる。
まるで母船を操っているかのよう。
そっと木根さんと宇都宮さんが現れ、3人がトライアングルの母船に囲まれ、包まれる。
2015年の物語の終わりと、2022年の物語のはじまりを「ELECTRIC PROPHET」が静かにつないでいく。
むしろ物語は終わってなどいなくて、ずっとずっと繰り広げられていたのかもしれない。

エンドロールが流れ、threeもおしまいか、と思った瞬間、次のストーリーが展開し出す。
バーに入った革ジャン姿の宇都宮さんがレコードを取り出し、針を置くとエンディングテーマがはじまる。oneとtwoのエンドロールでも流れた「あの曲」が進化して、さらに心を打ち、揺さぶるようなインストとなって物語を動かす。
(「あの曲」の冒頭はfaniconの「TETSUYA KOMURO STUDIO」の初期に投稿されていた動画で流れていた曲にとても近いような気がしました。真相はいかに?)

そして、別の店に入っていき、バトンを見つける木根さん。PCに映し出された「バトン」に情報を打ち込んでいるのだろうか?(物凄くタイピングが速い!)

最後に、あらゆる場所の監視カメラの画像を見守る潜伏者のリーダーが映し出される。ピンクのセーターを着ている。
2015年にTEDでウィルスの脅威を語ったビル・ゲイツ氏もピンクのセーター姿だった。これは彼へのオマージュなのだろうか。
リーダーの憂いのある、黒目がちな瞳の行方が気になる。
100インチスクリーンに映し出される横浜中華街と思われる場所。
光る「NFTショップ」のネオンサイン
新たなミッションを受け取った潜伏者たちはすぐ近くにいるのだろうか…

三部作全編にわたり、物語のシーンにはセリフはなかった。説明のテロップはあったが、それはすべて観た人、受け手の想像に任されている。「TIME MACHINE」の歌詞を振り返ってそんなことを考えた。

Time Machine 過去だけじゃない 未来も
振り返ることはできない 壊せない
Time Machine 先が見える 
僕だけが揺れ動く世界さえ

ガラス越しに 視線が走る
24時間先 出会えるよ

Time Machine 知らせないよ 言葉じゃ
指先に触れるまで もうすぐさ
Time Machine 僕らだけは
目隠しさせおくれ  

「How Do You Crash It?」は極めてシアトリカルな映像作品と言える。もうこれは映画なのかも。物語と現実、ドラマとライブを行き来して、そのストーリーを言葉ではなく音楽によってなぞるような演出手法は斬新さを感じた。前作のライブ「QUIT30」の雰囲気を微かにまといつつ、無観客配信の利点を上手に生かしていたと思う。
そして、TM NETWORKの新曲を今、聴けるのはいうまでもなくうれしいことであり、これまでの作品やライブを思い起こし、その記憶のレイヤーとリンクすることもとても楽しい。

小室さんはエンディングについて「親切な余韻」と述べていたが、潜伏者たちが新たなミッションを受けて、地球上で再び活動をしているのはまぎれもない事実だろう。
次のストーリーを心待ちにして。

<TK's Costume>
エンドロール後の小室さんはふわふわとしたCELINEのピンクのニットを着用されていました。後ろ姿がまるちゃん?
Sweater:CELINE

by てっち衣装部

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