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ロンドンの無料新聞 Metroの尋ね人欄 "Rush-Hour Crush"

ロンドンの駅に行くと、無料の新聞が積んで置かれている。平日朝はMetro(全国紙)で、夕方はEvening Standard(ロンドン紙)。イギリスの新聞は、高級紙(Broadsheets)と大衆紙(Tabloids)に大別されるが、 これら無料紙はもちろん大衆紙。日々の主要ニュースがそれなりに書かれていて、無料の割にはちゃんとした新聞。

通勤の行き帰りで手に取る人は多く、発行部数はMetroが約90万部、Evening Standardが約30万部。ほかの大衆紙The Sun(約120万部)、Daily Mail(約80万部)と比べても立派な数字。ちなみに高級紙は、一番売れているThe Timesでも36万部と、大衆紙よりも発行部数が少ない。

無料紙でわたしが好きなのは読者投稿欄で、Metroの "Rush-Hour Crush" がお気に入り。バスや電車などで見かけた気になる人について送られた、小さな尋ね人欄。ある日の投稿はこんな感じ。

フランクフルトからサザンプトンに向かっていた、ゴージャスで、ベージュのコートを素敵に着こなしたナイジェリア人女性。水曜日の午後10時20分ヒースロー発のエリザベス線に乗っていた。あなたはくしゃみをし、恥ずかしそうに私を見た。我々は笑っておしゃべりした。あなたのことを思ってばかりいる。(一部中略)
グレーのあごひげを生やし、グレーの帽子とレインコートを着た男

13 Mar 2023 METRO

3月3日の夕刻、アールズフィールド駅で見かけたカールした金髪の男性。シャツの一部をタックインし、スコッチエッグを食べていた。それ以来私の心は落ち着かない。飲まない?
濃い色の髪、メタリカのTシャツを着た女性

13 Mar 2023 METRO

駅でスコッチエッグを食べている金髪の男性を見つめる、メタリカTシャツの女性。なんかいい絵。この欄を読むといつも、人物像やその場の情景が頭に浮かび、その後の展開についても想像が及んで、ドラマを感じてしまう。映画にでもなりそうだ。

そんなことを思っていたら、最近(3月15日)の紙面にRush-Hour Crush特集ページが組まれていた。それによれば、過去この欄を通じて3組が結婚し、子供も1人生まれている(来月もう1人生まれる予定)。いつからこの欄が続いているのかは分からないが、この3組のうち一番古いマイケルさんの話は2008年の夏に遡る。マイケルさんはある日、電車内で一人の女性に一目ぼれするが、どもり癖のある彼は声をかける自信がなく、この欄に投稿した。その後二人は恋に落ち、2011年に結婚、今は8歳の娘さんもいる。なんてハッピーな話だ。

この3組のほかに、最近の話として、Dragosさん(39歳男性)のエピソードもまとめられている。

「夕刻の帰宅途中、電車が私の降りる駅に近づいてきたとき、一人の女性がMetroを私に渡して、11ページを見るように言った。家に着いて私はRush-Hour Crushの欄を見た。ヘッドホンをした黒髪の女性が、緑のジャケットにビーニー帽姿のヘッドホンをした男性に興味があると書いてある。これは私のことだ」

その後DragosさんはMetroにメールを送り、毎日Metroをチェックした。Metroから連絡をもらった女性は、数日後紙面にメッセージを再び投稿した。

「Dragosさん、今週木曜日、午後6時40分にギルドホールのプラットフォームで会いましょう。一緒に6時47分の電車に乗って、近くのパブに行きましょう」

二人は無事パブに行き、意気投合。共にルーマニア人で共通項も多く、付き合うことに。「多分結婚式にMetroを招待するよ」なんて言っている。

MetroのWeb版には、"Love (well, lust) is all around us…" 「恋(いや、欲望)は身近なところにある…」とのキャッチコピー(映画 "Love Actually" を思い出す)もあるが、その通りの尋ね人欄。いやはや、イギリスらしい。

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