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セントジェームズ公園のペリカン

セントジェームズ公園(St. James's Park)は、ロンドンの中心にある王立公園。西にバッキンガム宮殿、東にダウニング10(首相官邸)やビッグベンに挟まれ、東京ならば皇居と霞ヶ関に隣接する日比谷公園といったところか。

セントジェームズ公園は、ロンドンの主要な公園の中でも小さいほうで、面積は58エーカー。それでも日比谷公園(約40エーカー)よりひと回り大きい。

小さいながら、その立地の良さもあって、ロンドンの中でも最も多くの人が訪れる公園である(年間17百万人以上とも)。観光客はもとより、スーツ姿の勤め人も多い。官庁街に出仕する役人や政治家なども歩いているはず。色とりどりの花が咲き、多くの水鳥やリスが見られる美しい公園。

この公園で特に面白いのは、ペリカン。現在6羽が公園に住んでいて、それぞれ名前がついている(Isla, Tiffany, Gargi, Sun, Moon, Star)。池の岩場でぼんやりと休んでいる姿がよく見られる。ペリカンは暖かいところに生息しているイメージがあるが、冬は寒いこのロンドンで、しかも都会の中心で暮らしているのは意外に感じる。

このペリカンたちには結構な由緒があるらしい。1664年にロシア大使が、時の英国王チャールズ2世に40羽のペリカンをプレゼントしたのが始まり(英国はこんな王室がらみの小ネタが尽きない。しかしなぜペリカン?)。その後ロシアは継続してペリカンを提供してきたが、20世紀の東西冷戦時代、アメリカもロシアに対抗してペリカンを提供したことがあった。ところがそのアメリカから来たブラウンペリカンは、この公園に住んでほどなくして病気に。アメリカは、ロシアによるペリカンへの危害を疑ったがロシアは否定。よく調べると、アメリカが贈ったペリカンは海水適応種で、湖水には住めない種だった。アメリカは慌ててそのペリカンを帰国させ、新たに湖水適応のホワイトペリカンを贈り直した。その後はロシア生まれ、アメリカ生まれが共に、平和に暮らしたという。

現在いる6羽のうち最高齢のGargiは、1996年にこの公園にやって来た。Gargiはロンドンから東に60kmほどいったサウスエンドの紳士宅の庭に現れ、住みついた。その紳士がGargiと名付け面倒を見たものの、餌に大変お金がかかるというので、セントジェームズ公園に引き取ってもらい、今に至る。

Gargi、岸に上がって散歩中?

実は、2023年3月現在、公園で姿を見られるペリカンはこのGargiのみ。他の5羽は公園内のダック島(立入禁止)の柵内で飼育されている。冬から流行している鳥インフルエンザ予防のために、柵の外には出られない。Gargiが外で悠々と過ごせているのは、彼だけが半野生(Semi-Wild)として扱われている故らしい。今は彼だけが散歩したり、優雅に池の周りを飛んだりしている。また他の5羽と会える日が待ち遠しい。

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