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スプリングバンク蒸溜所はやはりウイスキー造りの聖地だった

(基本最後まで無料で読めます、有料部分は投げ銭用です)

スプリングバンク蒸溜所の入り口はこんな感じ。
教会の隣に駐車場と貯蔵庫があって、左手の白い壁になっているところがビジターセンター。画面左側奥でウイスキーが造られている。
画面右側の白い壁はバー。正面奥はグレンガイル蒸溜所。

スプリングバンク蒸溜所ではモルティング(製麦)から発酵、蒸留、樽詰め、樽の貯蔵、瓶詰めまで全ての工程が敷地内で完結する。100%の工程がオンサイトで行われる蒸溜所は多くない。

通常の蒸溜所はモルトスターから麦芽を買ってくるが、スプリングバンク蒸溜所では大麦を発芽させるところからウイスキー造りを始める。床の上で麦を発芽させる作業、フロアモルティングはこんな感じ。


使用するのはスコットランド東部で産出されたもの。フロアを2フロア使い、1階20トン、2階10トン、ワンバッチ計30トンの仕込みを6日間かけて行う。
発芽のための温度調整は、上の動画にあるようにくわで鋤いてかき混ぜるのと、窓の開け閉めで行い、16度から20度を保つ。

上の写真の真ん中を見ると、ハイテクなセンサー(笑)で温度管理しているのがわかる。

ピートは麦を乾燥させて発芽の進行を止めるためのドライピートと、麦にピート香をつけるためのウェットピートの2種類。

屋根のあるところに置いてあるのがドライピート。

外に屋根もなく置いてある、濡れてもいいピートがウェットピート。どちらもインヴァネス近郊で採れたもの。

ウェットピートにいたずらしてあるのが笑える。

この釜でモルトにピートを炊きこむ。スプリングバンクは6時間ピートを炊き、30時間モルトを乾燥させる。次の写真がそのタイムスケジュール。ヘーゼルバーンはピートを炊き込まず、ロングロウは48時間炊き込む。温度は45度から65度を保つ。

ピートの釜の上でモルトが燻されるが、モルトも厚みがあってそのままではムラができるので、満遍なく乾燥・ピート香をつけるために65度にもなる内部にゴーグルとマスクをした2人が入って、モルトをかき混ぜる作業を行う。下の写真のバルコニーのようになっているところの奥で行われる、超重労働。

「うちのウイスキーに潮っ気が感じられるのは、汗が入ってる分もあるんじゃないかな」とツアーガイドのベンが冗談言ってた。

そこからモルトをミルにかけて粉末状にする。丈夫で全然壊れない優秀なミルで、蒸溜所の数が増えない限り新しいものが売れず、ミルの製造会社Porteusは1960年代に潰れてしまった。仕込みは1バッチ3.5トン。

粉砕した麦芽を温水と共にマッシュタンに入れる。

仕込みは4回、次工程に直接使われるウォート(麦汁)は2回目まで。それ以降の低糖度のウォートは次回の1回目、2回目の仕込み用に使われる。
麦からの糖分をできるだけ取り出せるよう、3回目、4回目は高温の水が使われる。
3トンもの麦の残りカスは、シャベルでかき出される。これまた重労働だ。タイヘン。

ウォート(麦汁)をスカンジナビアで採られたボートスキンラーチでできた6つのウォッシュバックに入れる。容量2.1万リットル。ウォッシュバックは木製なので20年程度が寿命。

上の写真は20年前から使われているウォッシュバックで更新時期が近い。
下の写真は今年1月に入れたばかりのウォッシュバック。明らかに色が違う。ステンレスではなく木製のウォッシュバックを使うのは、ステンレスと違って木肌に棲む乳酸菌などのバクテリアがウォートを旨くしてくれるはずという考えに基づく。

イースト75キロを加え、100-110時間発酵させる。他の蒸溜所では72時間程度だが、長時間発酵させるとよりフルーティーなウイスキーができる。

温度調整は基本せず、発酵して熱がでて自然に酵母が死滅することで結果的に調整される。

そして蒸留過程。3つあるスティルの一番左のオレンジの部分にガスバーナーがあり、スティームコイルでスティルの温度を上げる。

発酵後の4.5-5%程度のアルコール濃度から、1回目の蒸溜で20%程度のロウワインを作り、真ん中のNo.1ロウワインスティルへ。そこで2回目の蒸留が行われ、30-35度のフェインツが蒸留される。

そのフェインツ80%に対して、1回目の蒸留でできたロウワインを20%加え、右側のNo.2ロウワインスティルで3回目の蒸留が行われる。

これが「スプリングバンクは2.5回蒸留」と言われる理由。

この写真はスピリッツセーフ。魚も頭と尻尾を残して食べるように、ウイスキーの蒸留にあたってもヘッズ(アルコール度数の高い部分)とテール(アルコール度数の低い部分)は使われず、真ん中の部分、ハートだけがウイスキーになる。その切り分けをするのがスピリッツセーフ。

下の写真にもあるように、スプリングバンクの場合は76%から60%のアルコール濃度の部分のみが使われる。残りは捨てるわけではなく、スティルに戻され再度蒸留される。

より多くのエステル香を得るために、ハートがとれるタイミングでバルブを開け、銅製のスティルとの接触面積を多くする。

蒸留工程には6時間ほどかかる。

「うちの蒸溜所、どこ写真撮ってくれても構いませんので。隠すことなど特にありませんから」とガイド役をしてくれたベンが最初に言っていたが、蒸留スケジュールなど全て開けっぴろげなのが面白い。

蒸留されたニューメイクはスピリッツレシーバーに一度保管され、フィリングステーションで樽詰めされる。ガソリンスタンドにある機械を改造したんだ、と言っていた。確かにガソリンスタンドのノズルとそっくりだ。

アルコール度数70度程度のニューメイクに加水して、63.5度に調整して樽詰めが行われる。

ウイスキーづくりにはさまざまな種類の樽が使われることが示されていた。樽が小さいほど、ウイスキーが樽の影響を受けやすくなる。

この樽は2022年の621番目の樽。右側にAと書かれているのはウイスキーづくりに初めて使われる樽(ファーストフィル)、Bは2回目、Cは3回目。その後樽は装飾用やプランターなど別の用途のために売られていく。

こちらは貯蔵庫。スプリングバンク蒸溜所には8つの貯蔵庫があり、そのうち6つがダンネージと呼ばれる地面の上に樽を3段直置きにする貯蔵庫。
残り2つが7段樽を積み上げるラック式貯蔵庫。

ダンネージのもともとの意味は「Earth」だという。

ラック式の貯蔵庫の方が貯蔵している樽の数が多いので、入った途端にウイスキーの香りが強く感じられた。

この貯蔵庫にある最古の樽は45年前のものだそうだ。

貯蔵庫の中にはさまざまな樽があって面白い。上の写真は確か小さいポートの樽と言っていた気がする。ロングロウに短期間フィニッシュをかけているところ。

キルケランやスプリングバンクの樽に紛れて、さりげなく(?)ジュラの樽が置かれている。ケイデンヘッドのものだろうか。

スプリングバンク蒸溜所の貯蔵庫では、バレルやホグスヘッドといった200-250リットル入る樽では、年間およそ2%程度のウイスキーが蒸発していって体積が減ってしまう。エンジェルシェア、天使の分け前というやつだ。

樽の大きさや材質によってもエンジェルシェアは異なる。ヨーロピアンオークの方がアメリカンオークよりエンジェルシェアが多いので、一概に「あの蒸溜所のエンジェルシェアはx%」などとは厳密には言えない。

ボトリングすなわち瓶詰めの工程は、私が訪問した日はお休みだったので残念ながら見られなかった。

スプリングバンク10年の場合、バーボン樽で10年以上寝かせたウイスキー70%にシェリー樽で10年以上寝かせたウイスキー30%を加えて造られる。

具体的には、バーボン21樽とシェリーホグス9樽を混ぜ合わせ、加水してボトリングされる。

以上が、ツアーで聞いたスプリングバンク蒸溜所のウイスキー造りのあらましだ。

できるだけ正確にまとめたつもりだけれど、間違いがあったらごめんなさい。

話には聞いていたものの、何というか「まさに聖地」という感じ、多くの蒸溜所を見学してきましたが、他の蒸溜所と違うオーラが蒸溜所全体から強く出ていて本当に圧倒されました。

アイラ行きのフェリー乗り場からさらに1時間ほど南下しなければならず、グラスゴーからめっちゃ遠いけど、ウイスキー好きなら一度は是非訪問する価値があります。強くお勧めします。



以下は今年のスプリングバンクのフェスティバルボトル争奪戦の模様、蒸溜所限定のボトルの詳細その他、某SNSに載せるとまたなんか言われそうな(?)よくしてもらったことも含め雑談を書いております。ご興味ある方のみご覧ください。


最近のスプリングバンクへの熱狂的な人気を受けて、蒸溜所のショップではキャンベルタウンフェスティバル前後だと販売制限がかかっていたそうだ。

私はフェスティバルには行かれなかったのだが、知り合いがフェスティバル期間中に初めてショップにボトル買いに行ったら、ショップのおばちゃんに

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