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西日本豪雨:自衛隊によるコンビニ「商品」の緊急輸送問題についての補足Ⅱ(根拠法令、定義、権限体系等の検証)

特定非常災害指定(7/14)された「西日本豪雨」において自衛隊によるコンビニへの緊急輸送が実施されたことについて、根拠となる関連法令、用語の定義、権限体系等について、「見かねて補足」第二弾です。お節介で申し訳ないが、私にとって防災・減災は「3.11」の被災経験以後、重要な調査テーマでもあるので、事実関係を調べながら学習しているところです。(※暫定で④のみ無償公開)

前回『Ⅰ』①~③のおさらい

事実の確認
・各都道府県自治体とコンビニ各社は、災害時に相互に協力を行う双務協定「包括連携協定」を結んでいる。
・広島、愛媛等の「平成30年豪雨」被災自治体は、「3-11」以前から都道府県レベルでコンビニ各社とこの連携協定を結んできた。
・この協定に基づきコンビニは災害時臨時の物資貯蔵庫・配給所の機能を担うが直接物資を店頭で無償で配給しない。
・コンビニは災害時、『災害・情報ハブ』として「帰宅支援ステーション」となって帰宅困難者を支援したり、「支援物資供給所」として各避難所に支援物資を供給したりする多面的な機能を発揮する。
・避難所への物資供給にあたっては自治体が物資の購入費用を協定価格で負担するが、輸送費用はコンビニが持つ
・広義の「被災者」の救済を目指して「物資供給の連続性」や「更なる官民連携の強化」を行う『プッシュ型支援』の必要性は、熊本地震の反省から検討されてきた。

推論の提示
・コンビニでは緊急通行車両が輸送した「救援物資」を「商品」として通常価格で販売する。
・政府の行った対応は、「指定公共機関」としてのコンビニに対し、その営業を存続させ以て地域の被災者の生活物資需要を満たすための活動だった。
・輸送されたのは「救援物資」扱いされた「商品」だった。
・輸送された「救援物資」の枠から、店舗に陳列する「商品」と、避難所に届ける「物資」が予め選り分けられる。
・それでも通常の2倍、4倍の数量を搬入するため、店舗内倉庫すら満杯になる。
・コンビニは営利事業のため、利益を回さなければならず雇用も確保しなければらないので営業存続は死活的なニーズである。
・一部のコンビニ車両を「緊急通行車両」に指定し、コンビニ車両と自衛隊車両の両方による「救援物資」の供給活動が行われた。
・自衛隊車両が選択された理由には、「安全性」や「走破できるスペック」を勘案しまたコンビニ車両の不足を補うためである。
・コンビニは店舗で受け取り陳列する「商品」と避難所に搬送する「物資」を予め選定して自衛隊に輸送を依頼した。
・総理のリーダーシップは関係なく、既存の制度に則って「緊急車両」としただけのこと。
・自衛隊が直接物資をコンビニに輸送したことは初の試みだったのかもしれないが、それは現場判断によるものである。

具体的成果
・営業停止状態だった店舗が緊急輸送実施後74店舗から43店舗に減少した。
・実質的に31社が営業を再開している。
・被災者の一部から歓迎の声が聞かれている。

中間評価
コンビニが災害時に展開する多面的な機能を補完するものであったのではないかと当初は評価

本稿の目的

以上の内容の中で欠けていたのは、政府が行った行動に対する論評でした。

一部でしか確認できない主観的な結果論ではなく、政策として、まず④その適法性と、根拠法令。⑤政府が喧伝する内容(災対法に基づく指定公共機関、総理のリーダーシップ、プッシュ型支援の成果)は事実であったのかの検証。⑥想定された効果が得られたのか。⑦海自による緊急海上輸送や陸自による緊急陸上輸送が本当に必要なほど切迫した状況だったのかを「評価」していなかったのです。

そこで本稿「Ⅱ」では、根拠法令や、定義、権限体系等の検証を踏まえつつ、政府が行った対応の喫緊性や実質的な効果を現状知り得るかぎりの情報から検証し「評価」したいと思います。

④適法性:根拠法令・権限の遵守性についての評価

今回の自衛隊によるコンビニへの緊急代替輸送について一般に報じられる「緊急車両」(法律上の『緊急通行車両』)の根拠法は、災害対策基本法(以下「災対基本法」)第50条第1項  における:

8項「緊急輸送の確保に関する事項」に基づき「災害応急対策に使用する計画のある車両」及び
「指定行政機関等が保有・調達する車両又は指定行政機関等と災害時の協定・契約を締結した民間車両」

の規定であると思われます。政府側から明確な説明がないため、現状ではそう判断するしかありません。

(参考)警視庁(東京都)における「緊急通行車両届手続」

同法に基づく『指定行政機関』には、以下が含まれます。防衛省(自衛隊)も含まれていることがわかります。

指定行政機関(平成24年9月19日時点)

今回、世耕経産相が以下のツイートで言及した「コンビニは災対基本法上の指定公共機関」という発言の意味は、指定コンビニ各社が同法に基づく責務を負い、それに伴う特権を得たことを意味します。

今回、緊急海上輸送の対象となった民間の「緊急通行車両」を提供したセブンイレブン・ジャパン等「セブン&アイグループ」3社の昨年6月27日付ニュースリリースによると、発災時(有事)の際の「指定公共機関」としての3社の責務は、以下のとおりです。

「非常災害対策本部長又は緊急災害対策本部長からの指示等を踏まえた、防災計画に基づく災害応急対策の実施等」

一方で、「指定公共機関」指定を受けて生じる特権の一つが、この制度の「事前申請」を行えることです。つまり制度上、民間車両を【申請なしに】「緊急通行車両」に指定することはできません。災対基本法に基づく「指定公共機関」が申請するのです。

ここでポイントとなるのは、コンビニ各社が所有車両の「緊急通行車両」指定を「自発的に」事前申請したのか、それとも、「指示」されて「事前申請」を行い、なおかつ、コンビニ車両の輸送を自衛隊に要請したのかどうかです。いずれも、現時点では確証をもって断定はできませんが、少なくとも、指定対象となった広島県のコンビニ各社が積極的に物流回復上の課題を県や政府に提示していたことはわかっています。

"山陽自動車道を初めとする県内の道路が被害を受け、沿岸部を中心とする県内のスーパー・コンビニなど小売店への物流が滞り、食糧品等生活物資の搬入が困難な状態となったことから、小売業の企業から物流回復のボトルネックをヒアリングしたところ、山陽自動車道を復旧することにより、物流をかなり改善できることが判明。"(広島県公式サイト「平成30年7月豪雨災害に関する県の取組」より)

仮に、これら小売店が「緊急通行車両」指定の「指示」を受けた場合、その指揮権を有する「非常災害対策本部長」は防災担当大臣、つまりこの場合は小此木防災担当相のことです。小此木防災担当相は、現安倍内閣では国家公安委員長を兼任しています。 国家公安委員長は「緊急通行車両」事前申請の決定権者でもあります。

これら一連の事実が何を意味するか。

「指定公共機関」については、
1.総理大臣に指示する権限はない
2.指揮権は防災担当相にある
ということ。

「緊急通行車両」については、
1.申請制である
2.指定公共機関のみ事前申請が可能である
3.申請先は車両走行予定地域の県警本部である
4.申請の承認者は国家公安委員長である
ということです。

つまり、現安倍内閣の体制では、防災担当相(非常災害対策本部長)が「指定公共機関」に対して「緊急通行車両」の事前申請を行うことを「指示」でき、なおかつ防災担当相(国家公安委員長兼務)がその申請を「承認」できるのです。これはSOD(職務分掌)の観点からはひじょうに問題であると言えます。「災害時の意思決定が迅速化される人事」といえば聞こえはいいですが、要は実質的に申請と承認が同時に可能という職務分掌上ひじょうに問題のある体制となっています。この”問題ある体制”のおかげで小此木防災担当相は遅ればせながらも、迅速に「緊急通行車両」認定を行うことができたといえるのかもしれませんが、それは結果論です

広島県は、内閣府や経産省に協力を得て高速道路業者と交渉し、「緊急通行車両」の通行を可能にし、これを以て「県内のスーパー、コンビニへの生活物資の供給が改善され始めました」と報告しています。

"内閣府や経済産業省の協力を得て、西日本高速道路株式会社と交渉の結果、7月10日から、現在通行止めの河内IC~広島IC間の救援物資輸送車両等の通行が可能となりました。山陽自動車道が通行可能となったため、未だ物流が停止したままの地域もあるが、県内のスーパー、コンビニへの生活物資の供給が改善され始めました。(同上)"

つまり、自衛隊によるコンビニへの緊急代替輸送も、コンビニ車両の「緊急通行車両」指定も、被災地の小売業各社の要望を受けて県が内閣府・経産省に相談した上で実現した「物流と生活物資供給の回復努力」の一環として行われた活動だった、と判断できます。コンビニ復旧は県と業界の強い要望を受け政府により推進されたということです。

この要望を受けて、政府(安倍内閣)が行った対応が適法かつ適正、適切であったかどうかについては、上述のとおり、仮に「事前申請」が行われず「指示」があった場合は、職務分掌上は問題があったといえます。根拠法令については確認できましたが、手続規定が遵守されたかどうかについては情報が足らず、疑問符が付きます。

また、大臣規範における「適切な職務分担」の規定上、職務分掌上の問題が生じるような人事は内閣総理大臣の任命責任ともなり得るでしょう。この場合は、個人の職務能力の問題で責任を問われるのではなく、「指示」と「承認」の両方を行うことのできる権限のある職務を兼任させたことの適切性に関する任命責任です。事後にその判断が有効に機能したことは、この際ガバナンスの観点からは評価に資しません。

※指定行政機関と指定公共機関の詳しい説明についてはこちらを参照

⑤政府閣僚発信内容の信ぴょう性:「災対基本法上の指定公共機関」「総理のリーダーシップ」「プッシュ型支援の成果」発言等

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