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【完全版】検証と推論:米海兵隊が公表した『2019年度海兵隊航空計画』から #辺野古移設計画 と在沖海兵隊 #基地統合計画 が削除されたことの意味 #StandWithOkinawa

概要

2019年4月3日、米太平洋軍司令部は米海兵隊が年次の航空整備計画である『2019年度海兵隊航空計画』 (2019 U.S. Marine Corps Aviation Plan) を公開しました。その内容から、同18年度、17年度の計画に比べ「辺野古移設計画」(”普天間代替施設計画”)「在沖海兵隊基地再編計画」(”沖縄基地統合計画”)の2つの日程が今年度の計画から削除されていることが確認されました。

米国土安全保障省(DHS)がその公式サイトで引用した米海兵隊による定義では、『海兵隊航空計画』とは次のような性質の計画文書なのだそうです。

「新規の航空機への移行計画及び既存の航空機の実戦配備に向けた整備計画、作戦運用を可能にする諸要素、指揮統制計画を明示し、健全かつ効果的な保守整備計画の基礎となる海兵隊の10箇年の反復的な年次計画書」

"The 'Marine Aviation Plan' is an annual planning document, an iterative ten-year look at our plan to transition to new aircraft, keep legacy aircraft ready for combat, provide operational enablers and command and control, and build the healthy and effective maintenance base that makes this all happen."

海兵隊が今後10年を見据えて年次で更新する計画から、少なくとも2018年度時点で7年後の2025年度まで計画されていた二つの普天間・辺野古関連の計画が削除されたというのは、ひじょうに大きな変化であるといえます。この二つの計画の変更点と、もう一点、普天間飛行場の改修計画の内容の計3つに絞って、独自に過去3年分の『航空計画書』の原典を辿り検証。推論を立てました。

米海兵隊公式サイトの該当ページ

RBC NEWSでの報道(4月10日付)

1.初報を元に検証開始

最初に報道でこの事実を確認したのは共産党機関紙『しんぶん赤旗』の九州版で、同紙は「辺野古移設計画」が削除されたことを受け、「軟弱地盤の地盤改良工事で最低でも3年8カ月かかる見通しで、政府は工期が大幅に伸びることを認め」ており、「新たな工期についてはいまだに見通しを示せてい(ない)」ことから、「老朽化した普天間基地の大規模改修・長期使用に踏み切る危険もあります」と警鐘を鳴らしていました。

2019年4月8日付『しんぶん赤旗』九州版

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その電子版(9日掲載)

埋立て区域北側の大浦湾で軟弱地盤の存在が確認され、長期の地盤改良工事が不可避となったことから、米軍も見通しを失(った)」のではないかという同紙の見立ては正しいと思うのですが、同時に、同紙は19年度計画から削除されたもう一つの重要なポイントを見過ごしていました。

2.辺野古移設計画も沖縄統合計画も削除されていた

『赤旗』に次いで詳報を報じたのが地元紙の『沖縄タイムズ』でした。

2019年4月9日付、沖縄タイムス

しかし、『沖縄タイムス』の主眼は、普天間飛行場の使用が2028年まで継続されることになったことにあり、「名護市辺野古の新基地建設に伴う施設建設計画が削除されている」とはあるものの、既存の周辺基地に関する『沖縄統合計画』(一般に知られる「基地再編計画」)も削除されていることについては、最後まで触れませんでした。

その後、『RBC 琉球放送』『琉球新報』等からも報道が相次ぎましたが、4月10日現在に至るまで、どれも「沖縄統合計画」が削除されたことには触れてないことを確認しました。

4月9日付、RBC 琉球放送

4月10日付、琉球新報

地元の各主要メディアが報じないのだから、もしかしたら地元にとっては本質的な問題ではないと捉えているのかもしれませんが、私は国会で普天間返還政策に(秘書として)携わった経験上、普天間返還→辺野古移設→基地再編(返還)は三位一体の在日米軍基地再編計画の一環であるというのが日米両政府の認識であるという理解なので、この点は見過ごせないと思いました。

そこで、まず『沖縄タイムズ』の報道を受けてあらためてソース(原典)全197ページを精査したところ、17年度、18年度の同計画との内容と比較して、19年度計画には、①"Okinawa Furtenma Replacement Facility" (沖縄普天間代替施設計画) ②"Okinawa Consolidation Plan" (沖縄基地統合計画) に関する二つの計画と、③"MCAS Futenma" (既存の普天間飛行場の整備計画)について、少なくとも以下の差異が確認されました。

19年度計画では:

・"Futenma"に関する記載は3か所のみ
・①に関する記載が一切なくなっていた。(p.178)
・②に関する記載も一切なくなっていた。(同上)
・③普天間飛行場のすべての整備計画に「*」が付き、小規模建設費か維持運用費で費用を賄うと注記事項が追加された。(同上)

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18年度計画では:

・"Futenma"に関する記載は4か所
・①に関する記載があり24年度までの施設建設・整備計画が含まれていた。(p.183)
・②に関する記載があり、計画実施年が「TBD (未定) 」となっていた。 (同上)
・③普天間飛行場の整備計画に注記事項の記載がない。

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17年度計画では:

・"Futenma"に関する記載は16か所
・①に関する記載があり25年度までの施設建設・整備計画が含まれていた(p.271)
・②に関する記載があり、計画期間18年度同様「TBD (未定) 」となっていた(同上)
・③普天間飛行場の整備計画に注記事項の記載がない。

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つまり、17年度から継続して存在した①沖縄普天間代替施設計画と、②沖縄基地統合計画の二つの計画が、19年度計画からは消え去ってしまったのです。このうち②は、普天間返還の進展に伴い実施される嘉手納以南の基地返還に関するものです。つまり、普天間基地の返還が滞ると、この基地再編(=返還+整理統合)計画にも影響が出るのです。

また③普天間飛行場整備計画については、既存の普天間飛行場の整備計画について整備項目と実施時期を明記した箇所なのですが、19年度でのみ注記事項が追加され、その費用を「小規模建設費」「維持運用費」から賄うことになっていることから、一部メディアが懸念する「大規模改修」が実施される可能性は、少なくとも19年度中にはない、ということがいえます。

3.「沖縄統合計画」削除の重大性

2013年、当時の旧民主党・野田政権は普天間返還を含む基地再編に伴うグアムへの在沖海兵隊部隊の移転計画を、普天間代替施設計画の進展にかかわらず進めるという「パッケージの切り離し」を交渉するのに成功しました。これにより、『現行案』とされてきた辺野古移設計画が進まなくても、海兵隊のグアム移転は実施されることが合意されました。移転時期は2020年の始め頃に定められました。

グアム移転が先行実施されると、普天間所属部隊の七割が移転するので、普天間残留部隊のフットプリント(部隊規模)が大幅に縮小されます。あとは、この残留部隊が辺野古移設後に辺野古に移転すれば、『普天間代替移設』計画は完了となります。

この2013年の「パッケージ切り離し」の議論の時に同時に交渉され合意したのが、嘉手納以南の基地返還の先行実施でした。

安倍首相はさもこの合意に達したのが現政権の功績によるものかのように喧伝していますが、現政権は民主党政権が行った合意に基づきただ「先行返還」を民主党政権が合意した計画に基づき実施しているに過ぎません。

「昨年、民主党政権とアメリカ政府は14年までの辺野古移設は不可能と判断し、海兵隊のグアム移転と普天間移設と嘉手納以南6基地の返還とを切り離し、基地返還計画を年末までに作ることにした。それが突然の解散で返還計画は発表されることなく安倍政権に引き継がれたが、安倍政権は普天間移設と切り離された返還計画を再び一体化し、沖縄県知事の辺野古埋め立て承認にプレッシャーをかける事に利用する事にしたのである」
田中良紹・ジャーナリスト

近年実際に行われた「基地の先行返還」は、民主党が策定した返還計画に基づくものなのです。しかし、今回の「基地統合計画」削除により、今後はこの「先行返還」すら実施されなくなる可能性があります。

つまり、民主党政権がやっとのことで、「パッケージ切り離し」と「嘉手納以南の先行返還」の合意に達したのに、現政権はこれを無効にしてしまったのも同然なのです。それが、今回の『19年度海兵隊航空計画』から海兵隊所管の「沖縄統合計画」が削除されたことの重大さなのです。

4.2028年までの普天間継続利用

もう一つ、『沖縄タイムズ』他、地元各紙が最も注目したのが、普天間が「2028年まで継続利用」される問題でした。初報の『赤旗』はあくまで「辺野古移設計画」が削除されたことに注目し、普天間の継続利用については「大規模改修・長期使用に踏み切る危険もある」と、『沖縄タイムス』のように計画書中の根拠を示さずに「危険性」を示唆するに留めていました。

①『沖縄タイムス』の場合

一方、地元メディアの『沖縄タイムス』は、19年度計画では普天間の利用は最低でも2028年まで続くことが示されたことを強調しました。

同紙は、

①普天間に配備されている「作戦支援輸送機UC35D3機とUC12W1機について、普天間で28年度まで継続使用すると明記」(p.109)され、

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②第36海兵航空群(MAG-36)所属の海兵中型ティルトローター機中隊飛行隊VMM262とVMM265の二個中隊が「28年度まで各12機を運用すると記して」おり、計24機が継続配備される(p.72)こと、

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そのために

「2028米会計年度(2027年10月~28年9月)まで継続使用するスケジュール」が組まれていること(同上)、

そして

④同紙のこれまでの取材から「米軍幹部が複数の米連邦議員に28年度ごろまでの使用継続の見通しを伝えていたことが分かっている」こと

を根拠に、

「普天間飛行場2028年まで使用」と結論付けました。

その上で、

「日米両政府は13年の合意で、辺野古の新基地工事を5年と想定した上で、普天間飛行場の返還時期について「返還条件が満たされ、返還のための必要な手続きの完了後、22年度またはその後に返還可能」としていた」

として、

当初日米が合意した「2022年以後返還」は実現しない見通しとなったことを伝えました。

②「琉球新報」の場合

『琉球新報』も、「普天間飛行場を28米会計年度(27年10月~28年9月)まで使用し続ける計画を盛り込んだ」ことを重要視しましたが、普天間の改修計画が記載されたことにも言及しました。また日本側の責任についても「辺野古の新基地建設で軟弱地盤の対応に約5年かかることが判明したことなどが影響しているとみられる」計画変更・削除の原因が日本政府側にあることを示唆しました。

また、普天間飛行場の改修予定として

①「滑走路両端のオーバーラン(過走帯)改修や大山ゲートの改良などを挙げている」ことを明記(p.271)。

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その他、

②「在沖米海兵隊の移転に関する施設建設が予定されているグアムのアンダーセン基地の改修事業も18年航空計画に盛り込まれていたが、19年版ではなくなった」

と、18年度計画から19年度計画で変化した点(削除された点)を具体的に指摘しました。この②に気付いた点が流石だと思います。

ミニコラム:『海兵隊航空計画』が「報告用資料」でしかない?

同紙の特色として、沖縄防衛局の当局者に『海兵隊航空計画』の位置付けについて確認したことが挙げられます。その防衛局関係者曰く、海兵隊航空計画は、「内容が随時変更され得ることを前提に米海兵隊が内部の報告用資料として作成したものだ。米国防省の公式な立場を反映したものではない」なのだそうです。
これはおかしな話で、海兵隊は公式サイトを通じてその『内部資料』といわれる計画書を毎年公開しているのであり、またこの計画書は海兵隊の所属機関である海軍省(Department of Navy)管轄で統括されています。国防省は米軍5軍を束ねる統合運用・調整機関ですが(故にその正式名称は日本語で公式に国防総省(Department of Defense)といわる)海軍省は独立した省としての裁量を持って海兵隊航空司令部(Aviation Headquarters Marine Corps)が発行するこの『内部資料』とやらを公開しているのです。いかに計画書の権威を薄めたいとはいえ、同じ防衛相の内局でしかない防衛局が他国の内局を揶揄するのは不見識極まりありません。

③『RBC 琉球放送』の場合

三つ目の沖縄メディア『RBC 琉球放送』も、「アメリカ海兵隊は2019年度の航空計画で普天間基地での航空機の運用を2028年度まで継続することを明記しました」と、あくまで2028年継続運用問題を重要視する内容で報じました。

「普天間基地の返還時期について日米両政府は2013年の合意で「2022年度またはその後」としていました。しかし、返還の条件とされる辺野古への移設をめぐり埋め立て予定海域に軟弱地盤の存在が明らかになるなど計画の遅れが見込まれていてアメリカ海兵隊は普天間基地の使用が長期化することを想定したものとみられます。」

と、地元3メディアの中では、もっともダイレクトに今回の計画削除の原因が日本政府にあることを指摘したメディアといえるでしょう。

5.19年度は「大規模改修」は行われない

ひとつ、「2028年まで継続利用問題」の観点で、全メディアから抜け落ちている視点があるとすると、それは19年度計画では『赤旗』が懸念するような「大規模改修」は行われる見込みがないことです。

それは、『琉球新報』が報じたとおり、19年度計画では普天間飛行場の整備計画として「滑走路両端のオーバーラン(過走帯)」 (Aircraft Runway Overrun) 等が20年度に計画されてはいるのですが、この普天間整備計画にはすべて「*」が付随しており、その下の注記事項によると、この工事は”Unspecified Minor Construction”すなわち、未指定のマイナー建設費から拠出される「見込み」であることがわかります。

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(*) indicates projects which may potentially be funded by Unspecified Minor Construction or Operations and Maintenance appropriations. Exact appropriation varies by project. (訳:(*)は未指定のマイナー建設費若しくは維持運用費の歳費の充当によって賄われる可能性のあるプロジェクトを示す。正確な充当費はプロジェクトによって異なる。)

実は「滑走路両端のオーバーラン」の改修工事は、18年度計画にも20年度計画の事業として記載されていました。しかし18年度時点では、上記のような「*」も注記事項も記載されていません。つまり、18年度から19年度までの間に、この整備計画を「未指定のマイナー建設費」に充ててなければならないほど、計画の優先度が低下した可能性が疑われます。

ちなみに、この改修計画は17年度計画(p.271)にも記載があり、18年度同様、注記事項なしで19年度の計画として記載されています。それが18年度計画では「20年度」、19年度計画でも「20年度」と記載されているということは、改修工事が進んでいないか、あるいは予算上何らかの問題が生じたことが想定できます。

基本的に、こうした軍用工事の予算調達を工期の途中で変更するということは起こり難いでしょう。それが、実際に起きている(海兵隊自体で想定されている)ということは、予算上の縛りがあって、本来大規模プロジェクトとして承認された予算額では工事を完了できなくなったのではないか、という推測が成り立ちます。すなわち、米議会が普天間関連の予算に何らかの縛りを与えたと。(トランプ大統領のトップダウンの指示である可能性も、もちろん否めませんが国防費をさらに削減したとの報道は承知していません)。

いずれにせよ、通常の「維持運用費」や「小規模建設費」から拠出されるプロジェクトが「大規模改修」である可能性は低いでしょう。したがって、この短期間の工期で実施される改修工事等は、「大規模」ではない。また、ご覧のように19年度計画では普天間の整備計画は最長でも21年度までしか計画されていません。このことからも工期が短いため「大規模改修」には至らない、というのが、私の個人的洞察です。

6.結論

以上の観測から、各種メディアの報道内容を含め「2019年度米海兵隊航空計画」から得た洞察は次の四点です。

①辺野古移設計画は当面凍結となった
②普天間飛行場は2021年度まで小規模改修計画の対象となる
③普天間飛行場は最低でも2028年まで継続利用となる
④2028年まで各12機計24機のMV22オスプレイが普天間に配備継続となる

よって、普天間飛行場は2028年まで継続利用されるが、その改修工事は小規模かつ短期に留まり、その間、辺野古移設計画の取扱いについては保留となる、というのが私の当面の見立てです。

ここから導かれる推論は、海兵隊が当面、2028年まで利用できるよう普天間の小規模改修を行う意向であり、その裏には、普天間代替施設計画、すなわち「現行案」といわれる辺野古移設計画の実質的なとん挫と、海兵隊として普天間所属部隊の完全撤退を検討し始めたのではないかということです。その根拠は、これまで元海兵隊大佐のグラント・ニューシャム氏(現・「日本戦略研究フォーラム」の上級研究員)が述べてきたように、「辺野古」という軍用基地としてのオプションが、軍事的にも戦略的にも合理性を欠く選択であるということです。

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その上で、最近発覚した計画の杜撰さ、軟弱地盤に建設することの安全性の配慮への欠如等が重なれば、現行政府には責任遂行能力がないと見なされても致し方ないと思います。いたずらに兵力を分散させるよりも、本国により近しい環境で即応部隊としての一体運用性の確保を図るのではないでしょうか。だとしたら、そのロケーションはもはや国内に留まらないでしょう。

それが、私の個人的な見立てです。

以上

長文の御精読ありがとうございました。

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