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【書き起こし和訳】モデル・水原希子さんによる中国のネット・コミュニティに対する2016年の謝罪動画(全文)#NoHate

はじめに

2016年,人気モデルの水原希子さんは3つの疑惑を巡って中国内外の批判に晒されていました。①靖国と②旭日旗の前で侮辱的なポージングをしたこと,そして③13年に問題になったインスタ騒動のことでした。同年7月,水原さんは謝罪動画を投稿したのですが,翌年、今度は日本で出自の誤解から批判という名のヘイトに晒される羽目に陥りました。当時、全訳されたことのなかった彼女の謝罪動画を原文から書き起こして翻訳し、自分なりの解釈を「あとがきにかえて」として加えました。

書き起こし和訳

“Hello everyone, I am Audrie Kiko Daniel, also known to my fans and most people as Kiko Mizuhara.”

皆さま、こんにちは。オードリー・キコ・ダニエルです。ファンの皆さまやほとんどの方は「キコ・ミズハラ」の名前でご存知のことと思います。

“I would like to sincerely apologize to everyone in China and clarify a few things through this video, especially the online community, for being upset with me over recent events.”

中国のすべての皆さま、とくにネットのコミュニティの皆さまへ、このビデオを通じて、私のことで不快な思いをさせてしまったことについて深くお詫びをするとともに、幾つかの誤解を解かせていただきたいと思います。

“For those who are not familiar with my background, I currently live in Japan, but I was actually born in the United States. My dad is American and my mom is Korean born in Japan. Our family moved to Japan when I was two. And growing up in Kobe with my diverse cultural background has given me the opportunity to be exposed to different culture and befriend people from around the world. More importantly, I learned to appreciate mutual respect for different people.”

私の生い立ちをよくご存知でない方に説明いたしますと、私は現在は日本で暮らしていますが、生まれたのは実はアメリカです。父はアメリカ人で、母は在日コリアンです。私たち家族は、私が2歳の時に日本に移住しました。そして多様な文化的背景を持つ私は、神戸で育つことで、多種多様な異なる文化に接し、世界中の人たちと親しくなる機会に恵まれました。そして何よりも,異なる人びとと相互に尊重し合うことを学びました。

“I see myself as a global citizen, and even before coming to work in China in recent years, I have many Chinese friends in Japan who are very close and dear to me.”

私は自分自身を地球市民だと思っています。最近になって中国でお仕事させていただく以前から、日本にはとても親しい、とても大切な中国人の友人たちが大勢いました。

“As I now spend more time in China, I feel fortunate to be able to make new friends, learn more about China; about its long history and it's amazing culture. I definitely would not offend or intended to offend anyone in China.”

そして今、中国でより長い時を過ごすようになり、新しい友人たちと出逢い、中国の悠久の歴史や素晴らしい文化などに触れ、中国についてより深く学ぶ機会に恵まれたことを幸運に思っています。中国の誰にもけっして不快な思いをさせたくはありませんし、またそうする意図もけっしてありません。

“Hence, I would like to clarify and bring up close on three recent incidents.”

ゆえに私は,3つの出来事について、誤解を解くともに、その真相に迫りたいと思います。

“Firstly, I am a supporter of world peace, and definitely, anti-war. I'm confirming that this is definitely not me in the picture. A very good Chinese friend told me that this is a case of ‘mistaken identity’.”

まず、私は世界平和を支持し、断固として反戦の立場をとる者です。あらためて確認しますが,この画像に写っているのは確実に私ではありません。中国人の朋友が教えてくれました、これは所謂中国の故事に倣う「人違い」だと。

“The second incident which I would like to clarify is related to another picture. I was accused of posing offensively in front of a flag. I would also like to confirm that I am not in the picture and that I am a supporter of peace.”

誤解を解きたい二つ目の出来事は、もう一つの写真に関連しています。ある旗 [旭日旗] の前で [中国人にとって] 侮辱的なポーズをとったと疑われていました。これについても,画像に写っているのは確実に私ではないこと,また私は平和を支持する者であることをあらためて確認させていただきます。

“Thirdly, there was a regrettable incident on Instagram in 2013 when I was introducing my friend to Instagram and I was encouraging him to post pictures. As a result, I was supporting his posts by giving him 'likes,' but regrettably found out that he had posted an extremely inappropriate picture. I deleted my 'like' within an hour, and my friend also deleted the picture after realizing that he was wrong.”

三つ目は,2013年にInstagram上で,私が友人にInstragramを紹介し,画像の投稿を薦めていたときに起きた残念な出来事でした。私は彼の投稿に「いいね」をすることで彼を支援していたのですが,[後になって] 彼がきわめて不適切な画像を投稿していたことを知る残念な結果となりました。私は1時間以内に「いいね」を取り消し,後で誤ちを犯してしまったことを知ったその友人も画像を削除しました。

“In addition to say[ing], <不起(I'm sorry)> to everyone, I would also like to encourage anyone who has been misunderstood to speak up, and present the truth when caught up in "mistaken identity" situations.”

皆さまに「ごめんなさい」を伝えるとともに,皆さまには、[私のような] 「人違い」から生じる状況に巻き込まれた場合には、声を大にして訴え出て、真実を指し示すように呼びかけたいと思います。

“Lastly, I would like to apologize, again, for upsetting anyone. We are all from different cultures, but I truly believe that with more mutual understandings, love and peace will bring us together and make the world a better place.”

さいごに、皆さまに不快な思いをさせてしまったことについて,重ねてお詫びいたします。私たちはみな、異なる文化を抱えています。けれども私は,相互に理解を深めあえば,愛と平和が私たちを結びつけ、よりよい世界をつくることができると,そう心から信じています。

"謝謝大家(Thank you very much.)"

ありがとうございました。

[付録1] 訳者あとがきにかえて

実はこれから私が書こうとしていたことの大半は,すでに2016年に『リテラ』が指摘していたのでそこは割愛する。それでも尚,ヘイト界隈は今も全く悪びれず,水原さんを”反日女優”と決めつけ,ヘイトスピーチの対象にしている。

そう「固定」しなければ困るのだろう。

一部では有識者までもが,この16年の謝罪動画をもとに,水原さんを批難する者はヘイトを振り向けているのではなく,彼女が『日本人ではないことを強調した』と,「居直る姿勢」が問題なのだともっともらしく強弁する。

こういう「擁護を装った一見合理的な批判」が一番タチが悪い。

だが,彼女は日本人ではないことを強調したのではない。鍵となる発言は,彼女がどのようにして『地球市民』であるという認識に至るほどの国際感覚を培ったかにある。原文に立ち返らずに誤訳だらけの字幕動画を元にするから,こういう見当違いの(だがもっともらしく聞こえる)詭弁を宣うことができる。

"そして多様な文化的背景を持つ私は、神戸で育つことで、多種多様な異なる文化に接し、世界中の人たちと親しくなる機会に恵まれました。そして何よりも,異なる人びとと相互に尊重し合うことを学びました。"

And growing up in Kobe with my diverse cultural background has given me the opportunity to be exposed to different culture and befriend people from around the world. More importantly, I learned to appreciate mutual respect for different people.

この発言の意味がわかるだろうか。

彼女は神戸で育ったことを誇りにしているのだ。ただでさえ「多様な文化的背景」を持つ水原さんは,神戸で「多種多様な異なる文化」に接した経験を経て「異なる人びとと相互に尊重し合うことを学んだ」と語っているのだ。これは,彼女のスピーチの読点と,原稿上の読点を取り違えることによって生じる錯誤だ。

水原さんは確かに動画では “and growing up in Kobe” で一呼吸をとっているが,それは原稿の流れからいうと不自然で,それをスピーチの呼吸と合わせて「神戸で育った」とするのは聴き取り違いであり誤訳なのである。これは条件句として,「神戸で育ったため」と解釈する。

つまり,その後に続く息継ぎの必要な長い文は,すべて「神戸で育ったことで得られたもの」として語られているのである。そして,これは容易に想像できることでもある。神戸は戦時中,ドイツの迫害を逃れたユダヤ人たちが身を寄せた場所であったことも有名な国際都市だ。

現在も世界10都市と提携を結び,幅広い分野で国際交流を行っている。市の基本方針が『外国人の方々が暮らしやすいまちづくり』。つまり,『地球市民』の彼女にとって神戸は暮らしやすく,また「多種多様な文化」に接し,「世界中の人たち」と親しくなる機会を育んだ場所でもあるのだ。

彼女は愛着と誇りを持って,神戸の国際性をこの一文で語っていたのだ。中国のオーディエンスに対して,自分の非を詫びて謝罪しながらも,堂々と日本の故郷・神戸の誇るべき点をアピールしているのである。

それが彼女の『地球市民』」観のルーツにあるからだ。

日本人として寧ろ誇りに思うべき瞬間ではないか。

更に最後に彼女が何と言ったか。

"皆さまには、[私のような] 「人違い」から生じる状況に巻き込まれた場合には、声を大にして訴え出て真実を指し示すように呼びかけたいと思います”

 I would also like to encourage anyone who has been misunderstood to speak up, and present the truth when caught up in “mistaken identity” situations.

と述べている。つまり誤った批判・指摘には敢然と立ち向かって自らの正義を主張することに臆するなということだ。

日本人としての深いルーツを神戸で育んだ彼女が,中国人たちのいわれなき批判に対し,毅然と認めるべきことは認め,否定するべきことは否定した。これって,「同じ日本人」としては,「胸のすく瞬間」なのではないのか。ましてやネトウヨ系なら尚更だろう。中国人たちにバシっと言ったんだぞ?そこわかってるか?

だが,わかるはずもない。一年も前から誤訳まみれの字幕動画と,それを元にした三流ネット記事をベースに批判を展開したきたのだから。「グローバル人材」なる『人づくり』を目指す安倍政権を支持する革新保守ならば,「わが国のグローバル人材がやってくれた!」と小躍りしてもいい位だ。

だが,非公式動画の字幕を信じ込んでしまう程度のリテラシーしかないから,日本語としても字幕がおかしく前後の整合性がとれていないことにも気づかない。そして「靖国」「旭日旗」のこのキルワードが否定されたことだけに激昂し,「反日」呼ばわりする。どちらが「反日」なんだ。大局を見ずに結果的にグローバル人材を辱めることの何が「反日」でないと言うのだ。

この「謝罪動画」の真の価値を見出すこともできず,1年間批判の材料にし続けてきたヘイト界隈は言うまでもなく,あまつさえ詭弁を弄して「擁護を装った合理的な批判」を展開した所謂有識者には,「声を大きく」して『恥を知れ』と言いたい。

水原さんが恥を忍んで,でも毅然と,謝るところと否定することのメリハリをつけてた堂々たる謝罪動画により守ったのは国際都市,そして水原希子という国際的な才能を生み出した母国日本の面子である。つまりわれわれ一般の日本人の面子である。それを「有り難い」と謝意を表すならまだしも批難の的とするのは筋違いにも程がある。

[付録2] 追加解説

水原謝罪動画の肝「神戸が私を地球市民に育てた」

謝罪動画の内容が「日本人ではないから」という言い訳でしかないという批難がいかに的外れであることは,上記「あとがきにかえて」で説明したが,原文の詳細な解説については割愛していた。水原さんが動画で “and growing up in Kobe” で区切りを入れていることをなぜそのまま「句点」として受け止めてはならないのか,その理由をより詳しく解説する。

これを理解するには,前段の箇所が何を言わんとしているか,またパラグラフ全体が何を言わんとしているかを俯瞰的に把握することがまず肝要となる。

"For those who are not familiar with my background, I currently live in Japan, but I was actually born in the United States. "

私の生い立ちをよくご存知でない方に説明いたしますと、私は現在は日本で暮らしていますが、生まれたのは実はアメリカです。

"My dad is American and my mom is Korean born in Japan."

父はアメリカ人で、母は在日コリアンです。

まず,この二つのセンテンスの目的は,次のことを報せることにある。

・日本に暮らしていること
・出生地はアメリカであること
・父と母はそれぞれ別の国の出身であること

"Our family moved to Japan when I was two. "

私たち家族は、私が2歳の時に日本に移住しました。

"And growing up in Kobe with my diverse cultural background has given me the opportunity to be exposed to different culture and befriend people from around the world. More importantly, I learned to appreciate mutual respect for different people."

そして多様な文化的背景を持つ私は、神戸で育つことで、多種多様な異なる文化に接し、世界中の人たちと親しくなる機会に恵まれました。そして何よりも,異なる人びとと相互に尊重し合うことを学びました。

この二つの長いセンテンスの目的は,次のことを報せることにある。

・日本には二歳の頃から住んでいること
・国際感覚を身に着けたのは神戸のおかげであること
・その最中に相互尊重の精神の大切さを学んだこと

1パラグラフ5センテンスという一般的な決まりを律儀に守っているこのパラグラフがいわんとしていることは,総合すると:

・日本に暮らしていること
・出生地はアメリカであること
・父と母はそれぞれ別の国の出身であること
・日本には二歳の頃から住んでいること
・国際感覚を身に着けたのは神戸のおかげであること
・その中で相互尊重の精神の大切さを学んだこと

つまり,

「二歳の頃から日本に暮らしているが出生はアメリカ。父と母はそれぞれ別の国の出身者。私を育てたのは神戸の環境で,国際感覚は神戸で多種多様な文化や世界中の人びと接して身に着いたものです。その中で相互尊重の精神が何より大切だと学んだ」

→私は神戸に育てられた国際人=『地球市民です』

ということ。

これは,音声の聞き取りを間違えるとまったく違う意味になる。核となるのが,次の箇所だ。

“Our family moved to Japan when I was two. And growing up in Kobe with my diverse cultural background has given me the opportunity to be exposed to different culture and befriend people from around the world.”

ここを,日本語字幕付動画はこう訳している。

「私は2歳のときに家族で神戸に移りました。そんな多元的な文化を背景として育ちました。私は多文化との接触を多くもってきました。そして世界各地に多くの朋友をつくることとなりました。」

これは,英語をこう聴き取っていなければ成立しない。

“Our family moved to Japan when I was two [and I grew up in Kobe]. My cultural background is diverse. I was exposed to different culture and befriend people in every part of the world.”

だが実際は,こうである。

“Our family moved to Japan when I was two. And growing up in Kobe with my diverse cultural background has given me the opportunity to be exposed to different culture and befriend people from around the world.”

昨日9/19,ほぼ同時に一斉に全訳をアップした他の二名の訳者は,ここをこう訳している。残念ながら,そのうち誰も原文はアップしていない。

「私たちの一家は、私が2歳の時に日本に移り住み、私は神戸で育ちました。多様な文化的バックグラウンドを持っているおかげで、私は様々な文化に触れ、世界中からの人々と友達になる機会を得て、そしてもっと大事なこととして、異なる人たちを相互に尊重することを学びました。」

みなみまなぶのブログより

「私は2歳の時に日本に移住し、神戸で育ちました。多様な文化的背景によって、私は異なる文化に触れ、世界の多くの人たちと友人になれる機会を得ました。そして、異なった人々が相互に尊重しあうのが重要であると学びました。」

教えて君コミュニティー【ASKS?】(西村博之氏)より

これはいずれも,原文をこう区切っていなければ成立しない訳だ。

“Our family moved to Japan when I was two and grew up in Kobe. With my diverse cultural background, [I was] given [xME] the opportunity to be exposed to different culture and befriend people from around the world.”

もう一人,原文のみをアップしてる訳者もいた。

“Her family moved to Japan when I was 2 and growing up in Kobe. With my diverse cultural background, given me the opportunity to be exposed to different cultures and befriend people from around the world.”

Sociological Design TRICKS Official(加藤晃生博士)より 

大体の人が,こう聴き取ったのだろう(ここでは"Her" は確実に”Our"の間違いだが。なぜならここでの"Her"は在日コリアンの母のことを指すことになるが,その母は日本で生まれている。日本に移住したのではないし,まして水原さんが2歳のときに母の家族が移住したのではない。時系列が狂ってしまう)。

肝となるのは,この部分だ。

“With my diverse cultural background, [has] given me the opportunity to be…”

これは文として成立していない。なぜなら,『何』が “opportunity” を与えたのか,主語が表記されていないからだ。

“with my diverse cultural background” は「多様な文化的背景があることで」という”前振りの文”に過ぎない,その後で「○○が」機会を与えたことに繋がらないと,即ち"条件文”(conditional phrase)が無いと,文として成立しない。

この「○○が」に相当するのが,「神戸に育ったことで」という,WHYに答える条件文だ。

だから,正しい聴き取り文はこうなる。

"And growing up in Kobe with my diverse cultural background has given me the opportunity to…”

直訳すると,

「多様な文化的背景を持つ私が神戸で育ったことで,」

となる。

これを前後の文脈と流を踏まえてきちんと翻訳すると,

「そして多様な文化的背景を持つ私は、神戸で育つことで…」

となる。

ここを聞き誤ると,神戸で”ただ”育ったことになる。しかし彼女がいかにして,「多種多様な異なる文化に接し、世界中の人たちと親しくなる機会」を得たのか。”一体『何』によって恵まれたのか”という問いが当然必要だ。

その答は,単なる「多様な文化的背景」ではない。国際人である”背景”と,「神戸」という”環境”に育ったこと(growing up in Kobe)この二つが合わさって,「地球市民」たる彼女が生まれたのである。

この1つのパラグラフはそのことを説明している。そして,

“I see myself as a global citizen,”

 私は自分自身を地球市民だと思っています。

という次の言葉に繋がるのである。

以上

noteをご覧くださりありがとうございます。基本的に「戦う」ためのnoteですが、私にとって何よりも大切な「戦い」は私たち夫婦のガンとの戦いです。皆さまのサポートが私たちの支えとなります。よろしくお願いいたします。