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【英日対訳】マイノリティに対する攻撃が激化する中でニューヨーク州の #クオモ知事 が行った緊急表明|2016.11.12 #DiversityMatters

米国東部時間の2016年11月12日、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事(Governor Andrew Cuomo) は、大統領選挙後に全米各地で発生するマイノリティに対する攻撃行為を懸念し、選挙後初めて沈黙を破り、マイノリティを保護すると緊急の表明を行いました。以下はその原文と和訳、そして英日対訳です。のちに書いた「訳者あとがき」も追加しました。

原文

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訳文

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英日対訳

The state of New York has a proud legacy as the progressive capital of the nation, and that is more important today than ever before.

わがニューヨーク州には、この国の先進性の源であり続けてきた誇るべき伝統があります。きょうほど、そのことが重要な意味を持つ時はありません。

As New Yorkers, we have fundamentally different philosophies than what Donald Trump laid out in his campaign.

ニューヨーカーであるわれわれの哲学は、運動のなかでドナルド・トランプが唱えたものとは根本的に異なります。

So let me be absolutely clear: If anyone feels that they are under attack, I want them to know that the state of New York -- the state that has the Statue of Liberty in its harbor -- is their refuge.

ですからハッキリと述べておきます。是非知っておいてください。あなたが攻撃されていると感じたら、『自由の女神』を戴く港を持つわがニューヨーク州があなたを保護するということを。

Whether you are gay or straight, Muslim or Christian, rich or poor, black or white or brown, we respect all people in the state of New York.

あなたがゲイであるかストレートであるか、イスラム教徒であるかキリスト教徒であるか、富める者か貧しい者であるか、黒人か白人か或いは褐色系かにかかわらず、わがニューヨーク州はあらゆる人びとを尊重し受け容れます。

It's the very core of what we believe and who we are. But it's not just what we say, we passed laws that reflect it, and we will continue to do so, no matter what happens nationally.

これは、われわれの信じること、われわれが何者であるかの核をなすことです。また、ただ言葉でそう主張しているわけではありません。わが州法にその精神を反映しています。国家に何が起ころうと、われわれはそうし続けます。

We won’t allow a federal government that attacks immigrants to do so in our state.

移民を迫害する連邦政府がわが州で同様のことを行うことを許しません。

We are a state of immigrants.

われわれは、移民の州です。

We are the state that raised the minimum wage to $15.

われわれは、最低賃金を15ドルに押し上げた州です。

We are the state that passed Paid Family Leave.

われわれは、家族休暇制を導入した州です。

We are the state that passed marriage equality.

われわれは、あらゆる平等な結婚を認めた州です。

We are New York, and we will stand up for you. 

われわれは、ニューヨークです。
われわれは、あなた方のために立ち向かいます。

And on that, I will never compromise.

そして私は、そのためにはけっして妥協をしません。

Count on it.

ご安心ください。

訳者あとがき

ニューヨーク市は、私が大学を卒業してからもっとも多く訪れたアメリカの街だった。国連本部に用があったため、マンハッタンを出たことはなかったが、人種のるつぼの国際都市NYにいると、本当に「国際人」という人種になった錯覚をおぼえる。

NGO活動のためだったので、一番時間を過ごしたのは国連プラザ前のNGO集合ビルなのだが、NYに本部を置くNGOのオフィスに行くたび思ったのは、やはりその多様性だった。人種的に多様なだけでなく、ジェンダーも多様、男女両方の同性愛者もいる。それを咎める空気はまるでない。

"This is New York"という表現は、映画の中なんかだとネガティブなイメージでつくられることが多い。ここは人びとが無関心なNY、非情なNY、治安の悪いNYといった具合に。だが同時に、「ここはNYだ。他の偏狭な街と一緒にするんじゃない」という自負が聞こえてくることもある。

あらゆる人種・民族・信仰・文化・ジェンダー・思想が尊重され共存するNYにおいて、排他性というものはおよそみられない。唯一あるとすれば、「NYらしくない前時代的なな価値観」の拒絶だろうか。そんな「先進性」を誇るニューヨーカーならでの精神的気高さが、クオモ州知事の表明にはみられる。

タイムライン上で、エッセンスは伝わっているがいろいろ間違っている要約ツイートを見て、いたたまれなくなってまず粗訳からはじめた。粗訳段階では表明のエッセンスを全て捉えることができたとは思わなかったが、少なくともものすごい勢いで拡散されている杜撰な要約よりはましだと思った。

だが推敲しているうちに、さらにもっと力強い意味が込められていることがわかってきた。そして最終的な訳が仕上がったので、急ぎログルにUPした。いまものすごい勢いで閲覧が増えており、早いうちにUPしてよかったと思った。本当の意味で自治権を持つ自治体というものを知ってほしかったからだ。(※2019年4月付でログルは閉鎖されたためここに転記)

一部、"laws"という表現を「条例」としているツイートがあったが、これは州知事による表明なので、知事の言うlawとはすなわち市の条例ではなく「州法」のことをいう。この州法は、連邦法の下位には位置するものの、連邦法とは独立した司法管轄を持つ。米国の「州」は、国家に匹敵する自治権を持つからだ。

連邦制のアメリカ合衆国における州は、国家に匹敵する主権を保有し、最高位の司法権を除き三権も独立している。知事には州警察に対する指揮命令権があり、今回の表明に先立ち、実はクオモ知事はその前日に警察に対してあるヘイト犯罪に対する捜査命令を発している。

つまり今回のはただの「表明」ではない。11日付の知事命令でクオモ知事は、NY州警察及び同州人権管理局に対し、あるヘイト犯罪の合同捜査を開始するよう命じていた。この時に既に「ニューヨーカーの皆さん、あなた方の安全は私が保障します」と宣言していた。

このヘイト犯罪捜査は、2000年に施行されたヘイト犯罪の処罰強化法に基づいて行われる。この州法により、人種、国籍、信仰、民族的出自等その他法が規定する要件に基づく差別は禁止されているのだ。これが、クオモ知事のいう「わが州法にその精神を反映している」ことの意味なのである。

仮にトランプ政権となって差別を「禁止しない」連邦法が、共和党が多数を占める連邦議会で制定されたとしても、州法によりこれが禁じられていれば、州において該当する行為に及ぶことは犯罪行為となり、州の司法権が及ぶことになる。この法体系により、NYは実質的に保護地となりえるのだ。

クオモ州知事の言葉が力強いのは、この宣言が確固たる法体系により裏打ちされており、これを凌駕するには、州の自治権を否定する連邦法を制定するしかないからだ。だがさすがにこれには各州が(RED州ですら)反対するだろう。だから、毅然とこういう表明ができるのである。

いまのNYのNGOで活動する「国際人」の友人たちの人権は、こうした独立した法体系に裏打ちされた州知事の強い権限と、連邦政府の強権に屈しないその気高い人格によって守られている。"We are New York"とクオモ知事がハッキリと宣明できるのは、こうした基盤がしっかりあるからだ。

「われわれは、ニューヨークだ」――こう宣明できるニューヨーカーたちを羨ましいと思う反面、大統領選挙後のアメリカでは、単にRED vs. BLUE STATEではなく、州の自治権の問題ひいては合衆国の連邦制の在り方が問われる事態にまで至っていることに暗澹とした気持ちにさせられた。

「アメリカの先進性の源」であるニューヨーク州のその気高いフロンティアスピリットが、今後ますます激化するであろう騒乱の中で損なわれないことを切に願う。

NEW YORKERS, PLEASE BE SAFE.

noteをご覧くださりありがとうございます。基本的に「戦う」ためのnoteですが、私にとって何よりも大切な「戦い」は私たち夫婦のガンとの戦いです。皆さまのサポートが私たちの支えとなります。よろしくお願いいたします。