想像を絶する・演出ノート‐2

「想像を絶する」の全体像が見え始め、構成は決まりつつあり、細部のディテールを固めていきたいが、しかし、結末というか、最後の方がどうなっていくのかを探っている。

稽古しながら、想像‐力について、作者について、戯曲について、キャラクターについて、役者個人について、出演の鶴田さんと毎日話し合って、綾門くんが来たときは綾門くんも参加してもらって、ディスカッションして、何かのヒントがないか探っている。別にこれは行き詰っているとかではなく、少しでも、遠くへ、あるいは深いところへ行くための作業で、もちろん私だって意見を言うが、みんなが少しずつ探らないと、全体像は見えてこない。私が納得できるイメージの形では、鶴田さんが納得できる形にならない場合もある。そういう場合は、矛盾しながらも、なるべく二つのイメージを両立させるような形をとろうとしている。

役‐キャラクターというものについて、普通は、役者の身体の上に、この人はこういう「役」としてアイコンのように覆いかぶさっているように認識されていると思う。物語があって人物がいる、というメジャーな形式の場合、ハムレット役、として舞台に出てきた人間は、大方の場合、最初から最後まで、揺るぎなくハムレットとして認識される。でも、それはかなり二次元的、平面的な認識でしかなくて、「役」は舞台上で、役者からリアルタイムに出力されている。出力は常に一定ではなく、変化している。その「役」の「わたし」は、役者‐身体の「わたし」と混ざり合いながら、濃度や波の高低、パラメータを変動させながら、明滅するひとつの運動、現象としてある。

例えば、現実でも、悪者、という属性を付けられた人がいたとしても、その人は四六時中悪いことを考えているわけではない、と思う。生理的な欲求、腹が減ったら、そのことを考えるし、トイレもしたくなる。ぼんやりしている時もある。いろんなことを考える。だから、その人の属性とか、「わたし」性というものは、常に薄まったり、時には全く無になったりしながら、明滅していると思うのだ。強固なものではまったくない。

戯曲全体、上演全体も、そういう複数の現象によってつくられた環境で、舞台上に立つひとつの、あるいは複数の役者の身体を使って出力され続けており、それは「ただ」あるものではなく、揺れ動いている。そういう「役」が出力されている、という事実。演じられているという事実の中にある、身体の「わたし」と役の「わたし」の拮抗、微細な振動のようなものを捉えてみること。この身体が演じている、という出力の面白みを、もっと捉えること。今まで私が観てきたり使ってきたいろいろな手法を組み合わせながら、何となく、そういうイメージで手探りをする。役者が考えながら演技をするように、同じように役は考えているし、戯曲は考えている。自立している。

あと、やっているのか、やらされているのか、という違い。あるいは、それが混ざり合った状態。その上に覆いかぶさる透明な権力。権力は透明になって、あるいは公然とそれを利用する。自分には平気‐当然と思えることが他人‐行為する当人にとっては苦痛であったりする場合のこと。例えば、世の中のほとんどの人間は働かなければ生きていけないため働いている。働くのはいいことということになっている。もちろんいい面もあるのだろうが、労働というのは本質的に私にとっては苦痛でしかない。それで自己をクリエイティブに表現できる環境があればいいが、そうでない人の方が大勢だろう。でも、何とかかんとか続ける理由を見出してやっていっている。見出せないとつらいだけだからだ。でも、やりたくもないアルバイトをしながら合間に演劇を続けるしかない私にとって一日を過ごす時間は「やらされている」という精神に従属する身体がデフォルトであると言うこと。そういう身体が特にアルバイトをしているような人々のデフォルトであること。を考える。労働させられる身体。自発性を失った身体。マニュアルによって動かされる身体。創造的でない身体。封じられた身体。そういうもので私が出来ていることを無視することが私には難しい。それを無視し、忘れて、ただ演劇をしている間は労働から解放される、という喜びだけで表現をやってしまうようなことは、私にはけっこう危険なことのように思える。

当然のことだけど、演劇をやるために金がいるし生きていかなければ行けないから働くが、働いてばっかりいると稽古が出来なくて演劇ができないし、しかし、稽古ばっかりして演劇をやっていると金が減って生きていけなくなる。演劇をやればやるほど自分の生活の首を絞めることになるが、働いてだけいたら、私は自分がどうなるか考えると恐ろしい。当分いい落としどころは見つかりそうにない。暗い内容になってしまったが、でもやっぱりそういうことだって考えざるを得ない。

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Kouki Tokuchi

哲学シリーズ

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