表紙

「誰のためのデザイン?増補・改訂版」を読んだ

「誰のためのデザイン?増補・改訂版」を読んだのでその内容についてまとめてみた。

読んだきっかけ

自分のスペックは以下の通り。

- 美大卒
- 社会人2年目の新米デザイナー
- 主に広告などグラフィック中心の仕事
- IllustratorとPhotoshopを使って広告を作っている

今後 UI のデザインの方向へ仕事の幅を広げていくために、オススメされた書籍を読んでいこうと思っている。まずはこの分野に踏み入れるなら基本とも言える「誰のためのデザイン?」から。

第1章 毎日使う道具の精神病理学

人はどのようにして物事を「認知」しているのか。認知するために必要な人間の心理学概念が紹介されている。

アフォーダンス

モノの属性とそれをどのように使うことができるかを決定する主体の能力との間の関係のこと。どんな行動を取るべきかを何かの表示や説明なしで思い描く助けになる。

シグニファイア

それが何のためのものなのかを示すサイン。本のしおりは、読み進めたところに意図的におくシグニファイアであり、あとどれくらいのページが残っているかを示す偶発的なシグニファイアにもなる。

概念モデル(メンタルモデル)

「概念モデル」はモノがどう動くかの説明であり、通常は簡素化されている。理解を助けたり、モノの動きを予測したり、モノがどう動けば良いのかを知るのに役立つ。ユーザーの心の中にもあるのでメンタルモデルでもある。同じモノでも人それぞれ異なるメンタルモデルを持つこともあり、一つのモノに対していくつかのメンタルモデルを持つこともある。概念モデルは経験から構築されるので、これらのモデルは誤っていることがよくあるので、製品を使うときに難しさが生じる。

第2章 日常場面における行為の心理学

行為の7段階モデル

人間の行為には7段階のサイクルがある。例えば「お腹が空いたからご飯を食べる」という行為の7段階モデルは以下のようになる。

- ゴール(空腹を満たす)
- プラン(カレーを作る)
- 詳細化(カレーのレシピを考える)
- 実行(調理する)
- 知覚(食べる)
- 解釈(レシピ通りにカレーを美味しく作れているか)
- 比較(空腹を満たせているか確認する)

その7段階に分けることによって、正しくモノが使えなかった時、どの段階で自分がつまづいているか意識できると良い。

3つの処理レベル

人間の認知と情動に関して役立つ近侍モデルとして3つの処理レベルがある。
- 本能レベル(人間の本能的な反応、安全か危険かなど)
- 行動レベル(状況に応じて引き起こされる行動的な状態)
- 内省レベル(意識的な認知のレベル)
この3つが連動して製品やサービスに対するイメージにつながる。

第3章 頭の中の知識と外界にある知識

外界にある知識

人間は知識が不正確であっても正確に行動ができる。例えば通貨に描かれている細かな柄の知識がなくても、ほかの通貨と区別さえできれば良い。外界の情報(ほかの通貨と区別できるという情報)によって導かれたものが知識になることがある。外界にある知識をどのくらい容易に解釈できるかは、デザイナーのスキルに依存する。

頭の中の知識
頭の中に知識として記憶するためには、人は学習が必要である。また記憶は曖昧になりがちだ。例えば人は複雑なパスワードなどの記憶に失敗することがある。複雑で安全なパスワードを使うことにより、覚えるために紙に書いたりなど安全でない記憶手段を使わざるを得なくなるという矛盾が起こってしまう。

効果的に記憶するには外界にある知識と頭の中の知識を融合するのが良い。頭の知識ははかないものであるため、外部の出来事によって思い出すことが必要である。

第4章 何をするかを知るー制約、発見可能性、フィードバック

4種類の制約

人は初めてモノを使う状況でも、何をすべきかの知ることができる情報があれば理解できる。物理的、文化的、論理的、意味的な制約は強力な手がかりであり、取りうる行動を制限してくれる。


- 物理的な制約:「大きな突起は小さな穴には差し込めない」など可能な操作の幅を狭められる。
- 文化的な制約:自身の文化の中で社会的にどう立ちふるまえば良いのかがわかる。
- 意味的な制約:我々の持つ状況や外界に関する知識からくるもので、その状況に応じて何ができるかを制御する。
- 論理的な制約:「余った部品が1つで、取り付ける場所も残り1つだった場合」など必然的にそのように対応できるという解釈につながる。

対応づけ
操作部やディスプレイのデザインの配置にとって重要な概念。右に動かしたいときにレバーを右に操作するなど、自然だと感じられる対応づけがモノを使いやすくする。

フィードバック
要求したことに対してシステムが動いていることを知らせる手段。例えば蛇口を使うと水が出るというのもフィードバックである。間違って反対方向に回してしまってもすぐわかって修正することができる。そして「音」も出来事のフォードバックを提供する有益な役割を果たす。音はモノが正しく動いているかを認知する情報になり、警告音などは、事故から守ってくれることもある。

第5章 ヒューマンエラー? いや、デザインが悪い

人は、人が起こしたエラー(ヒューマンエラー)を自分の能力不足だと思い込むことが多い。しかし、ヒューマンエラーは時に手順や機器の悪いデザインの兆候である。ヒューマンエラーは、テクノロジーのニーズに、人の行為が適していないときに発生する。次にヒューマンエラーの分類について示す。

2種類のエラー
エラーには大きくスリップ(うっかりミスのようなもの)とミステーク(そもそもの考え違い)に分けられる。

スリップ

実行の段階でのうっかりミス。スリップにも2種類あり、行為ベース(間違えて別のことをしてしまうこと)、記憶ラプス(その行為をしようとしたが忘れること)がある。スリップは無意識の行為の結果であり、よく注意して慎重な初心者より、慣れてしまって無意識になっている熟練者に多く起きやすい。スリップはタスクに対する注意が欠如することで起こりやすい。

スリップを引き起こすメカニズム

- 乗っ取り型スリップ:最近の行為や頻繁に行った行為に、乗っ取られること。(例:ピザを10回言ったあと、ヒジを「ヒザ」と言ってしまう)
- 記述類似性スリップ:似たようなモノと見分けられず間違えること。
- モードエラー:同じ制御部に異なる意味があり、意図せず間違えている方を選択すること。(例:AM7時にセットしたつもりがPM7時だった)

ミステイク

計画段階でのそもそもの間違えを実行してしまったこと。ミステークは3つに分けることができ、ルールベース(誤った行為を選択したことによる間違え)、知識ベース(誤った知識で判断してしまう間違え)、記憶ラプス(評価の段階での忘却)がある。

エラーに備える
人はエラーを必ず起こすので、それに備えてデザインを行うべきである。本書で挙げられているエラーを防ぐための項目は以下の通りである。


- チェックリストで項目をチェックし、確認する。スリップや記憶ラプスのエラーを防げる。
- 行為を元に戻せるようにする(アンドゥー)。元に戻せない行為はやりにくくする。
- エラーの原因を理解し、その原因が最も少なくなるようにデザインする。
- 生じたエラーを発見しやすくする。またそれを訂正しやすくする。
- どのような行為もエラーとして扱わない。むしろ、人が正しく行為を完了できるように助ける。
- 意味的妥当性チェックを行う。金融取引などで不適切な値が入力された時など、電子システムに、要求された操作が合理的か確かめさせる。

第6章 デザイン思考

デザイン思考はデザイナーだけの独占物ではない。すべての偉大なイノベーターは知らず知らずにあれこれを実践している。

デザインのダブルダイヤモンドモデル

デザイナーは、与えられた問題に疑問を投げかけることから始める。まず、すべての根本的な課題を発散的に調査し、その後問題の記述を絞りこみ、収束させる。ある問題について、「発見」と「解決」のフェーズがあり、それぞれに「発散」と「収束」の段階がある。この、2つのフェーズと2つの段階を組み合わせた、4つに分類することをダブルダイヤモンド・デザインプロセスと呼ぶ。そして、正しい問題を見つけるための発散と収束のフェーズを「探索」と「定義」、正しい解決策を見つける発散と収束のフェーズを「展開」と「提案」と呼ぶ。

人間中心デザインプロセス
人間中心デザインプロセスは、下記の活動サイクルで繰り返されより良い解決に近づくのである。

- 観察:興味、動機、真のニーズを理解するために、実際使われると想定される場所で活動を観察する必要がある。
- アイデア創出:数多くのアイデアを創出すること、制約を気にせず創造的に行う、あらゆることを問いかけることが大切である。
- プロトタイピング:アイデアが妥当か知るための唯一の方法。それぞれの解決策に対してすばやくプロトタイプかモックアップを作る。
- テスト:対象にできるだけ近いユーザーらに、実際に用いるのにできるだけ近い方法でプロトタイプを使ってもらう。

活動中心デザイン

人のニーズに合っていること、個人個人の焦点を当てることがが人間中心デザインの1つであるが、異なる文化の世界中の人に適応できるためには、個人ではなく活動に集中するという活動中心デザインが必要になる。人間の能力に注意しながら活動を支援すれば人はデザインされたものを受け入れ学ぶことができる。

第7章 ビジネス世界におけるデザイン

機能症

機能症とは、競合に対抗しようと新しい機能を追加し続けてしまうことで、この新しい機能の要求を続ける市場の力に対抗しなければいけない。機能症は非常に感染しやすい。競合相手の全ての持つ機能にに対抗して売り上げを増やそうとすると、会社は自滅してしまうし、あらゆる製品が同じになってしまう。良い戦略は、自社が強い分野に集中して、それをさらに強くすることである。競合に意識を向けるのではなく、製品を使う人の真のニーズに焦点を当てるべきである。それにより他社のものより際立つものになる。

良いデザインのためには競争圧力から距離を置き、製品全体に一貫性があり、筋が通っていて、分かりやすいように確実にする必要がある。


テクノロジーは人間を愚かにするのか?

テクノロジーの発展に伴って、我々はテクノロジーを利用することで今までよりもはるかにものを覚えられたり、できる能力が増えていった。しかし、テクノロジーは我々を愚かにもしているのだろうか。ノーマンは下記のように記している。

テクノロジーに頼れることは人類にとって恩恵である。テクノロジーによって脳は良くも悪くもならない。その代わり変化するのはタスクなのである。

人間の知には高い柔軟性と適応力、そして自らの限界を越えるために道具や方法を作り出すすばらしい能力が備わっている。そして、我々はテクノロジーと組むことで以前よりも賢くなれる。


感想


1ヶ月ほどかけてようやく読み終わることができた。行為の7段階モデルのような繊細に理論立った説明は、今まで感覚的にしか他人に表現できなかったことを言語化してもらえたように感じた。今後 UI デザインを実践していく上で、参考となるような文章が散りばめられていたと思う。「インタラクションの基本原則は永久」であり、この本で得た知識は、どんなテクノロジーが発展した未来であっても忘れずに心に留めて置きたい。

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