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聞きわけのいい天使

夕方になるかならないかぐらいの時に散歩をしていた。その日は久しぶりに雨も降っていなく、いい天気というわけではなかったけれども、久しぶりに散歩するにはぴったりの日だった。

知らない通りを歩いていていると(実は適当に歩いていて道に迷っていたのだけれども)、少しばかり古びた建物があった。

その建物を見上げると三階の窓から1人の男が、外を見るようにして立っているのが見えた。その男は、最初はかなり高齢に見えたのだけれども、しばらくしっかりと見てみると、それほど高齢という訳ではなさそうな感じがした。おそらく、伸びた白い髭と白髪のせいでそう見えたのだろう。

そして、どことなく、そこで意識的に外をみているというわけではないように思えてきた。ただずっと外を見ているような気がしていたのだけれど、その男は、火のつくことがない蝋燭が、窓の横に置かれて埃をかぶっているように、まったくもって動くという意思がなさそうだった。そこには正常な時間の流れがないようだ。空気の流れもないその世界と、その部屋の中で、ただただ、外の景色を眺めていた。

そのうちに、僕自身もその景色のようなものの一部になってしまっているような気がしてきた。三階の男がただそこに立っているということで、そこにあるその世界から横にずれてしまい、少しばかり横にずれていってしまったようだった。そこに路地や建物はあるものの、認識という意味においては一つの信号としてただ存在をしているだけのようだ。

しばらくそこに立っていると、通りのむこうから、そういう意味においての一つの信号としての天使がやってきた。

天使はにこやかではなかったものの、聞きわけはよさそうだった。けれども、このような状況に対して、適切で正確な答えを持ち合わせているわけではなさいみたいだ。〈三階の男について〉のことや〈時間の流れに対して〉のいくつかの質問をしてみたものの、あまりいい返答をもらえそなかった。ここで、そのような質問をしてしまったこと自体が間違っていたことだったのだろう。もちろん、天使自身もそう思っていたようだった。

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