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童貞が失われた日

特段何か喪失したものがあるわけではないのだけれども、喪失したというのであれば精神的な何かだと思います。
それは今まであった根拠のない自信だとか、何だってできるという万能感だとか、そういったどこからともなく湧き上がってくる感覚は、際限ない空想の世界が想いを募らせる余地があったからだと思う。
オイラが14歳になって48ヶ月がすぎた若かりし頃、その時が訪れてしまったのです。
想像と違った落胆、想像から現実に引き寄せられてしまった時のお話。

今回のテーマは『喪失と再生』です。
何を喪失し、どう再生したのか?読んでください!

本投稿は、『週間キャプロア出版』で掲載されたものを大幅に加筆修正したものです。
『週間キャプロア出版 企画』とは、全てFacebookメッセンジャーのやりとりだけで企画からKindleでの出版までをメッセージグループに居合わせたメンバーだけで行うという新しい試みの出版グループです。とても面白い試みですので、ご興味がある方は是非参加してみてください。

週刊キャプロア出版(第11号): 喪失と再生 週刊キャプロア出版編集部 https://www.amazon.co.jp/dp/B07FTSY8DY/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_EuMxFbN06J32T

童貞が失われた日

友達が出ていったのでおれは慌てて鍵を締める。何も言わずに手を引き腰に手を回しそっと彼女を抱き寄せキスをする。
ここは友達の家、おれは彼女と二人きり。冬の夕方。キスをしたまま部屋の半分以上を占める全面鏡張りの壁にもたれながら座り込む。
友達がバイトに出かけたのでおれと彼女の二人きりで留守番をすることになった。
付き合って半年以上溜まりに溜まった性欲を一気に吐き出した。ロマンチックとは程遠い。

部屋の中は寒い。ストーブを出してケーブルを引っ張り出し、コンセントに差し込む。作業的に。

万能感というものが失われてしまったのはこの頃だった。20歳の冬。映像制作の専門学校で監督をしていた頃。
たまたまなのかもしれない。本当に偶然に色々なものが重なったもんだから勘違いしているのかもしれない。
それでも圧倒的な根拠の無い自信が失われた。きっと何もかもうまくいく。きっと世界は自分の想像したもので出来上がっていて、やれば必ずうまくいくと思い込んでいた。
でもそうではなかったんだな。
一瞬にして何もかもが消え去ってしまったんだ。好奇心も無邪気さも万能感も。
セックスに対してこんなもんかと思ったのもあるのかもしれない。好奇心が強かったから精神的な結びつきの強化を期待していたのかもしれない。もっと一体感があることを望んでいたのかもしれない。
何れにせよおれはあの日を境に失った。そして残されていたのは戦後処理だけである。

敗戦後の復興までには数年を要した。”みんな大好き”とすることで、好奇心と無邪気さと万能感を再び手に入れた。
おれは社会全体に共有される価値観を広めたくて映像を作っていたが、それがこれからの時代に機能不全を起こす実感を得た。
あの童貞を失うあの瞬間にである。そしてこれからの時代が、どのような形で価値観が広まるのかも気付いたのです。
神の啓示のようなものです。悟りのようなものです。しかし、感覚は虚しかった。高揚感はなかった。なぜ虚しく感じたのか。それこそまさに自分が求めていた、映像作品を作って、それを自分の価値観を社会全体に共有させるという行為が、社会にとって求められていないと実感したからです。
奇しくも、その時に制作していた映像作品は電源ケーブルが尻尾のように生えた女の子が魂を共有化して一つの大きな意識体になろうとしている『コンセント☆ガール』と個性を尊重する面々の戦いだったのだけれども、そのコンセントガールは遥か彼方、遠宇宙へ逃げ出してしまうのでした。

当時は全体主義的な思想と自由主義的な戦いを描いたつもりだったのだけれども、いま思い返すとあれは”社会全体に共有される価値観は終わりを迎える”という話を書きたかったのかもしれない。
そして今である。TarCoon☆CarToonという存在が再び「大きな物語」を提供できるかどうかである。

遠宇宙に旅立ったコンセント☆ガールが再び地球圏に帰って来ることを願って。

掲載時のあとがき
田島貴将機能不全を起こした大きな物語に対する回答として個人の物語へのシフトが具体的にどの様な社会的な変化をもたらすのかと云う事をそれこそ自分にとっての物語であるTarCoon☆CarToonが人生においてどういった役割として現象し生じたのかを、自分の童貞喪失とその後の復活を交えて語ることにした。時代の潮流の変化を見て、自分がどの様な物語を生きて行くのかという、至極重要な分岐点を自覚することができたという、偉大な物語である。

週刊キャプロア出版では、このようなテキストを沢山の人が参加して、沢山の人が企画し、編集をして出版される電子書籍です。
Kindle Unlimitedでも無料で読むことができますので、是非お手に取ってみて下さいね。

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