ゲームオブスローンズ

無能の男ジェイミー・ラニスター(ゲーム・オブ・スローンズ)

みなさんは『ゲーム・オブ・スローンズ』というドラマを知っているだろうか?

全世界でベストセラーの『氷と炎の歌』をドラマ化したもので、エミー賞歴代最多受賞を受けるなどとにかく今一番面白いファンタジードラマである。一癖も二癖もあるキャラクターが入れ替わり立ち代わりで現れては消えていくので目が離せず、一度見始めると次のエピソードをどんどん見て何も手につかないのでダイエットに有効であるとか、月月ゲームオブスローンズ木金金、ゲームにあらずんばスローンズにあらず、あまりの面白さが危険すぎるので近畿財務局が脚本の改ざんを試みたと言われるほどの超人気ドラマでマジで面白いので、未見の人は是非見て欲しい。

ただし、今回の文章は『ゲーム・オブ・スローンズ』をシーズン7の最後まで見終わった人に向けたものなので、ネタバレが嫌な人はすぐにブラウザを閉じてAmazon primeあるいはhuluと契約して『ゲーム・オブ・スローンズ』を見る生活に入って欲しい。

これは警告である。ここから先はネタバレである、ただちに立ち去りなさい。これは警告である。ここから先はネタバレである、ただちに立ち去りなさい。

さて、警告が終わったので後は好きに書くことにする。『ゲーム・オブ・スローンズ』の魅力は何かと問われればその秀逸なプロットもさることながら、登場人物の多彩さだろう。主人公級のスターク家、ターガリエン家、ラニスター家の面々を始めとした中心人物の際立った特徴も魅力的だが、ザ・マウンテンだの稲妻公だの紅の祭司だの王の盾だの端役にも中二心をくすぐる異名がつけられ、「おいおい……次はどんな悪戯子猫ちゃんが出てくるんだよぉ、ヒュー!」と、どんどん次の話を見てしまうのである。

その中でもとりわけかっこいい異名をつけられた男がいる。「キング・スレイヤー(王殺し)」のジェイミー・ラニスターである。王妃サーセイ・ラニスターの双子の弟ジェイミーは、ドラマの前日譚で自分が仕えていた王を殺したことにより有名になった人物であり、王の側近を務めながらも王妃である姉と近親相姦して子供作るわ、そのセックス現場を見た子供を塔からぶん投げるわ、わかりやすい悪役として君臨するのである。めっちゃ剣が強いし、顔は男前だし、冷酷無比なクールキラーだわでそのキャラの立ち方は異常である。

しかし、シーズン7の最後まで見た俺は気づいてしまったのである。それは「ジェイミー・ラニスターという男は実は無能なのではないだろうか」という事実である。いや、でも中心人物でけっこう悪役だし、そんな無能なんてありえないんじゃないの?と思った人はよくよく考えてみて欲しい。ジェイミーが有能さを出した場面ってあっただろうか。確かに、狂王を殺したという華々しい背景はあるのだが、あくまでそれは過去の話。ドラマ中を思い返してみると失敗に次ぐ失敗の連続で、あっさりと東軍に岐阜城を落とされた織田秀信、あるいは旅順要塞絶対落とせないマンだった乃木軍参謀伊地知幸介クラスの無能オブ無能だったのではないだろうか?その真偽を調べるべく、私はアマゾンに飛ばずに、ジェイミー・ラニスターの仕事とその結果についてつぶさに調べたので、こちらをご覧いただきたい。

1.ブランドン・スターク突き落とし 達成度×
王の側近として北のスターク家を訪れた時、なんかムラムラしてしまったジェイミーは姉のサーセイと事に及んでしまうのだが、その現場を塔登りが好きなブランに窓から見られてしまう。それを見られたジェイミーはブランを捕まえて、口封じのために塔から突き落とす。ここまでは突発的なトラブルの対処として、冷酷ではあるが満点である。しかし、詰めが甘い。ブランは半身不随で歩けなくなるものの命を取り留め、言葉も喋れるという事態。その後に誰かがブラン暗殺を企てるも失敗するという体たらくで、トータルで見て大失敗である。

2.ティリオン解放交渉 達成度×
ブラン暗殺の犯人と誤解して弟ティリオンをエダード・スタークの妻キャトリンが捕えたので、それを解放するように兵士で取り囲んでエダードに要求する。エダードとの一騎打ちの最中に取り囲んでいた兵士がエダードの足を武器で貫くが、そこでリトル・フィンガーの仲裁が入って終了。ティリオン解放の確証を得られないまま王都から別の任務で出陣した。目的も遂げられなかった上に部下が一騎打ちを邪魔するという不名誉さもコーティングされたダブルで美味しい失敗である。

3.対ロブ・スターク戦 達成度×
父エダード・スタークを殺されたことによって叛旗を翻したロブ・スタークの軍勢と激突することとなったジェイミー。リヴァーラン城というスターク家側の城を圧倒的多数で包囲しながらも、奇襲してきたロブ・スタークにあっさりと捕虜にされてしまう。お前交渉事は苦手だけど戦は強かったんじゃねえのかよ!と心の底から思った。キング・スレイヤーの名を汚すような大失態であるのだが、まだここらへんまでは無能という感じではなく、運が悪かった的な印象である。

4.ロブからの脱走 達成度×
ロブ・スターク軍の牢屋番を絞め殺して脱出しようとするも翌朝すぐ捕まる。計画性がない失敗であり、ダサい。逃げてから捕まるまでがすっげえ省略されてんのもひどい。

5.ブライエニーとの一騎打ち 達成度×
自分を逃がすかわりに王都キングス・ランディングで捕虜になっているスターク家の娘2人を開放するという取引をキャトリンとまとめ、キャトリンの部下である女剣士ブライエニーと王都に向かう。その途中、ブライエニーから剣を奪って一騎打ちをするも、ブライエニーにけっこうあっさりと負ける。大失敗。捕虜生活で弱ってたとは言え、女にあっさり負けてダサい。ここらへんから「あれ?もしかして?能とか?ないとか?」と無能説が頭をもたげてくるのである。

6.ロックの説得 達成度×
ブライエニーと闘った後にボルトン家に捕まった時、ジェイミーは犯されそうになったブライエニーを助けるためにロックに取引を持ちかけるも、父親を鼻にかける態度が彼の逆鱗に触れて利き腕の右手を斬り落とされる。女を救うために賭けに出るも、相手のイカれた性質を読み切れずに交渉を失敗し、剣士として致命的代償を払ってしまった無能である。

7.ブライエニー救出 達成度△
その後なんだかんだあって王都に戻ることになったジェイミーだが、ブライエニーをボルトン家に置いておかざるを得なかった。しかし、道の途中でブライエニーが殺されることを知ったジェイミーは急遽城に戻り、熊と闘わされているブライエニーを救出。やっとミッション達成!と思ったが、そもそも捕まったのがジェイミーのせいなので、仕事ができたかというと微妙な話である。

8.スターク家の娘を解放 達成度×
王都に帰還したジェイミーは誓約に基づいてキャトリン・スタークの娘を解放しようとするが、姉のサンサは弟ティリオンと結婚させられていて、妹アリアは行方不明。まごまごしている間にジョフリー王暗殺の混乱ののちにサンサが行方不明に。ほとんど手をこまねいていただけであり、まぎれもない無能である。ジェイミーは基本的に脳筋なので政治力は4くらいであり、開墾とかさせてもほんの少ししか数値上がらなそうである。

9.ジョフリー王暗殺阻止 達成度×
ジョフリーとタイレル家のマージェリーの結婚式のキングス・ガード総帥として警護するが、毒殺を簡単に許してしまう。SPとして致命的な失敗であり、現代ロシアだったら三日後に理由不明の事故で殺されそうである。また、暗殺の遠因となる甥(実は息子)ジョフリー王の暴虐を諌めることもできず、家庭人として無能である。

10.ティリオン逃亡補助 達成度△
ジョフリー王暗殺の嫌疑をかけられた弟ティリオンを牢から解放し、こっそりと逃がす。それ自体は成功するのだが、途中で弟ティリオンが積年の恨みから父タイウィンを暗殺。ティリオンの恨みを図りきれず、目的を達成するもののそれ以上に大きい犠牲を払うという典型的無能あるあるである。

11.ミアセラ奪還 達成度×
マーテル家に嫁いでいる王妃ミアセラを極秘裏に救出するために向かうが、同行の騎士ブロンに「右手を失うはずだ」とあきれられるほどの杜撰な計画であっさりと捕まる。ドーン王との交渉によってミアセラを王都に連れ帰れることになるが、その船中でマーテル家の王妃たちによってミアセラを毒で暗殺されてしまう。杜撰な計画、実行力のなさ、アフターケアのしょぼさと三拍子そろった失敗三冠王である。ここまでくるともはや知力は7とかであり、知力60くらいのやつに火計を食らったらずっと燃えてそうである。

12.ハイ・スパロウ攻撃 達成度×
狂信者ハイ・スパロウに姉サーセイを捕えられたので、ジェイミーは同じく女王マージェリーが捕まったタイレル家と共同で軍隊を用いて奪還しようと大聖堂に迫るが、すでに王トメンが抱き込まれていることを知り、手が出せずに退却。名目上甥であり実は自分の息子であるトメンが狂信者に抱き込まれていることも知らず、その上おめおめと逃げ帰ってくる姿はまさに無能の極みであり、もはや擁護の余地がほとんどないほどの真っ白な無能である。

13.タイレル家攻撃 達成度△
デナーリスと手を結んだタイレル家の裏をかいてその居城ハイガーデンを急襲。あっという間に叩き潰してタイレル家を滅亡に追い込む。ここまでは非常に有能で素晴らしい軍司令官なのだが、その帰途をデナーリスとドラゴンに奇襲されてほぼ全滅の憂き目。ドラゴンの前になすすべがないのはしょうがないが、無謀にも突進していってすんでのところを騎士ブロンに助けられる始末。貴重な戦力を多く失い、ラニスター家は窮地に陥る。タイレル家を滅亡させたため無能とは言い切れないが有能とも言い難く、ドラゴンに太矢をぶち込んだ上にジェイミーの窮地を救った騎士ブロンの有能さが際立つ結果となり、相対的に無能に見えた回のジェイミーである。

14.サーセイ説得 達成度×
デナーリス、スノウと同盟を結んで北の不死軍団を退治しにラニスター軍を編成しようとするが、そこに現れたサーセイが「あれは嘘だ」と軍の出発に反対。必死に姉を説得するも心を変えることができず、ブチ切れて制止を振り切って出陣。ジェイミーは実の姉であり恋人でもあるサーセイの説得に全シーズンを通して失敗しており、弟のティリオンと比べて交渉力のなさを露呈している無能である。

以上、14の場面を見てきたが、いずれもジェイミー・ラニスター無能説を裏付けるのには質量ともに十分なものではないだろうか。1シーズン平均2回の失敗をしており、これだけの失敗をしてるキャラはシーズン7時点ではたいてい死んでおり、生きていても地位を失わないのは彼がラニスター家という名家の御曹司だからだろう。これがラムジー・ボルトンだったら2回目くらいで首斬られてるし、ジョラー・モーモントだったら5回は追放されてる。もはやここまでの無能のレベルになるとゲーム版三国志ではゲーム開始から終盤まで延々と輸送業務くらいにしかやらせることができない。

ただし、勘違いしないで欲しいのは、わたしはその無能がゆえにジェイミー・ラニスターを愛しているということだ。おそらく最初は圧倒的悪役として存在させるつもりだったのかもしれないが、そのさらに上を軽々と姉サーセイやラムジー・ボルトンが悪役として飛び越していったので、お役御免。剣士の命の右手を斬られてからは、姉のわがままに振り回されて運命に翻弄される名家のおっさん、として非常に人間味の深い役割を与えられている。それゆえ、今まで姉の言うこと聞きまくって無能だったのに、シーズン7の最終エピソードでついに姉の指示に逆らって飛び出していったシーンは感涙ものであった。お前の無能はこのためにあったのだ!

おそらく、最終シーズンでもジェイミー・ラニスターはどうせなんかしら失敗するだろう。だが、失敗してこそのジェイミー・ラニスターであるので、私の心構えはできている。「誤射でジョン・スノウを殺す」「転んで持っていたドラゴングラスを水の底にぶちまける」「こっそり持ってきた鬼火をうっかりドラゴンに向けて発射」「右腕の代わりにロケットパンチを据え付けるも動作不良により爆死」などの華々しい失敗とともに散っていって欲しいものである。

もし、日本版ゲーム・オブ・スローンズとかがあれば、松重豊さんとかに悲哀たっぷりに演じてもらうとよいのではないだろうか。「腹が……減った……」とか言って、どう見ても錦糸町なキングス・ランディングをうろうろしてもらいたいものだ。当ブログはジェイミー・ラニスターを応援しています!


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