見出し画像

もし今もモイーズがクロスを上げ続けていたら

2014年4月22日に我らのデビッド・モイーズがマンチェスターユナイテッドを解任されてから、5年以上の月日が流れた。

資金的に貧弱だったエヴァートンを躍進させて評価を上げ、満を持して前任のファーガソンの後を継いだが、1年持たずに解任の目に合ってしまった。順風満帆と思われたモイーズの監督としてのキャリアはこれ以降流転をたどることになる。

あえなく解任となってしまったモイーズ監督だが、その代名詞と言えばクロスである。ショートパスを繋いでオシャレな中央突破などは狙わずに、無骨に外からクロスを上げまくるという男らしい戦術で、そのためにエヴァートンから空飛ぶアフロ・フェライニを大枚はたいて獲得したりもした。

有名なのはフラム戦でのこの81本のクロスだ。81本と言えば、試合中ほぼ1分に1本はクロスを上げていることになり、驚異的な数字になる。ちなみにこの試合では2点が決まっており、成功率は2.47%とそれも驚異的である。

俺はこのニュースを見た時にワクワクしたのだ。一体、これからどれほどのクロスが上がるのだろうか、と。クロスの上げすぎによってオールドトラッフォードは負荷に耐えかねて爆発するのではないだろうか、と。しかし、モイーズ解任によって、その夢は絶たれてしまった。それ以降、クロス千本ノックの監督は現れていない。残念な話だ。

しかし、ここでは、モイーズが解任後の2014-15シーズン以降もクロスが上がり続けたと仮定したい。もしモイーズが監督のままだったら、いったいどれほどのクロスが上がり続けたか。それによって何が見えてくるのか。そこにこそサッカーの本質があるのではないだろうか。

計算の単位としては、やはり1試合=81本=1M(モイーズ)としたい。また、クロスの出し手はやはり俺たちのアシュリー・ヤングしかいないのではないだろうか。サイドハーフ・サイドバックをこなすアシュリー・ヤングが左サイドでボールを受け、切換えしてからの右足でクロスを入れる。そういった場面を想像しながら読んでいただくと、非常にわかりやすいだろう。

画像1

・クロスを何本上げられたか

2014年以降の5シーズンにおいて、1チームの合計試合数は38×5=190試合である。その全試合で81本のクロスが上がったとすると、1年で3078本のクロスとなり、5年間では15390本のクロスが上がったことになる。イチローの日米通算安打が4367本なのでその4.44倍となり、イチローが安打数で5年間のアシュリー・ヤングのクロスに追いつくにはあと68年現役を続けなければならない。

画像2

また、2018年の日本における映画の公開数は1192本となっており、1年にアシュリー・ヤングから製造されるクロスの約3分の1となっている。つまり、1本の映画を3回見ないとアシュリー・ヤングのクロスには追い付けないことになり、評判が抜群の『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を君たちは3回見なければいけない。なお、それは実写版『デビルマン』で代替することも可能であるが、こちらも3回見てください。

画像3

ちなみにこのペースでクロスを上げ続けると、そのクロスの数は現在のイギリスの人口6600万を212438年後に超える。その時、アシュリー・ヤングは212472歳であり、おそらく人類最高齢となっている。また、受け手のフェライニは212469歳であり、こちらは人類第2位の高齢となっている。

・クロスでどこまで行けるか

ピッチの横幅68mを半分にした34mを1本のクロスの距離とすると、2014年から現時点で15390×34=523260m=523.3kmの距離を獲得していて、マンチェスターからだとロンドンまでの距離288kmを往復までもう一歩ということになる。この距離は年に104.6㎞のペースであり、マンチェスター・東京間の距離が9442㎞のため、2014年にマンチェスターを出発したアシュリー・ヤングは、277830本のクロスを上げ続けながら、2104年には東京に到着する見込みである。惜しくも今世紀中には到着しなかったが、このときアシュリー・ヤングは109歳である。

画像4

また、アシュリー・ヤングがダイブをしてそのまま上空にクロスの距離だけ飛んで行ったとすると、すでに1年目には大気圏を突破し、現在、アシュリー・ヤングは地球上空の宇宙空間を漂っている。

画像5

このままの速度で宇宙空間を移動し続けたとすると、彼が月に到着するのは3671年後となるので、おそらくイギリスは滅亡している。また、火星に到着するのは2196753年後となり、おそらく人類は滅亡している。

・クロスで何が買えたか

アシュリー・ヤングの年俸は600万ポンド(約7億7千万円)と言われている。これを1本のクロス本数に換算すると、クロス1本=約25万円となる。25万円といえば、日本の大卒初任給を超える額であり、年間に3078本のクロスを上げるアシュリー・ヤングは、256人の日本人新卒を1年間雇えることになる。

画像6

また、これを5年間にすると38億4750万円となり、今シーズンで言うとPSGに移籍したイドリッサ・ゲイェの移籍金に相当する。奇しくもゲイェの旧所属はエヴァートンであり、この一致はただの偶然ではあるまい。ヤングが5年間で上げたクロス15390本でゲイェ1人が買えるのである。ただ、今年マンチェスター・ユナイテッドに移籍したハリー・マグワイアの移籍金は104億円と言われており、それを支払うためにはアシュリー・ヤングは41600本のクロスを上げ続けなければならず、2014年から上げ始めたとして2027年半ばまでかかる見込みである。マグワイアの移籍にも待ったがかかるのだ。我々専門家の間ではこの経済現象をFFM(フィナンシャル・フェア・モイーズ)と呼んでいる。

画像7

ただし、バイエルンのレオン・ゴレツカ、川崎Fの齋藤学、クリスタル・パレスのマックス・マイヤーなどは移籍金が0円だったため、アシュリー・ヤングが1本もクロスを上げなくても獲得可能である。また、当然のことながら、15390本のクロスを上げると、アシュリー・ヤング1人を5年間雇うことができる。

・クロスはモイーズを救えるのか

年間38試合のうち4試合を残した34試合で解任となったため、モイーズ監督は1年間のクロス2754本につき1回解任される計算となる。そのため、現在までクロスが上がり続けていれば、モイーズはさらに5回解任されることになっている。

また、解任されて就任するたびにフェライニも獲得するので、チームには現在では6人のフェライニが存在することになる。フェライニだけで1チームを形成するまで、あと5年の我慢である。

画像8

21世紀いっぱいまでモイーズ体制が続いたとすると、モイーズは97回解任される。その間にモイーズが解任して就任するたびにフェライニも増えていくので、21世紀には97人のフェライニが存在することになる。クロスの本数は267786本上がることになるが、1年未満での解任であったために、モイーズが1度も解任されない年は存在しない。むしろ、シーズンに2回解任される年が10回訪れる。

つまり、クロスはモイーズを救うことができない。

画像9

ただ、逆に考えると、1試合のクロスの数を年間2754本よりも少なく抑えれば、モイーズを救うことは可能である。年間38試合で2754本以下のクロスに抑えるためには1試合平均のクロス数を72本まで抑えればいいのである。これは常識的なチームならば可能である数字だし、なにしろバリー・ボンズが持つMLBの1シーズンの本塁打記録73本よりも1本少ないのである。つまり、アシュリー・ヤングの代わりにバリー・ボンズがステロイドを使わずに左サイドからクロスをホームランし続ければ、72本以下の数字になることは自明だろう。鍵はバリー・ボンズが握っていたのだ。

画像10

・おわりに

今週末からまた2019-2020シーズンのプレミアリーグが開幕する。シティの完成度の高さ、リヴァプールの圧倒的テンション、スパーズの抜群のコンビネーション、ユナイテッドの逆襲、アーセナルのCB全然いないじゃん、などをみなさんは堪能することだろう。週末にはみんな試合を見ながら、我を忘れてスーパープレイに熱狂することだろう。

ただ、我々の並行世界では今もまだモイーズはクロスを上げ続けていることを、アシュリー・ヤングは宇宙空間を漂い続けていることを、フェライニは増殖し続けていることを少しでもいいから思い出して欲しい。サッカーは続く、そしてクロスも続くのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?