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火星の夕日は何色か?

晴れた日の夕方。空は,赤く染まっていく。

誰もが知る,ごく当たり前の常識だ。

しかし,この常識は,なにも永久不変の真理というわけではない。

この画像は,NASAの火星探査機「キュリオシティ」が撮影した,火星の夕日だ。

そう,火星の夕日は,「青い」のだ。

地球は空は,なぜ青い?

火星のことを考える前に,まず身近な地球について考えてみよう。

地球の空は青い。

この青空は,どこまで広がっているのか,ご存知だろうか?

地上から徐々に高度を上げていくと,いずれ宇宙空間へと到達する。そこにはもはや,青空は存在しない。真っ暗な宇宙が広がっているだけだ。一方で,眼下には,淡い青色の光を放つ地球が見えるはずだ。

そう,ちょうどこんな感じに。

この画像は,地球と月を,高度約300kmに位置しているISS(国際宇宙ステーション)から撮影したものだ。この画像では,太陽は左上の方にある。

地上から見上げた空は青く,宇宙から見下ろした地球は青い。

ということは,地上と宇宙空間の間にある「大気」こそが,「青空の正体」だと考えても良さそうだ。

太陽から放たれた光は,宇宙空間を通って地球に届く。上の画像の暗い領域にも,確かに太陽の光は存在しているはずだ。それにも関わらず,なぜ宇宙は真っ暗なのだろう。この原因は,地球の空が青い理由とも深く関係している。

宇宙空間では,たとえ,光が私たちの目の前を通過したとしても,私たちにはその光を直接認識することはできない。私たちが見ることができる光は,あくまでも,目に入ってきた光だけだからだ。

レーザーポインターで指したスクリーンに光の点が写っても,そのレーザーの軌跡を見ることができないのと同じように,太陽の光もまた,本来,宇宙空間では見ることができない。

これは,宇宙空間に,大気はもちろん,砂ぼこりやちりといった地上に当たり前にある微小な粒子が,ほとんど存在しないためである。

太陽の光は,地球の大気中に侵入すると,気体分子や上空に存在する砂やほこりなどの微粒子と衝突して,拡散する。この現象を「光の散乱」という。

地球の上空では,地球の大気に含まれる様々な気体分子によって「青色の光」がとくに強く散乱される。その結果,地上から空を見上げると,上空で四方八方に散乱された青い光が必ず目に入るため,空が青く見えるのだ。

【余談】なお,宇宙に光を散乱させる大気や砂ぼこりがなくても,「宇宙が無限に広く,星も無限個存在するなら,どの方向を見ても宇宙は明るく輝くはずだ」と考えることができる。しかし,実際の宇宙は暗い。この謎は,「オルバースのパラドクス」と呼ばれ,天文学の世界で長らく議論されてきた。この問題に対する解説は,こちらを参照してほしい。

地球の夕日はなぜ赤い?

では,夕方になると,なぜ青かった空は赤く染まってしまうのだろう。

日中と夕方で,最も大きな違いは,太陽から放たれた光が大気中を通過する距離の差だ。これが,青く広大な空を,赤く幻想的な姿へと変貌させるかぎとなる。

たとえば,太陽が頭上にくる正午のとき,太陽の光は大気に垂直に入射する。このとき,光が大気を通過する距離は最も短い。

一方,夕方になると,まったく同じ場所に届く太陽の光は,大気に斜めに入射する。そのため,光が大気を通過する距離は,かなり長い。

では,なぜ大気中を通過する距離がちがうと,青い空が赤い夕焼けになってしまうのだろう?

先ほど,光が大気中を移動するときに,青い光が強く散乱され,私たちの目に届くという説明をした。実は,太陽から放たれた光が大気中を長い距離移動する場合,青い光は散乱されすぎてしまい,地上に届く量(強度)が少なくなってしまうのだ。

また,太陽の光に含まれている赤い光は,大気に含まれる気体分子と衝突してもあまり散乱しないものの,大気の比較的下の方の層にある砂ぼこりやちりなど,比較的大きな微粒子に衝突したときには,散乱されやすい。夕暮れ時,太陽から放たれた光が大気中を長い距離移動することで,そこに含まれる赤い光は,日中よりも多く散乱されていると考えられるのだ。

こうして,夕方になると,地上まで青色の光が届きにくくなるうえ,どの方向からも赤い光が目に入りやすくなる。その結果,空は赤く幻想的な姿へと変わるのだ。

火星の夕日はなぜ青い?

では,火星の夕日は,なぜ青かったのだろう。

火星は,地球によく似た惑星だが,平均的な気圧は地球の100分の1以下だ。大気中に含まれる気体分子による光の散乱が生じにくいため,火星の日中の空は,青くはない。

これは,キュリオシティが火星で撮影した「自撮り」だ。

そう,火星の空は,むしろ赤いのだ。

これは,大気が薄い分,砂ぼこりやちりなどの微粒子によって散乱された赤い光の影響が強いためだと考えられている。

では,日が傾き,夕方になると,何が起こるのだろう。ここでも,基本的な考えは,地球と同じだ。

夕方になると,太陽の光が火星の大気中(砂ぼこりやちりがある中)を通過する距離が長くなり,その分,赤い光はよりたくさん散乱される。

つまり,火星で夕方になると,地球では大気中に含まれる気体分子による散乱の影響を強く受けていた青い光が弱くなるように,それまで影響が強かった赤い散乱光が弱くなる。

その結果,あとに残るのは,太陽光から赤色を差し引いた,青色を中心とした光となるわけだ。

地球と火星。環境の違いはあれど,そこで起きている物理現象はよく似ている。原理さえ知っていれば,不思議に思える現象も,ごく自然な出来事に見えてくる。

●画像
・NASA/JPL-Caltech/MSSS/Texas A&M Univ.
・NASA
・NASA/JPL-Caltech/MSSS

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三ツ村崇志

科学雑誌 Newton編集記者。科学,テクノロジー,医療などに関する文章を書いています。Webで見れるなら,どういう記事がウケるのか,実験中です。科学に興味のない人や非専門家と科学コミュニティの間に橋を架けたい人。研究者のインタビュー記事もやりたいなぁと検討中。

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