山田おじさん (4)

 布団の中で山田おじさんはペニスが膨らんでいるのを感じました。このまま精液を抜いて下半身をすっきりさせようと手を股間に伸ばしたとき、おかずは何にしようか、と思った瞬間、真っ先に久美子さんの身体が浮かびました。普段はレストランの制服か私服姿を見ていますが、体つきの豊満さは服の上からでも明らかでした。童貞のおじさんにしてみれば、結局のところ、おっぱいとお尻が欲情の発生源なのです。だが、久美子さんはただのおっぱいとお尻ではありませんでした。身体のパーツだけで興奮できるのであればエロ雑誌でもAVビデオでもダッチワイフでもいいはずですが、久美子さんはそれらと明らかに違っていたのです。神聖なオーラをまとった生身の女性であり、生きている御神体であり、すべての邪念をぶち抜くような女神なのです。久美子さんの身体に向かって、手を伸ばして触ろうとすると、彼女の後光の煌めきが勢いを増して妄想が途切れてしまいました。気がつくと身体の熱気は冷めて、あれだけ勃起していた息子が萎んでいたのです。


 すっかり興奮は冷めて、山田おじさんは目が冴えてきました。カーテンの外側はまだ陽が差していません。目覚まし時計が鳴るよりも早く起きるのは久しぶりでした。いつもなら電子音のうっとうしさに頭をもたげながら時計のスイッチを叩き、ふたたび布団を被って寝てしまい、予定よりも遅く起きてしまうのでした。


 久美子さんが早起きするように促してくれたのだろうか、と山田おじさんは都合のいい解釈を始めました。恋をする人間は世界がバラ色に見える、と誰が言ったのでしょうか? よくわかりませんが、勝手に前向きに解釈するのはけっして悪いことばかりではないのでしょう。都合のいい解釈によって、都合良く一日を始められて、問題が起こっても気分を良くして物事を進められるのです。


 仕事場へ行くと久美子さんはお休みでした。残念だと思いながら、おかずにしようと考えたその日に直接見てしまうと、余計に罪悪感にとらわれるか、もしくは再び股間に興奮が訪れてしまう恐れもあるので、良かったのかもしれないと考え直しました。


 洗い場には新しいアルバイトが入って来ました。二十代前半の女性です。いつも下を向いて、目を合わせようとせず、返事が小さく、無表情なそばかす顔です。上条おばさんはだだ黙々とシンクのシャワーで食器を洗い流し、機械へ通すだけでこちら側をふり向こうともしません。新人が入るとその指導を無言で丸投げするのはいつもどおりでした。


 山田おじさんは仕事の流れを教えました。食器の種類が多く、最初から覚えきれないので、皿やナイフ、フォーク、カップをタオルで拭くことだけ新人女性にやってもらいました。


 拭いた食器を倉庫に運び、棚へ戻している最中、巨大な音が響いてきました。山田おじさんは洗い場に急いで戻ると、新人の周囲の足元に白い皿の破片が散らばっています。皿を拭いている最中に手を滑らせて落としたようでした。上条おばさんの立腹した声を浴びながら茫然と立ち尽くしています。

 山田おじさんは用具室のロッカーから箒とちりとりを手にして再び洗い場にもどると、新人女性がいませんでした。


 上条おばさんが言うには、
「気分が悪いからトイレに行ってくるって。私、そんなキツイこと言ってないわよね?」


 逆に尋ねられても、やりとりの現場に立ち会ったのはほんの少しだったので、答えようもありませんが、怒らせると面倒なので、山田おじさんは小さい声で相づちをしました。


 その後、新人のアルバイトの女性はいつまで経っても戻って来ません。上条おばさんがトイレを探しても誰もいません。倉庫や通路やレストランを探しても彼女は居ませんでした。他の従業員の目を盗んで、いつの間にか帰ってしまったようです。タイムカードすら押していませんでした。


 それ以来、彼女は仕事場に来ませんでした。

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Cubeべぇ。

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新しいデスクトップパソコンが欲しい。

ステーキ!すき焼き!焼き好き!!スキ、スーキ!!!
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