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サービスエリアで「ぼっち力(りょく)」を語る件。--成長小説・秋の月、風の夜(8)

まだまだ夏の暑さが残る高速道路の風を、四郎はとても嬉しそうに受けていた。ちら、とスピードメーターを見ては、風の強さに感覚をもどしていく。
カーナビに出てくるサービスエリアの名前と、到着までの所要時間を、助手席で確認しては、景色と照らし合わせる。
頭の中の日本地図とも、対照しているらしい。

サービスエリアに入り、大きくてきれいな建物を見た四郎は、「うわー」と、小さくつぶやいた。

大型車両から軽まで分けられた駐車エリア。珍しい乗用車や、陸上自衛隊の車両群や、ツーリング中に立ち寄ったらしいハーレー・ダビッドソンのバイク群。
やたら広くて、いくつもあるトイレ。お土産品のショッピングスペース。食堂エリア。

「……楽しい?」高橋が八重歯を見せてわらった。
「……なんか、いろいろ、めずらしい」
「そうだよな、修学旅行にも行ってないもんな」
「旅行、人数少なて高橋となら、行くのもええかもしれん」

「そりゃいい。旅友達がいるってのは、いいかもしれない、僕にも」
「え、スケッチいくのとか、一人なんか」四郎は、高橋の答えに、びっくりしたらしい。

「基本ひとりだよ。食事のとき合流できるまで別行動してられれば、誰かと一緒もいいな。……そうだな、宿で四郎に、首肩メンテしてもらえたら、もっと描けるな」
「はあー」四郎は感心したように、高橋を眺める。
「なに」
「お前、コミュニケーション能力高いし、友達大勢おるし、ぼっち力(りょく)も高いなあ」
「ぼっち力(りょく)……」つぶやいて、高橋はクスクス笑った。「それ、能力か」
「スキルやん。人のことばっか、気にしとんさる人もおるでさ」
「スキルか」

窓際の席を、四郎が一直線に歩いて確保する。
「お前、席取り能力高いよな」
「そうかな」
「わりと、ざっと全体見回すまでもなく俯瞰できてて、なにげなく決める感じだ。一緒に仕事してる時の気持ちよさと似ている」
言われて四郎は、少し嬉しげな顔をした。

高橋は「人が多いから、僕が行ってくる。待ってろよ」といいおいて、買いまわったお膳を運んできた。
夏の終わりにはまだ、汗がだらだら出そうなもつ煮。ネギと赤こんにゃくがこれでもかという入り方をしている。
あとは、おにぎり。

「朱色だねー。赤こんにゃく見てると、鉱石のジャスパーを思い出すんだよね」と言いながら、高橋は、もつ煮を取り分ける。
「足りないかな」

「まず、これ食べよ。足りなんだら、あとで考えよ」四郎は割りばしを高橋に渡した。「いただきます」
いつもそうなのだが、この男の「いただきます」は、本当に端正だ。



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マガジン:小説「秋の月、風の夜」
もくろみ・目次・登場人物紹介
この二人がしゃべってる「ネタばれミーティング」はマガジン「高橋照美の小人閑居」

「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!