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退院の日

朝8時50分、 パパさんの病室へ。

僕が出張の時使っているキャリートランクが、 かかとのある部屋ばき 、一旦自宅で保管する頓服、塗り薬、 未開封のペットボトル、 予備のタオルや下着 などでいっぱいになる。

パパさんは 子供二人を残して 、 いきなり 緊急入院に始まって 、34日間の入院生活をしてたのだった。

僕は、34日間の緊急対応をしてたのだった。

核家族化して 少人数または単身の世帯が多くなった結果、 どんなメリットとデメリットがあったか、僕らは直面精査しているようだ。

9時から オリエンテーション。
日常生活の注意事項と、 2月27日に 再入院の際の流れを聞いた。
2階の入退院支援部署に行く前に、 リハビリ担当医、 口腔外科の看護師さん、関わって下さった方々が一声かけにきてくれた。

口内炎と口の中の痛みに苦しんだパパさんには、 次回入院直後の検査の合間を縫って、 口腔外科で口腔内の掃除をしてくれるという。

今回は緊急入院だったので、 予防的な措置が一切取れなかったわけだ。

予防って本当に大事なんだよね。

がん治療では粘膜組織がやられる。 腸内環境もやられる。 かゆみにも悩まされ、 皮下出血にも衝撃を受ける。 腎臓肝臓への負担もある。
とにかく 普段感謝のカの字も思いつかないような 機能は全部やられる。

生きてるって本当にありがたいことだ。


2月27日に再び持ち込む書類をもらい、 今回は緊急入院のため 受けていなかった入院説明を、 一通り聞く。 合間に入院費用の精算。


朝の診察でごった返す 前に僕たちの処理が終わった、 そんな格好。
どこでも人手不足で、 病人と高齢者であふれかえっている、 僕らは本当にそういう時代に突入したんだな。

10時19分に家に帰り着いた。
自宅に戻って、パパさんは本当に嬉しそうだった。

前の晩に子供たちが書いた「パパおかえり」の紙 は、 いつか思い出になるように折りたたんで取っといた。

僕は一か月ぶんの疲れがどっと出たのか、 冷蔵庫にしまう処方のうがい薬など を 片付けた直後 「 ごめん30分寝る 」と パパさんに告げた。

昨日普通に寝ているのにも関わらず、 なんか寝とかないとダメだ、という感じになった。

夢の中で僕は、 夢だとわかっていてそばの調理をしていて、 30分どころじゃなく熟睡してるのも 夢の中で わかっていた。

起きたら12時2分で、「 ごめんごめん 」 なんて言いながら、 パパさんの2ヶ月半遅れの年越しそばを作った。 年越しそばを楽しみにしていたが、 その時すでに扁桃腺の腫れが引かなくなっていて、 うどんも食べられなくなりヨーグルトも飲み込みにくくなり、 の挙句の血液検査で白血病が分かったんだという。

パパさんは基本的に掃除洗濯調理は 自分でできる人だ。
だが、 今日は既に退院説明を受けたり、 患者でごった返し入退院支援室で待ったり、 自宅まで移動したりと、 環境と運動量と活動の性質が、 これまでの30日あまりと全く違う。

27日の再入院まで、 生の食材を触らせるのも ちょっと避けとこうかなとも思った。

かけそばの めんつゆ、 ちょっとしっかり目の味にしてやったら、 パパさん、さらに足してた。
おいおい(笑)

ものすごくおいしく喜んで食べていた。 きっと世界一喜んで食べてもらった年越しそばだと思うよ。 天ぷらのエビに「待たせたね」って話しかけてんだもん。

5日もしたら、 再び入院荷物のパッキングだ。 一箇所にまとめられるものはそのまままとめておいた。

食後の散歩に付き合うよと言ったら 、 すでに雨が降り始め、 今日の散歩は中止になった。

ところで僕は昨日の晩から、 この家と インターネット経由で可能な 自分の仕事を再び始めているが、 正直どうデザインを切り直していいものやら、 まだ試行錯誤だ。

別の親戚たちも、 60歳から86歳まで が特に、入退院やら 施設入居やら、 脳の血腫の手術やら 肺がんが見つかったやら、 色々と同時多発テロのようなことになっている。

業務あふれの時に、 社会人3年目以降、僕は時間に感謝できるようになった。

「人手は足りない、 仕事は溢れてます。 何をゴールにして、 何を切り捨て、 どの順番でやって行きますか。 あれもこれもはダメです。事故が起こります 」

時間というものが 人間の知恵の中になければ、 僕らは決してこういうことができないのだ。

まず自分の健康を守る。 病や事情を抱える 場合も、 自分の できることが できる限り快適にできるように 共倒れを防いで 、自分と、関係する人を守る。

そういう 新しい常識を かかげて、 自分を大事にする時代に入ったんだな。

仕事の 最前線から ある日突然エアポケットのようなところに呼ばれて、 この一か月 ほぼ毎日病院に通い、 親族の家族看護をし、 突然姉弟ふたりの「お兄ちゃん」 になってみての感想。

「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!