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家庭科の宿題――夏休みの思い出から――

お盆頃の事だったな。

「茄子、買っていい?」

中2のお姉ちゃんが、僕に急に訊ねた。

「いいよ」

お姉ちゃんのごはん作り。
家庭科の宿題。
献立を立て、献立表に材料を書き、買い物と調理と食事をした感想を書いて提出。


なぜか、お姉ちゃんのつくるごはんは

「茶色い、盛りつけ好きそうに見えない、めんどくせー感そこはかとなく漂い気味」

…なのだ。

折り紙や彩色や木工品は緻密で華麗なものを作れるので、色彩感覚や立体把握はかなり高い能力を持っているのに。
味噌汁はちょっと僕が盛りつけの手直しをしかけて思いとどまった。味噌汁の中の豆腐は全部、すでにクラッシュしていた。


たぶん、加熱による変色がわかってないのと、素材の柔らかさとか崩れやすさがアウトオブ眼中なのと、
これは9月になってから気づいたのだが、絶賛没頭型のため

「献立、異素材の組み合わせ、調理加工による素材の変化、盛りつけ…という、”広がり”が理解できない」

多分これだなーーー。

茄子は、単純にしぎ焼きをしてみたかったのだそうだが、縦長の茶色みの灰色紫のものが、一山積まれた。1袋全部、一度に焼き切ったらしかった。一人前の料理に茄子6本分が供された。
それも家で一番上等の、貰い物の野いちご金縁模様(ええウエッジウッドですよ奥さん!)の角皿の上に、死体のように積まれた。

「こういうのはね」

と、口から出かかるのをぐっと抑える。


(こういうのはね、ナス一本分の分量がどのぐらいのボリュームか、皿に盛ってみて分かったよね?
そこから、しぎ焼きなんだから和風の皿に、4筋が美しいかなー、6筋が美しいかなー、奇数の方がいい感じかなー、って、菜箸で取り直してみるのさ! んで、しょうがのすりおろしは、形よくちょこんと……(以下省略))

今言っても料理嫌いになるだけだなーー。だけだよなー。


その後も一回、

「茄子、買ってもいい?」

なぜか単品。なぜか茄子。

絶対この子は、ごはんは人に作ってもらって、延々と工芸に没頭してる派だな!笑

「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!