見出し画像

会社設立・初めて従業員を雇用するときの社会保険・人事労務の手続きについて #1

 先日、知人から独立して会社を立ち上げるという話を聞いた。最初は一人で始めて、事業が拡大したら従業員を雇いたいという。社労士の資格があるなら、そのときは相談させて欲しいといわれ もちろん と答えたのだが。
 あとで考えてみたら、会社を立ち上げて直ぐ、社長自身の健康保険(保険証など)と厚生年金の加入手続きが必要なことを思い出した。せっかくの機会なので、法人設立 ~ 初めて従業員を雇用する にあたっての手続きなどをまとめてみます。


1.会社を設立したら 代表者など役員の 保険証や年金の手続きが必要です

 会社を設立して法人登記しても、従業員を雇用する予定が無いから、社会保険の手続きは必要ないと考えてしまう方も多いのではないでしょうか。
 では会社設立後、本人(代表取締役などの役員)の健康保険や年金の手続きはどうなるでしょう? 役員は従業員ではないので社会保険の対象外なのかというと、実はそんなことはありません。 
 会社から役員報酬を受け取っていれば、健康保険・厚生年金の対象者になります。またご家族がいる場合、収入など一定の要件を満たしていれば扶養に入れることもできますので、忘れずに手続きをおこなってください。

 なお役員であっても無報酬(報酬を受け取らない)の場合、健康保険・厚生年金ともに対象外となるため、手続きをすることはできません。

 また設立した会社から役員報酬を受け取ると同時に、他の会社から役員報酬や給与を受け取る場合(いわゆるWワークの状態)も考えられますが、この場合は 少々手続きが複雑になります。役員報酬や給与を受ける会社全てで社会保険の対象となりますが、保険証は どちらか一方からしか交付を受けることができません。そのために、メインとなる会社を選択するための届出等も必要なります。

[必要な手続き:会社設立時]
● 社会保険の会社登録の届出(届出先:年金事務所)
・「新規適用届」を提出し、設立した会社が 健康保険・厚生年金の対象となる手続きを行います(事実発生から5日以内の届出が必要)
・この届出後、健康保険・厚生年金の加入者の状況に応じて 毎月 保険料の納付が必要となります
● 社会保険の対象者の届出(届出先:年金事務所)
・「被保険者資格取得届」を提出し、会社役員の方が 健康保険・厚生年金の対象となる手続きを行います。
・対象者の方に扶養家族がいる場合は、その家族に関する届出書類の提出も必要となります


2.初めて従業員を雇用するときは 雇用保険、労災保険の手続、労働基準監督署への各種届出が必要です

 初めて社員を雇用する場合、会社設立よりも手続きが複雑です。
 役員は対象外ですが、従業員(雇用される人)は 雇用保険・労災保険の対象となり、会社登録の届出以外に、保険料の支払いも必要となります。
 雇用保険・労災保険料は、原則 まとめて1年分を前払いする制度となります。保険料率も低く、それほど高額になることはありませんが、ある程度のまとまった出費があることをご確認ください。
 また必須でない場合もありますが、36協定届など 労働基準監督署へ届出を行っておいた方が良いものもあります。うっかり届出を忘れ、気づいたら労働基準法違反の状態になっていたということも考えられるため、手続き漏れの無いようにご注意ください。
 当然 社会保険(健康保険・厚生年金)の手続きも必要ですので、こちらもお忘れなく。

[必要な手続き:初めての従業員]
労災保険に関する会社登録の届出(届出先:労働基準監督署)
・「保険関係成立届」を提出し、勤務場所(会社の所在地)が 労災保険の対象となるように手続きします(10日以内)
・上記手続きとは別に、50日以内に「概算保険料申告書」を提出し、同時に1年分(直近の3月末まで)の保険料の支払が必要です
● 雇用保険に関する会社登録の届出(届出先:ハローワーク)
・「雇用保険適用事業所設置届」を提出し、勤務場所(会社の所在地)が 雇用保険の対象となるように手続きします
● 雇用保険の対象者となる人の届出(届出先:ハローワーク)
・「被保険者資格取得届」を提出し、従業員の方が 雇用保険の対象となる手続きをします
● 労働基準法で決められた労使協定の届出*(提出先:労働基準監督署)
※ 下記は代表的なものの一例です
「時間外・休日労働の労使協定届(36協定届)」
 → 社員に残業・休日出勤をさせる場合は必ず提出
「賃金の口座振込の労使協定届」
 → 
給与を銀行振込で支払う場合は必ず提出作成する(届出不要)
「賃金控除の労使協定」
 → 給与から税金・社会保険料以外の独自費用を控除する場合は必ず提出(届出不要)

終わりに
 社会保険関係の手続きは、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険などいろいろなものがあります。また その行政窓口も、年金事務所、労働基準監督署、ハローワークと別々に分かれており、馴染みのない方にとっては複雑に感じてられるかと思います。
 それぞれの届出書類は それほど難しいものではありませんが、実際に手続きが必要となる場合は、全てをまとめて依頼できる社会保険労務士などの専門家に任せる方が簡単です。

 また、これらに関連する手続きは、従業員を雇用した時だけでよいかというと、そういうわけではありません。毎年1回 定期的な届出が必要であったり、給与の変更・賞与の支払いなどで別途届出が必要だったりする手続きもあります。
 起業・開業をされる方は本業で忙しく、社会保険などの手続きまで手が回らないことも多々あると考えられます。そのようなときは、包括的にサポートをしてくれる専門家に依頼していただくことを、是非お勧めいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?