ある村のポスト

 私が住んでいる村は、チェーン店が一つもない過疎地域だ。村にある店は全ての業種が独占市場の状態だ。

 とはいえ私もその事業者の一人で、私の妻の夢であった「自分の洋菓子店を出店する」を叶えるため、あれこれと各機関を巡って資金調達に駆け回った。そのようなやり取りも未だに紙媒体と市販の印鑑でやり取りがされているため、プライベートで初めて封筒やらA4用紙やらを購入した。

 ズボラなわけでも無いのだが、会社に勤めながらのやり取りとなると、期限ギリギリになってしまう事も多々ある。村に郵便局はあるが日中仕事で手続きが出来ないため、そうなる事を見越して、封筒を購入した段階で切手をある程度購入しておいた。我ながら先を見越して仕事を出来ていると陶酔しながら、そんな事も言っていられないほどに忙しなく提出書類を完成させ、疲れとボールペンのミス出来ない緊張感から封筒を5枚書き直しポストに向かった。

それから20分。
ポストはどこにあるんだ。
深夜の田舎は暗黒の景色。
何も見えない。

 山の中に一つだけポストがあった。こんなところまで郵便屋さんは大変だな。お疲れ様です。と、墓石に声をかけるのと同じトーンで話しながら、ある一縷の不安がよぎった。本当にこのポストは使われているのだろうか。回収時間が経年劣化で読めなくなっている。万が一この書類が届かなければ、資金調達は失敗だ。

 別のポストを探そう。

 それから寝ずに隣町のコンビニに車を走らせ郵送手続きを終わらせた。この村はポストまで2時間かかるのか。日中仕事をしていたら郵便局にも行けないし、こんな日々が続くのかと辟易した。

 数日後に振替休日で平日に休む機会があり、その日は安心して郵便局に書類を提出しに行った。郵便局に着いて、ある物体が目に留まった。

郵便局にポストってあるんだ。
溜め息が止まらない。本当の意味で「止まらないhaーha」だ。

 田舎で住むのは苦労が絶えない。

 ただし、今は不便も魅力。むしろ不便を売りにして売れていきたいものだ。

書くために本を読みます! 本の経済が潤いますように!