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春夏秋冬

桜舞う川沿いの道。
急の電話で呼びつけた僕にバツの悪そうな君。
「友だちにトレーニングシューズ貸すの。それまで少し時間が出来たから」
僕は僕で春の匂いとこれから始まる新しい日常のことをぼんやりと考えていた。
友だちとの待ち合わせの時間を少し過ぎても帰らない君を愛おしく見つめる。ふと店の窓から入り込んできた風が君の香りを連れて僕の心をくすぐる。

夕暮れ時。
今日夏が始まった。
空にはすべての色があった。とてつもなく美しかった。
それがもし七色だったとしたら7つだったのだろう。
でもそんなことはどうでもよかった。
だって助手席の君の横顔がとても綺麗だったから。
何でも出来ると思った。
その穏やかな横顔の奥にあった1ミリの切なさに気づけなかった。

真夜中。
季節を感じる暇もなくパソコンに向かっていた。
薄暗くした部屋に浮かぶパソコンの光の横で灯った携帯電話から聞こえる涙声。
近所の坂道の並木にはまだ少し残った銀杏の葉。
降り出したみぞれのようなつたない雪。
街灯に照らされる黄色と白のコントラスト。
タクシーから飛び出した君はチェックのシャッツにカーディガンを羽織ってる。
照れ笑いを浮かべながらも、涙ぐんで僕の腰に抱きついてくる。
ずっと君を支えていけるのだろうか…。
今夜秋が終わった。

冬の朝。
吸い込んだ冷たい空気にふと目を覚ます。
何も残せていない自分があまりにも小さくて突然怖くなる。
君は横ですぅすぅと小さな寝息をたてている。
結露に濡れた窓をワイパーのように手で扇型にかき分けて白い朝を見る。
背中に聞こえる君の寝ぼけた声。
もう一度ベッドに潜り込んで深い深い眠りに落ちる。
僕は弱い人間です。


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松浦徹

演出・脚本。1965年5月3日生まれ。東京都出身。 映画「ギミー・ヘブン」舞台「七日目にボクはキミと」「恋と革命」TV「小泉今日子50歳ニューヨーク」「情熱大陸」「NONFIX」など。
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