「デッサン」が、優れたクリエイターを育てる。


僕がこれまでの人生で最も苦しかったのは、美大受験だ。一浪した時なんか、絵の学校の同級生は全員「敵」だと睨みをきかせてた。とにかく必死だった。


高3の夏、スポーツ推薦を蹴り、デッサンを習い始めた。当然、母親は大学に弓道で入学すると思ってたので猛反対。デッサンはなかなかうまくならない。ストイックな日々を過ごし、無事に大阪芸大に合格した。東京芸大もチャレンジしたら?と先生に言われるくらいになっていたがチャレンジは強いなかった。

そして大阪芸大から任天堂に就職し、デザイナーとして18年間過ごしてきた。今、振り返ると「デッサンをすることで得られる効果」が、クリエイティブの仕事現場に生かせる場面が多い。


デッサンは正直いって苦しいしめんどくさい。経験者の方であれば、100%の人がそう思うだろう。でも断言できる。デッサンは、クリエイティブな仕事をする上での「大事な力」を身につけることができる素晴らしいワークだ。


「デッサンはクリエイティブの筋トレ」映像クリエーターの藤井亮さんはデッサンのことをこんな風に言っていたけど、ほんとそう。ものづくりで食べていくことを志すなら、「デッサンをやりきった!」というところまでやってみることをおすすめする。遠回りのようで、これが一番クリエイターとしての筋力が鍛えられるから。


ここでは、デッサンがもたらす効果についてまとめてみる。書いてみて思ったけどこれって、非クリエイターのビジネスパーソンでも応用できるので見出しはできるだけ抽象化した。



1.つかう力

何においてもそうだけど、やろうとしていることにツールは必要不可欠。デッサンの場合のツールは「鉛筆」だ。鉛筆を最大限使うことができればデッサンは飛躍的にうまくなる。

鉛筆の使い方が「わかってる・わかってない」の差は大きい。知るといっても、頭で考えるんじゃなくて感覚的に使えるようになるまで身体に染み込ませる。考えなくてもできるまでやりまくることが大事。最初は鉛筆なんて黒の線くらいにしか考えてなかってけど、いろんなものに変化させられる。

「2B鉛筆でこれくらい描いたらこの濃さになる」とか。「どれくらいのグラデーションが付けられる」とか。「無数の幅」を知るかどうか。

デッサンと同時期に不透明水彩の「色彩構成」も勉強してたけど、こちらもうまくなるコツは「色」を知る事だった。筆の使い方、色の作り方とか。とにかく絵の具を使い知り作りたら覚醒した。良い点が取れるようになった。


「つかう」を極めて「無意識に使えるようになれ」


デザイナーの仕事として「つかう力」は、アプリケーションの習得だろう。IllustratorやPhotoshopを最大限使うことはデザインのクオリティやアイデアを生む時間を作る。



2.気づく力

デッサンは気づく力、すなわち「客観視」の訓練に最適だ。クリエイティブの良し悪しって客観視で決まる。ダメな部分に気づけるか、気づけないか。違和感に気付くのがクオリティセンス。

作ったものは見た人の評価で決まるものだからこそ、客観視できるかどうかって大事なわけ。常に自分目線と他人目線を同時に見る必要がある。客観視というのは、自分の作っているものへのメタ認知とも言える。


デッサンで違和感に気づくためには、描いてるものから離れてみたり、逆さにしたり。もっと細部を書き込んでみたり、観察して細かい部分を見てたと思ったら、大きな空気感を大事したりする。そうすることでマクロレンズと望遠レンズ、自分視点と相手視点両方を持つ高性能ズームレンズの「目」を養うことができる。なるべく多面的で高解像度に。


相手視点を強化したいなら、誰かに率直な感想もらうのもいいね。スーパーマリオを作った宮本茂も、「客観視が一番のポイント」「お客様目線」って言っていて、社内のいろんな人に遊んでもらって感想も聞いたり、反応をひたすら見て質を上げていた。世界一のアートディレクター大貫卓也も、いろんな人に反応や感想をもらってたらしい。


自己肯定感が強すぎたり、作ったものへの愛が強すぎるとこの客観視ができない。自分を否定された気分になってしまうから。でもそうじゃない。作るものへの異常なこだわりや愛はもちろん必要だけど、「本当にこれでいいのか?」と客観視できる冷静さはかなり大事。いいクリエーターは情熱と冷静さを併せ持ったものだ。



3.やりなおす力

デッサンは「消すこと」でしか上手くならない。

なんども言うがデッサンって死ぬほどめんどくさくて大変なの。最初のころは、描いても描いても完成しない。砂漠を歩いてるようなもんだ。明らかにパースや形が狂ってたら消さなきゃいけないからね。それは「スタートに戻る」ってことを意味するんだけど、ここを乗り越えないと上手くならない。

なぜ消すかというと、ダメな部分を残しまま完成させても、ダメな部分はカバーできない。デッサンは自分へのダメだしの連続。デッサンを習っていたとき、アトリエの先生が「消すことを躊躇してたらうまくなれない」ってよく言っていた。それってどんなクリエイティブにも通じるよね。いや、ビジネスにだって通じるよ。


作ったものへの愛着が強すぎたら消せない。客観視してダメなところを受け入れて消して直す。これは、デザインで飯を食っていくなら絶対に発生すること。僕は修正には慣れててタフだという自信がある。任天堂で揉まれた経験はもちろんだけど、元をたどれば、デッサンでそのマインドを養った。修正を受け入れるタフな態勢を養うことができるのもデッサンの効果だ。よくするために、今までの過程をキッパリ捨てられるマインドが手に入る。



4.進める力

デッサンで得られる効果って他で応用が効くという点がいい。基礎で掴んだ筋肉は仕事で応用できるってこと。僕の場合はクリエイティブ系だからデッサンでこれを身につけたけど、他の仕事だって何かあるんじゃないかな?専門的なスキルを飛躍的にあげるための基礎的なワーク。そういう基礎を何か1つでも持っていると強くて、今度はその時の体験やノウハウを横展開できる。


例えば、僕は任天堂企画部に所属していた。プロモーション企画職14年半。だから「企画なんて誰だってできるでしょ」って正直思ってたけど、フリーになって気づいたのは意外とみんながみんなそうじゃないってこと。もともと企画ができたのか、あるいは企画する仕事現場にいたからできるようになったのか。僕はデッサン力がここでも活きているんじゃないかと思っている。


企画もデッサンと同じだよ。押さえるべきところをまず押さえるところなんて特にそう。デッサンは「影と接地面」をまず集中して描く。そこさえ押さえておけば、大幅なやり直しとブレは生じない。企画がうまくいかない場合って、押さえるべきコンセプトと、押さえるべき人を押さえられていないからだ。

デッサン完成間近なのに、ぜんぶ消しゴムで消さないといけないなんて、涙ちょちょぎれるくらい最悪じゃない。「接地面」「サイズ」「パース」など、それを防ぐために押さえるところを押さえる。

押さえるべきコンセプトというのは、企画のキモ。「なんのためにやるのか?」そのために「何をするのか?」ここがズレていたら何やってもアウト。

押さえるべき人というのは、任天堂時代だったら、僕の部署は社長直下だったから上司と社長に「企画内容」を見てもらって一緒に作り上げる。オンラインサロンも同じ。箕輪編集室だったら、箕輪さんと運営チームかな。


押さえると言っても無理やりエゴを通すんじゃなくて、やろうといていることがその組織にとってどういうメリットがあるのかきちんと説明する。そして、関わる人がすべてがHAPPYになっているか。当たり前だけど、ただの独りよがりなものは企画として成立しないから。

僕は口ベタだからその説明をデザインでやってしまうことが多かったのだけど、きちんと説明すればやろうとしていることを理解して応援もしてくれる。もちろん全員が味方してくれるわけじゃないから、文句言われることもあるよ。でも押さえるべきところを最初に押さえているから、一からやり直しになることはないし、何かトラブルになったときも味方になってくれたりする。



以上が、ぼくの経験から考察したデッサンで得られることのすべて。デッサンを価値を見直した今、先日デッサンをやって見て衰えっぷりに愕然とした。今一度、クリエイティブの筋トレが必要だ。




僕は今年から漫画家に転身すると決めた。ここでもきっとデッサンで養った力を呼び覚まし応用していく。



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この記事は僕のCHIPの記事を元に再編集しました。
CHIPのサービス終了に伴い、前田デザイン室内で僕の思考を垂れ流しするようコラムを書いています。僕のオンラインサロン前田デザイン室は、プロジェクトだけではなくこういう読み物もありますのでよかったらぜひ!



構成・編集:浜田 綾


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まえだたかし

アートディレクター、新人漫画家。ドラゴンボール以前の少年ジャンプ「少年ジャキーン」を作りたい。2016年任天堂(株)退社。2018年3月前田デザイン室(https://camp-fire.jp/projects/view/66627)をスタート。同年6月株式会社NASUを設立。

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