否定形を使わない接客の秘密

お客様に対して、「できません」「違います」という否定文を使ってはいけないとはよく言われることです。でも、どれだけ正しく実践されているでしょうか?
接客マナーの本によると、「カードは使えますか?」とお客様から尋ねられたとき、「申し訳ございません。扱っておりません」と否定文で答えるのではなく、「現金でお願いします」と答えなければならないのだそうです。でも、これって実際に言われたら、けっこうムカつくのではないでしょうか。文法的には確かに否定文ではありませんが、お客であるこちらの意図、希望、考えは、バッサリと否定されています。

接客で、否定してはいけないのは、文法上のことではなく、お客様の意図を否定してはいけないのです。ここを間違えてはいけません。

先日、高松空港で素晴らしい接客トークに出会いました。
地方空港はどこでもそうですが、夕方は東京便の乗客で混雑しますが、それ以外の時間は閑散としています。そのため、余裕のある設備、人員配置ができず、ラッシュ時には搭乗客はいろいろと不満をもちやすくなります。保安検査に時間がかかる、売店、飲食コーナーが混雑する、待合室に座るところがないなどです。

高松名産の和三盆のお菓子でも買って帰ろうと思って、売店に入ってみると、そこでは若い女性が一人でレジを担当し、すでに10人以上のレジ待ち客が並んでいました。その女性は、笑顔をつくっているのですが、明らかに引きつっています。経験者であればわかりますが、レジ前の行列というのはかなりきついプレッシャーになるのです。並んでいる客も、みな憮然とした顔をしていますし。

10分近く待たされて、ようやく私の番になりました。たぶん、私はじゃっかんムカついた表情をしていたでしょう。その私に、レジの女性はこう言いました。

「お並びいただき、ありがとうございます」

軽いムカつきの気分が、すっと消え去りました。普通であれば「お待たせして申し訳ございません」と言うところです。でも、そう言われたとしたら、お客はどう感じるでしょうか。「まったくだよ!グズグズしやがって」と、ムカつきを増幅してしまうことすらあります。それが、こちらの「並ぶという行為を肯定」し、「行為に対する感謝の意」を示してくれたことで、気持ちがニュートラルな状態まで戻るのです。
さらに、彼女は最後にこうも言いました。

「高松のおいしいものをお買いあげいただき、ありがとうございます」。

ちょっと一目惚れしたくなるほど、親密さのあるトークです。しかも、「高松」「おいしいもの」というプロモーションをしっかりと入れているところも素晴らしい。名産お菓子は、どれもおいしいですが、強く印象に残るほど図抜けておいしいというものはそうそうありません。でも、こうインプリティングされた私には、高松の和三盆お菓子がとてもおいしく感じられたのです。

このトークが、地方観光コンサルの指導によるものなのか、それとも彼女が自分で考えた工夫なのかまではわかりません。しかし、広げる価値のあるアイディアだと思います。


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