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05 Sustainabilityの複雑さを保ちながら

持続可能性、サスティナビリティ、Sustainability、、、
正直いえば、この手の話はたびたび胡散臭くなる時がある。それは持続可能性というワードですべてを物語ろうとした時な気がする。「俺は地球の資源はもっと消費してなんぼだと思っている!」なんて人はいないから、逆にみんなが良いと言ってるからとりあえず行動の大義のために言及していて損はない、みたいな。企業側だとグリーンウォッシュみたいなことはあるし、逆に消費者側でもどうしてそんなに怒ってるの?という時もたまにある。

建築家のレムコールハースさんは、


”But now sustainability is such a political category that it’s getting more and more difficult to think about it in a serious way. Sustainability has become an ornament.”                    - Rem Koolhas

と、サスティナビリティはその専門分野の複雑さ故に、ただの言葉の装飾になっちゃってない?とい皮肉多めで言及していたりする。
マルクスのいう「官僚制的行政が優越性を獲得する手段は専門的知識である」という意味でも専門分野の高度な専門化は多数の人数を誘導するための政治的手段として機能するから複雑なサステナビリティとは確かに相性が良さそう。経済発展を促そうとする先進国において、持続可能性というワードで経済をドライブさせるというのはわかる。一方で、持続可能性は、そもそも資源の枯渇に対する危機感、途上国の開発の環境弊害等から始まったコンセプトという理解で、1962年のSilent Spring とか、1972年のThe Limits to Growth といった論で警鐘が鳴らされて、1973年の石油危機等で、資源問題は経済危機に直結しうると当時の人々は腹で理解して「倹約」的アンチ資本主義から始まったわけですが、無論大方の論点に反対する人はいないと思いますが、当時は全員がこれに賛成するわけでもなく、なぜなら、資本主義経済の前提で中で実際に経済を動かしているような資本を持つ人にとって「倹約」なんて随分面白くないコンセプトだったと思われるからです。持続可能性 Sustainabilityというワードはその点、画期的で、正確にはSustainable Development「持続可能な開発」ですが、これが国際カンファレンスで初めて大々的に認知されたのは、1987年での国連での宣言で、以下のような定義をしています。


"Development which meets the needs of current generations without compromising the ability of future generations to meet their own needs"                     -Gro Harlem Brundtland

キモは、資源の持続的利用と経済発展を両立させようぜ という上手いコンセプトにあって、ここから先進国と途上国が共同で環境課題に向き合うテーブルを作ることができたんじゃないかと。

ちなみにデンマークのスターアーキテクトBjarkeさんもHedonistic SustainabilityというタイトルでTEDプレゼン していたりしますが、直訳すると「快楽的持続可能性」です。(小泉さんのセクシー発言がかわいくみえる)BIG設計のAmager Bakke は、火力発電所とスキースロープを合体させた施設で快楽的持続可能性の分かりやすい事例ですが、この建物はコペンハーゲン市内の少し高い所にいけば何処からでも見える今やランドマーク的な建物で、意外と住居地域と距離が近いです。ごみ処理施設だけど若者が好きそうなイケテる感じのデザインで、騒音とか匂いとかは私が行った時は感じず、例えば発電所の壁でボルタリングができたりするようです。火力発電所と住居の近接のメリットとしてコペンハーゲン市内からのごみの輸送コストは削減でき、またコペンハーゲンのDistrict Heating(地域熱供給)への熱供給を送る仕組みを作りやすくなります。デンマークではこういったゴミを焼却したエネルギーでDistrict Heatingの25%を賄っているとか。

このような楽観主義的な持続可能性の実践は多くが、このようなプロダクトの使用と廃棄が、次の製造のためのマテリアルかエネルギーの供給に繋がるような環状システムを作るという発想のもとに構築されています。この辺りのコンセプトは、William McDonoughの Cradle to Cradle のコンセプトによってより具体的になったといえます。

“Con­nect­ing to nat­ural flows al­lows us to re­think every­thing under the sun: the very con­cept of power plants, for en­ergy, habi­ta­tion and trans­porta­tion.” - cradle to cradle

持続可能性への道は、まず複雑なサステナビリティの概念をどうやって複雑性を保ったまま咀嚼することができるか、その鍵は、ひとつひとつの要素やアクターを、フロー、ネットワークやクラスター化で整理して繋がりとバランスの中で理解するということじゃないでしょうかと。

今一度、複雑なサスティナビリティを複雑なまま整理しなければと思っていた頃、ちなみに、私の母校である京都工芸繊維大学大学院では大学院教育の集大成である修士設計の前課題として修士計画と呼ばれる、いわゆる修士論文の体裁のものをやるのですが、せっかくなのでSustainability概念をテーマにしようということにしました。特に建築業界におけるSustainabilityの概念にフォーカスして、統計等で用いられる多変量解析(数量化3類*1)という手法を用いて持続可能性を計算して理解してやろうと思いました。この分野は先行研究*2があるので手法を参考にしつつ、今回は、実際に建設された建設プロジェクトをベースにした解析をするため海外のWeb建築マガジンから3419件のSustainabilityに関するプロジェクトを収集し掲載されているテキスト、ビルの属性(竣工年数、面積、国等)からデータセットを制作し、これに統計分析にかけました。何を言ってるかというと、実際のサステナブルな建築プロジェクトで使用されているキーワードの傾向を解析することを通して、サステナブルな建物がどのような概念に言及しがちなのか、どのワードとワードは関係が近いかを見る等すれば、統計的にサステナブルという概念がワードの群として理解できるんじゃないかと思ったわけです。すると

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数量化分類3類によって3419のプロジェクトのテキストから以上のようなワードマップが得られます、この場合、2つの評価軸によってワードがマッピングされていて、グラフ上で距離が近いほど何かしらの関係が近いことを表現しています

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ここからワードクラスターを抽出し、近接してると思うものを抽出していきます。landscape, nature, bamboo, lsland, relation...はsense of nature、のような要領で。こうして見えてくるのは、世界の竣工済みのサステナブル建設に共起する39のカテゴリーです。

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これはいわば統計的に導かれたサステナブル建築の概念といえる?この39カテゴリーをLEED(US), BREEAM(UK), CASBEE(JP)*3と比較してみると、

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凡そ既存の環境建築評価項目とも合致します。違いがでてくるのは、廃棄物処理のマネジメントと防音処理に関する項目で、LEED等の評価基準では言及されているものの、今回の実施プロジェクトから作られたデータセットからは、この2項目への言及は見られず、逆にいえば、この2つは現実のプロジェクトでまだ実践が薄いといえるのかもしれない。

で、さらに進めて、39の評価指標を得ることができたので、これによって逆に3419件の建設プロジェクトをスコアづけしてランキングにしたり属性マッピングしたりできます。

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例えば、スコア上位7の156サンプルを抽出してプロジェクトの国分布を見るとこんな図を得られたり。バーが長いほどサステナブルなプロジェクトが多い国。カテゴリーのまとめ方とかスコア付けのルールによって細かくは変わってくるので、あくまで一例ということで。

さらに、156の建築プロジェクトに対して行われた39項目のスコアの傾向から逆にプロジェクトを評価してマッピングできます。1つ例として、マッピングしたプロジェクトを国ごとの色分けして領域で分けると以下のような図に。

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結果だけいえば、各国の環境建築の微妙なポジショニングの違いが見えてきます。例えばUKはどうやら人間性を扱ったプログラムアプローチが強そうだなとか、オーストラリアは案外バランスいいなとか、オランダとデンマークはシステムxオブジェクトに沿うようなプロジェクト分布の傾向が似ているなといったことです。

こんな感じで複雑なサスティナビリティを複雑なまま理解する手法として統計解析を用いることで、一言でサステナビリティとは、と表現する以外の手段を得るための手掛かりにはなったように思いました。

ちなみに、先の国別マッピングの結果を見ていて、デンマークの建築提案てけっこうオブジェクトよりなのかなと思えばKADKはAEEに限らず1/1のディテールとかよく作るし、実務シーンでもモジュールのシェイプの提案とか多いから実感と近い感じもする。具体的な形の提案の方が産業のドライバーになるときもある気がしたので、デンマークに身をもう少し置いてみるのはいいかもと思ったというのはありました。この論文をやっていたのが、2018年5月ごろ、インターン探していた時期と同じタイミングで論文だったので、働く前にデンマークをいったん離れサスティナビリティを歴史やコンセプトの広がり等を概観し整理してから、さて、次回からインターンが始まります。


*1 数量化3類は目的変数がなく、説明変数がカテゴリーデータである場合に適応できる多変量解析のひとつ。データをダミー変数等に変換しつつ多変数から潜在的な変数を見つけ出す手法。

*2  Shibuya, Kishimoto “A Study on Design Methods and Characteristics of Sustainable Buildings in Europe and Japan” (2005)

*3 LEED, BREEAM, CASBEEはそれぞれUS,UK,日本で開発された環境建築認定制度。それぞれが環境建築が満たすべき多面的な評価指標を備えている。これら指標によって評価される点数が一定以上を満たすことでレベル分けされた環境建築認定を受けることができる。

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