8/6 蜜蜂と遠雷

 今日に日付が変わって数時間経った深夜、遅ればせながら『蜜蜂と遠雷』(恩田陸著)を読み終わった。

 『蜜蜂と遠雷』、直木賞にノミネートされたときからピアノものだと知って興味を持っていたのに、直木賞を獲って、さらには本屋大賞まで獲って、おもしろさは保証付きになっているのに、ハードカバーの厚み(500ページ超)に怯んで後回しにしていたら、そのうちにもう上下分冊の文庫がでてしまって、なんなら映画化も決まって。いつ読むんだ、映画公開のタイミングか? と思っていたのだけれど。数日前、積読タワーの中ほど、草原の黄緑の絵と、その草に埋もれるように書かれた白文字のタイトルの分厚い背表紙が妙に目にとびこんできた。読むときがきた、と読み始めて3日、深夜に読み終わって、満足と心地よい疲労感を感じながら寝て、気持ちよく起きて。読み終わって半日経った今も、まだ気持ちは物語の世界の中、コンクールが終わったあとのホールの、誰もいなくなったロビーにいて、いすに座ってぼーっとしている。

 日本で開催される国際ピアノコンクールを舞台に、3人の若く才能溢れるコンテスタント(ピアニスト)を中心に、他のコンテスタントや審査員、コンテスタントの周りの人たち、コンクールを運営する側の人たち等、様々な人の視点で、コンクール予選から本選結果発表後までが描かれる。

 コンテスタントたちが自分の音楽と向き合って・掴み取っていく様子や、審査する側の葛藤、コンクールという弾き場所の特異さや残酷さ等、いろんなことを感じるけれど、やっぱり、ピアノ演奏の描写がすごい。

 読み終わって、「ピアノ弾きたい」「ピアノ聴きたい」と強く思った。登場人物たちが作品内でピアノを弾くたび、その音楽の描写がある。その描写を読んでいると、知らない曲でさえ、不思議と『聴こえてくる』気がする。また、それが人の心を動かす天才たちの演奏なものだから、自分も影響を受けて、すぐにでも鍵盤に向かいたいような気持ちになってくる。あくまで、自分の想像の範囲の、自分の脳みそが勝手につくりだした、自分の頭の中で鳴っている音のはずなのに、そんなふうに感情を動かされるなんて、不思議で、変で、おかしくて、おもしろい。……って、違うのか。頭の中の音楽と、そのもとになった小説の力か。そもそも、頭で音を鳴らしているのも、小説だ。文章の力だ。

 音楽ものの小説やマンガを読んでいて、その曲を知らなくても、勝手に頭の中で音が鳴るの、おもしろい。同じものを読んだ他の人の頭の中では、どんな音が鳴っているのか、興味がある。その答えの例として、作品中に出てくる曲を集めたCDが少なくとも2種類出ているようだ。聴いてみたい。聴きながら小説を読み直すのもいいかもしれない。

 しばらく、ピアノ曲ばっかり聴いてしまいそうだ。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?