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2019ベルリン観劇記録(17)『Demokratie』

10月23日

Demokratie デモクラシー

劇場 Deutsches Theater ドイツ座

作 Michael Frayn マイケル・フレイン

翻訳 Michael Raab

演出 Tom Kühnel, Jürgen Kuttner 

舞台美術 Jo Schramm 

衣装 Daniela Selig

音楽 Markus Hübner 

映像 Jo Schramm, Marlene Blumert 

ライブカメラ Marlene Blumert, Kristina Trömer 

ドラマトゥルギー Claus Caesar


マイケル・フレインはイギリスの劇作家だ。『デモクラシー』では、西ドイツで1969年から74年にかけて第四代連邦首相を務めたヴィリー・ブラントと、後に東ドイツのスパイであることが暴露される秘書ギュンター・ギヨームの温かい交流、党幹部たちとの腹の探り合いが、エスプリの効いた会話で描かれる。



時代を感じさせるくすんだ黄色のカーテン、上下の扉、回る盆の使い方が非常に巧みで、政治の中枢にいる者たちのスピード感や遊説での移動距離を表す。度々挿入される懐メロのリップシンクが良いブレイクタイムとなり、身体を揺らしたり、ピーピーと口笛を上げたりと観客たちは大いに楽しんでいた。特に、憔悴しきったブラントが酒を飲んでベットで横になっている最中に「ライオンは寝ている」が流れ、党幹部たちが並んで踊る姿は爆笑をさらった。

3時間10分ほどの上演と知り身構えていたのだが、休憩までの最初の2時間があっという間だった。登場人物がみな政治家ということもあり、発話が非常に明瞭でロジカル(日本とは違う!)なため、理解しやすく聞こえが良い。わかりやすく「キャラ立ち」した政治家たちを演じる年齢や体つきの違う俳優は、誰もが生き生きとして楽しそうだった。中には東ドイツ生まれの俳優もいるのだから、このような作品の翻訳上演に対する思いは大きいだろう。

おそらくドイツ座での上演のために挿入されたオリジナルの独白シーンがあり、「なぜ今、ドイツ座でこの作品をやるのか」を熱く語る。「ヴィリー・ブラントが、最後の誠実な政治家だった。もう本物の政治家はいない」と、現在の政治状況を皮肉り、劇場からは拍手喝采だった。

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スパイに関する情報の誤読が分かる重要なシーンを案外あっさりと軽妙に作って笑わせ、スパイでありながら献身的にブラントを支えたギヨームが逮捕、帰国するシーンもしんみりしっとりさせていない。十中八九ドイツではそうなんだけれども、やたらに心理芝居をさせない演出が好きだ。党内の政敵である ヘルベルト・ヴェルナーを演じる東ドイツ出身のBernd Stempel と、後の第五代連邦首相であるヘルムート・シュミットを演じるAndreas Döhler は、そもそも美味しい役を本当に美味しく演じていた。

ドイツで観られるお芝居の本数が増えたり、資料を購入し易くなったり、作業をしに行くカフェでコーヒーをお代わりできたりします!